【オルドビス紀の生物】カブトガニ – 4億4500万年前の化石が、すでに今の姿だった

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名前カブトガニ(英名 horseshoe crab=馬蹄形のカニ。学名の Xiphosura は「剣の尾」の意味)
分類節足動物 鋏角類(きょうかくるい) カブトガニ目。カニではなく、クモやサソリに近い
時代オルドビス紀(約4億8000万年前)から現在まで
最古級の化石カナダ・マニトバ州(ルナタスピス、約4億4500万年前)。名前のついていない、さらに古い化石がモロッコや北米から報告されている
全長現生種(日本のカブトガニ)で尾剣まで含めて50〜80cm。最古級のルナタスピスは数cm
体重現生種のメスで1.4〜4kg、オスで0.6〜1.7kg
現生種4種(日本のカブトガニ、アメリカカブトガニ、ミナミカブトガニ、マルオカブトガニ)

カブトガニは、丸い甲羅と剣のような尾をもつ、海底を歩く節足動物です。名前にカニとつくものの、エビやカニの仲間ではなく、クモやサソリと同じ鋏角類に属します。仲間は約4億8000万年前のオルドビス紀にはすでに海にいて、三葉虫と同じ時代に登場しながら、三葉虫が消えたあとも生き続け、いまも世界の海岸に4種が残っています。約4億4500万年前の化石が現在の姿とほとんど変わらないことから、「生きている化石」の代表として知られます。

姿と暮らし

体は前から順に、馬の蹄(ひづめ)の形をした大きな前体、台形の後体、そして細長い尾剣(びけん)の3つに分かれます。前体の背中には一対の複眼があり、ほかにも小さな単眼が数か所に散っています。脚はすべて甲羅の下に隠れていて、裏返すと6対の付属肢が並びます。いちばん前の一対は小さなハサミで、口へ食べ物を運ぶための道具です。続く5対が歩くための脚で、その根元に生えたトゲで餌をすりつぶします。カブトガニには顎(あご)がなく、脚の根元で噛む格好になります。

後体の裏側には「書鰓(しょさい)」と呼ばれる薄い板が本のページのように重なった呼吸器があり、水中で酸素を取り込みます。尾剣は武器ではなく、波にひっくり返されたときに体を起こすための支えです。

暮らしの場は、浅い海の砂や泥の底です。底を歩きながら、二枚貝やゴカイなどの小さな動物を掘り出して食べます。産卵の時期になると大潮の満潮にあわせて砂浜へ上がり、メスが砂の中に卵を産み、オスが後ろにつかまって受精させます。孵化した幼生は尾剣がまだ短く、丸い体で泳ぐ姿が三葉虫に似ていることから「三葉虫型幼生」と呼ばれます。成体になるまでに十数回の脱皮を重ね、成熟までに10年以上かかります。

血液が青いのも特徴です。ヒトの血が鉄で酸素を運ぶのに対し、カブトガニは銅を含むヘモシアニンで運ぶため、酸素と結びつくと青く見えます。この血液の細胞は細菌の毒素に触れると固まる性質があり、その抽出液は注射剤や医療機器に細菌が混じっていないかを調べる検査に使われています。

化石に残った最後の歩み

カブトガニの化石で最もよく知られているのは、ドイツ南部のゾルンホーフェンから出るジュラ紀後期(約1億5000万年前)のメソリムルスです。ゾルンホーフェンは始祖鳥の化石でも有名な、細かい石灰岩の産地です。当時この場所は外海から切り離された潟(ラグーン)で、底のほうは酸素がなく塩分が濃かったため、流れ込んだ生き物は腐らずに残りました。

2002年、この石灰岩の採石場で全長9.7mの足跡の化石が見つかりました。足跡と尾剣を引きずった跡が延々と続き、その終点には、跡をつけた本人であるメソリムルスが甲羅の幅12.7cmほどの若い個体として、そのまま横たわっていました。嵐で潟に流し込まれた個体が、酸素のない底を歩き続け、力尽きた場所で化石になったと解釈されています。歩き方は途中で何度か変わっており、まっすぐ進む区間、体を左右に振る区間、前体を底に押しつけた区間が読み取れます。この標本は2012年に記載され、生き物本体と足跡がセットで残った「死の行進(mortichnia)」の化石としては完全なものの中で最長とされています。

足跡と本体が一緒に見つかる例は、化石全体の中では非常に珍しいものです。ふつう足跡の化石は「誰がつけたか」を推定するしかありませんが、この標本では推定の必要がなく、1億5000万年前のカブトガニがどう歩いたかを直接たどることができます。

4億4500万年前に、すでにこの姿

カブトガニ類で最も古い、名前のついた化石は、カナダ・マニトバ州の約4億4500万年前(オルドビス紀末)の地層から見つかったルナタスピスです。2008年に記載され、学名は「暁(あかつき)の、三日月形の盾」を意味します。体長は数cmしかありませんが、三日月形の大きな前体、その縁に張り出したトゲ、背中の複眼、そして先のとがった尾剣という基本のつくりは、現生のカブトガニと見比べてすぐに同じ仲間と分かる形です。記載した研究者たちは、カブトガニ特有のこの体制が、それまで考えられていたよりずっと早い時期に、すでにでき上がっていたと結論しました。

その後の研究で、さらに古い化石の存在も報告されています。モロッコの約4億8000万年前の地層や、アメリカ・ユタ州とアイダホ州のオルドビス紀前期の地層から、まだ正式な名前のついていないカブトガニ類の標本が知られています。2026年にはサウジアラビア北西部のアルウラで、約4億6500万年前(オルドビス紀中期)のカブトガニ類が記載されました。すべての個体が背中を下にした裏返しの姿勢で残っており、嵐で運ばれたあと起き上がろうとしてかなわなかった跡だと解釈されています。同じ場所の複数の地層から繰り返し見つかることから、現生のカブトガニが毎年決まった浜に集まって産卵するのと同じような行動が、オルドビス紀にすでにあった可能性が指摘されています。

ここまでを見ると、カブトガニは4億年以上ものあいだ姿を変えずにきた生き物に見えます。しかし化石記録の全体をたどると、途中の姿はそれほど一様ではありません。石炭紀には淡水や沼地に進出した仲間がいて、北米やヨーロッパの炭田から多くの化石が出ています。ペルム紀から三畳紀にかけては、前体の縁のトゲが翼のように長く伸びたオーストロリムルス科という一群が現れました。オーストラリアのオーストロリムルスは前体の左右にツルハシの頭のような長い突起をもち、アメリカのヴァデルリムルスは前体がとがった兜のような形をしています。この科は三畳紀末の大量絶滅でほぼ姿を消し、2021年にドイツのジュラ紀最初期の地層から1属が見つかったのが、いまのところ最後の記録です。

種の数で見ても、カブトガニ類の多様性は三畳紀にいちばん多く、その後は白亜紀にかけて減っていきました。新生代に入ってから化石として名前がついた種は1つしかなく、現在残っているのは4種だけです。つまり「生きている化石」と呼ばれる今の姿は、カブトガニ類が試したいくつもの形のうち、絶滅をくぐり抜けて最後に残った1つの型です。4億4500万年前のルナタスピスと現生種が似ているのは、変化がなかったからではなく、この型に戻ってくる系統だけが生き延び続けてきた結果とみることができます。

分類の位置についても、近年見方が変わりました。カブトガニは長らく「クモやサソリの仲間(クモガタ類)に最も近いが、その外にいる祖先的な系統」とされてきました。2019年にウィスコンシン大学のチームがゲノム規模のデータを解析した研究では、どの方法で調べてもカブトガニがクモガタ類の内側に入る結果になり、カブトガニは「海に残ったクモガタ類」と位置づけられています。この結果には異論もあり、決着はついていませんが、いずれにしてもカニからは遠く、クモやサソリの側の生き物です。

いま日本にいるカブトガニ

日本にいるのは Tachypleus tridentatus という1種で、和名はそのまま「カブトガニ」です。現生4種の中でいちばん大きく、瀬戸内海と九州北部の干潟に分布します。岡山県笠岡市の生息地は1928年に国の天然記念物「カブトガニ繁殖地」に指定されていて、市内には専門の博物館もあります。干潟の埋め立てで生息地が減り、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは2019年に絶滅危惧種(Endangered)と評価されました。4億年以上続いてきた系統が、いま数を減らしている理由は、大量絶滅ではなく浜と干潟がなくなったことです。

出典

最古の命名種ルナタスピスの記載:Rudkin, Young & Nowlan, “The oldest horseshoe crab: a new xiphosurid from Late Ordovician Konservat-Lagerstätten deposits, Manitoba, Canada”(Palaeontology, 2008)

ルナタスピス発見時のロイヤル・オンタリオ博物館の発表:Ancient Horseshoe Crabs – Canadian Fossil Discovery Makes Waves(Royal Ontario Museum)

サウジアラビア・アルウラのオルドビス紀中期のカブトガニ類と裏返しの化石:Ordovician horseshoe crab body and trace fossil association preserved in a unique taphonomic setting(Gondwana Research, 2026)

ゾルンホーフェンの9.7mの死の行進:Lomax & Racay, “A Long Mortichnial Trackway of Mesolimulus walchi from the Upper Jurassic Solnhofen Lithographic Limestone near Wintershof, Germany”(Ichnos, 2012)

化石種と現生種の全体像・多様性の推移:Bicknell & Pates, “Pictorial Atlas of Fossil and Extant Horseshoe Crabs, With Focus on Xiphosurida”(Frontiers in Earth Science, 2020)

オーストロリムルス科の最後の記録:New horseshoe crab fossil from Germany demonstrates post-Triassic extinction of Austrolimulidae(Geological Magazine, 2021)

カブトガニをクモガタ類の内側に置く系統解析:Horseshoe crabs are really relatives of spiders, scorpions(University of Wisconsin–Madison / ScienceDaily, 2019。原論文は Ballesteros & Sharma, Systematic Biology, DOI: 10.1093/sysbio/syz011)

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