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中国・遼寧省の西部、建昌県にある喇嘛洞(ラマドン)という町の近くで、地元の農家が一枚の石板を掘り出しました。中には全長57センチの小さな恐竜が、頭から尾の先まで、ほぼ関節のつながったまま横たわっていました。石板は2023年に河北地質大学の博物館へ寄贈され、寄贈者は名前を出さないことを希望したそうです。
2026年9月29日、この標本を新属新種として記載した論文が『Nature Communications』に載りました。中国地質科学院の王旭日(Xuri Wang)氏、イタリアのOPHIS古生物博物館のアンドレア・カウ氏らによるもので、学名はノレルラプトル・バルスボルディ(Norellraptor barsboldi)。属名はアメリカの古生物学者マーク・ノレル、種小名はモンゴルの古生物学者リンチェン・バルスボルドにちなみます。二人は鳥に近い恐竜の研究を長く引っ張ってきた人物で、どちらも2025年に亡くなりました。その追悼が込められた名前です。
見つかった地層は九佛堂層(きゅうぶつどうそう)。羽毛恐竜の宝庫として知られる熱河(ねっか)層群の一部で、白亜紀前期、およそ1億2000万年前ごろのものとされています。
四枚の翼を持つ小型捕食者
ノレルラプトルはドロマエオサウルス科、つまりヴェロキラプトルの仲間です。ただしその中でも「ミクロラプトル類」と呼ばれる、小型で鳥に近い一群に入ります。
ミクロラプトル類の特徴は、前あしだけでなく後ろあしにも長い風切羽(かざきりばね、翼の面を作る羽)が生えていたことです。前後で合わせて四枚の翼を持つ、という体のつくりで、2003年にミクロラプトル本体が報告されたとき、この姿は大きな話題になりました。木から木へ滑空していたのか、羽ばたいて飛んでいたのか、いまも議論が続いています。
ノレルラプトルは、そのミクロラプトル類の中でも進化の遅い段階に位置づけられ、いちばん近い親戚はゾンジャノサウルスという別の小型種でした。歯は先が曲がって縁にギザギザがあり、足の第2指には大きく反った爪。体格からすると、狙っていたのは小さな哺乳類やトカゲ、両生類、生まれたばかりの恐竜あたりだったと、Live Scienceの取材に答えた研究者は見ています。

骨の内部も調べられました。左前あしの橈骨(とうこつ、前腕の骨の一本)を薄く切り出して顕微鏡で見ると、成長が止まった跡の線が2本残っていました。骨の内側が後から吸収されて1年分が消えている可能性を見込むと、死んだときの年齢は少なくとも3歳。最後の成長停止のすぐ後に死んでおり、体はほぼ出来上がっているものの、完全な成体とは言い切れない段階だったようです。
鳥との共通点をめぐる長年の問い
ここからが本題です。ミクロラプトル類は鳥にそっくりな特徴をたくさん持っています。けれども鳥の祖先ではありません。系統の上では、鳥(正確にはアヴィアラエというグループ)のすぐ隣の枝にいる親戚です。
そうなると、素朴な疑問が出てきます。鳥とミクロラプトル類の両方が飛行に向いた体を持っているなら、それは共通の祖先がすでに持っていたものを、両方が受け継いだのか。それとも、別々の枝の上で、それぞれが自分で作り上げたのか。
前者なら「飛行の原型は鳥とミクロラプトル類が分かれる前に一度だけ生まれた」ことになります。後者なら「飛行は少なくとも二度、独立に発明された」ことになります。この二つの説は20年以上、決着がついていませんでした。
今回の論文は、ノレルラプトルの全身骨格が加わったことで、この問いに数字で切り込んでいます。
194個の変化と重なる3割
研究チームは、ミクロラプトル類が進化の過程で獲得した解剖学的な変化を系統樹の上に並べました。全部で194個あります。頭の骨の穴の形、尾の関節の位置、肋骨につく突起の数、胸骨の長さ、手首の骨の癒合、指の長さの比率。そうした一つひとつの変化です。
そして、その194個のうち、鳥の系統でも同じように起きていた変化を数えると、57個。全体の約30%でした。
その中には、飛行と直接関係しそうなものが並びます。肋骨に張り出した突起が骨とくっついて胴体が硬くなる。胸骨が縦に長くなり、左右の胸骨が中央で癒合する。前あしの骨が後ろあしに比べて太くなる。尺骨(しゃっこつ、前腕のもう一本)が上腕骨より長くなる。手首の半月形の骨が手の甲の骨と一体化する。小翼羽(しょうよくう、翼の前縁につく小さな羽の束)が現れる。どれも現代の鳥の翼を支えている部品です。
3割が重なる。この数字だけを見ると、「やっぱり共通の祖先から受け継いだのでは」と思えます。
同じ部品、異なる組み立て順
ところが、57個の部品が「いつそろったか」を系統樹の上で比べると、両者はまったく別の道を歩んでいました。
ミクロラプトル類では、まず手の指が短くなる変化が起きます。親指の第1指骨が第2中手骨より先へ伸びなくなり、第2指・第3指の先から2番目の骨が根元の骨より短くなる。物をつかむ手としての機能を手放していく変化で、これはミクロラプトル類の枝の根元、つまりグループが生まれたごく初期に起きました。手首の骨が癒合し、上腕骨の付け根に穴が開き、胸骨が長くなるのは、その後です。ミクロラプトル本体を含むもっと内側のグループになってから起きています。
鳥ではこの順番が逆です。手首の癒合や胸骨の延長は尾が短くなった段階(ピゴスティリアという分岐点)ですでに起きていて、手の指が短くなるのはさらに後、オルニトトラケスという分岐点まで待たなければなりません。
研究チームは、57個の変化が起きる順番を両系統で並べて、統計的に相関があるかを調べました。結果は、相関係数マイナス0.08、p値0.50。つまり、順番に関係は見つかりませんでした。前あしと胸まわりの変化だけに絞っても同じで、関係なし。
これが何を意味するか。もし共通の祖先から「飛行の作り方」を受け継いでいたなら、部品はおおむね同じ順序でそろっていくはずです。設計図が同じなら、組み立ての手順も似る。ところが実際には、同じ部品が、まるで無関係な順番で追加されていました。到着点は似ているのに、そこまでの道順が違う。研究チームはこれを、ミクロラプトル類が鳥とは独立に、自前で飛行装置を組み上げた証拠だと解釈しています。
念のため、系統解析でミクロラプトル類を無理に鳥のグループの中へ押し込んでみる、という検証もしています。すると、いちばん筋の通った系統樹よりも23段階も余計な進化を仮定しなければならなくなりました。鳥の中に入れるほうが、はるかに無理がある。この結果も「別々に発明した」説を後押しします。

骨の内部が示す別の成長パターン
骨の断面からも、もう一つ気になる手がかりが出ています。
現代の鳥では、飛べる種ほど前あし(翼)の骨が後ろあしより速く育つ傾向があります。カモの仲間がその例で、翼は後から急いで作られ、脚は早くから使えるように先に出来上がる。飛行に使う部位は、最初からゆっくり丈夫に作るより、あとで一気に伸ばすほうが理にかなっているからです。
ところがノレルラプトルの橈骨は、成長が途中で何度も止まり、骨をつくる細胞の並びも整然としていました。一方で、近縁のミクロラプトルの脚の骨(別の標本)は、成長が途切れずに続いています。前あしのほうが早く成長を切り上げ、脚があとまで伸び続けている。現代の鳥とは逆向きのパターンに見えます。
研究チームはこれを「四枚翼の恐竜は、前あしを早熟に仕上げる独自の成長様式を持っていたかもしれない」と述べています。ただし断面を調べた標本はごく少なく、あくまで予備的な指摘です。もしそうなら、飛行の作り方だけでなく、翼の「育て方」まで鳥と違っていたことになります。
残る不確かさ
おもしろい結果ですが、いくつか押さえておきたい点があります。
まず、ノレルラプトルの標本そのものでは羽毛の保存があまり良くありません。前あしのそばに非対称の風切羽らしいものが残り、尾の先には軸の目立つ羽が確認できますが、後ろあしまわりの羽毛は「単純な羽毛」としか記されていません。この個体が四枚の翼を持っていたというのは、ミクロラプトル類という系統からの推定です。
次に、成長パターンの話は上に書いたとおり予備的なものです。前あしと後ろあしを同じ個体で比べたわけではなく、別種の別標本との比較です。
それから、今回の系統解析は別の大きな結果も出しています。ハルシュカラプトル類とウネンラギア類という、これまでドロマエオサウルス科に入れられていたグループが、実はドロマエオサウルス科よりも鳥に近い位置に来た、というものです。これが正しければ、鳥の祖先の姿を考えるときにミクロラプトル類を参考にする、というやり方そのものを見直す必要が出てきます。ただしこの系統関係は研究者のあいだで意見が分かれていて、今回の結果だけで確定するものではありません。
とはいえ、飛行に向いた体を持つ恐竜のグループの中で、鳥とは違う順番で部品がそろっていったことが、数字として示されたのは大きな一歩です。翼を持つ動物は一つの設計図から生まれたのではなく、近い親戚どうしが、それぞれの手順で空へ向かっていた。ノレルラプトルの小さな全身骨格は、そういう見方に一票を投じています。
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出典
Wang, X., Ji, Y., Cau, A., Kundrát, M., Liu, Y., Wang, Y., Ji, Q. (2026). Independent assembly of the flight apparatus in a non-avian dinosaur clade. Nature Communications, 17, 10074.
論文(Nature Communications、オープンアクセス)


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