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中性子星は、太陽ほどの質量を直径20キロメートルほどに詰め込んだ星で、どれも強い磁場を持っています。その中に、ふつうの中性子星のさらに千倍ほど強い磁場を持つ「マグネター」と呼ばれる一群があり、中性子星全体の1%ほどを占めます。マグネターは、軟ガンマ線リピーターや高速電波バーストといった激しい現象の正体として有力視されていますが、そもそもどうやってそんな磁場ができるのかは、はっきり分かっていません。候補のひとつが、2つの中性子星の合体です。2026年6月に査読前の論文として公開され、Universe Today が10月20日に取り上げた研究は、その合体の瞬間をスーパーコンピューター「富岳」で、これまでにない細かさで計算したものです。結論を先に書くと、計算の中では、2つの星が触れてから5ミリ秒のあいだに、星全体のスケールの磁場が300倍以上に育っていました。
2つの星が触れる面で、何が起きるか
2017年に重力波 GW170817 とガンマ線バースト GRB170817A、そしてキロノバ AT2017gfo が同時に観測されて以来、連星中性子星の合体は理論と観測の両方で最もよく調べられている天体現象のひとつになりました。それでも、合体のあとに細いジェットが噴き出す仕組みや、大量の中性子に富む物質が放り出される仕組みは、まだ全体像が描けていません。鍵を握るのは磁場です。磁場が十分に強くなければジェットは出ませんし、物質の放出も弱くなります。ところが、合体前の中性子星の磁場は、観測されている連星パルサーで言えばせいぜい10の12乗ガウス程度で、ジェットを飛ばすには桁が足りません。合体のどこかで、磁場が一気に増幅されている必要があります。
その候補として以前から挙げられてきたのが、ケルビン・ヘルムホルツ不安定です。速さの違う2つの流れが接すると、境目が波打ち、やがて渦になって巻き込んでいく現象で、風に吹かれた水面の波や、ろうそくの煙が立ちのぼる途中で急に乱れる様子と同じものです。2つの中性子星が触れ合う面では、互いに逆向きに動く流体がこすれ合うので、この不安定が必ず起きます。渦が磁力線を引き伸ばして折りたたみ、磁場を強めていく。理屈はそうなのですが、この不安定は小さな渦ほど速く成長し、合体後の数ミリ秒しか働きません。しかも作られるのは細かく乱れた磁場で、星の大きさの磁場にまで育つかどうかは、計算の解像度が足りずに決着がついていませんでした。これまでの計算は、最初から非現実的に強い磁場を置く、星の一部だけを拡大して計算する、小さな渦の効果を手で入れた模型で代用する、のどれかでした。
6.25メートル刻み、5億3,000万コア時間
マックス・プランク重力物理学研究所と京都大学基礎物理学研究所の木内建太さんを筆頭とする4人のチームは、この問題に正面から取り組みました。星をいくつかの入れ子の領域に分け、2つの星が接する中心の約9キロメートルを6.25メートル刻みで、星全体を50メートル刻みで計算します。一般相対論、ニュートリノの輸送、磁気流体の効果をすべて自前で解く「NANASI」というコードを、富岳の約44万コアで走らせ、使った計算資源は合計で約5億3,000万コア時間でした。

計算した連星は、太陽の1.35倍の質量の中性子星が2つ、約44キロメートルの距離で回り合っているものです。最初に与えた磁場は最大で3.16×10の12乗ガウス。観測されている連星パルサーの上限に合わせた値で、著者たちはこれを「控えめな選択」と書いています。以前の同じチームの計算では、磁場の増幅を見るために最初から10の14乗や10の15.5乗ガウスという強い磁場を置いていました。今回は現実の星に近い弱い磁場から出発して、合体のたびに磁場が育つのかどうかを確かめようというわけです。計算は合体の直前から、合体後およそ5ミリ秒までを追いました。
3ミリ秒で飽和、星全体で300倍以上
2つの星が触れると、接触面にずれの層ができ、ケルビン・ヘルムホルツ不安定が立ち上がります。計算では、合体後1〜1.5ミリ秒で流れの乱れが乱流の理論どおりの分布(コルモゴロフ則)になり、その渦に引き伸ばされた磁場も、乱流ダイナモの理論が予言する分布(カザンツェフ則)に乗りました。磁場のエネルギーは小さなスケールから指数関数的に増え、合体後3ミリ秒ほどで、理論的に見込まれる飽和の水準である約10の50乗エルグに達します。急な成長は2ミリ秒ほどで衝撃波がずれの層を壊して止まりますが、磁場のエネルギーはそのあとも増え続け、計算を終えた5ミリ秒の時点でも伸びていました。

この研究でいちばん重要なのは、細かく乱れた磁場だけでなく、星の大きさの磁場が育った点です。磁場の分布を波長ごとに分けて追うと、合体前には星のスケールにあった山が、不安定の立ち上がりとともに細かいスケールへ移り、2ミリ秒を過ぎると今度は大きなスケールへ戻っていきました。小さな渦は、磁場のエネルギーが渦のエネルギーに並んだ時点で磁場に壊され、磁場の散逸は小さなスケールほど速いので、大きなスケールの磁場だけが生き残って育つ、という流れです。星のスケールの磁場は合体後1ミリ秒あたりから指数関数的に増え始め、5ミリ秒までにエネルギーで約10万倍になりました。磁場の強さに直すと、最初の3.16×10の12乗ガウスが1.0×10の15乗ガウス、つまり316倍です。局所的には10の16乗ガウス、場所によっては10の17乗ガウスに達する領域もありました。論文はこの結果を「マグネターが生まれた」と表現しています。
Universe Today の記事は「300倍以上」と書いていますが、これは星全体のスケールでの数字で、局所的な磁場はそれよりはるかに強くなっています。また記事は「1ミリ秒ほどで増幅が星全体に広がる」と書いていますが、論文の数字では、星のスケールの磁場が増え始めるのが1ミリ秒、飽和に届くのが3ミリ秒、星のスケールで316倍になるのが5ミリ秒です。
計算が言えること、まだ言えないこと
著者たちは、結果の限界も丁寧に書いています。ひとつは、磁場の散逸が計算の格子の細かさで決まっている点です。本物の中性子星の中では、磁場が消える長さのスケールは計算よりはるかに小さく、乱流の中での磁気リコネクションがどう効くかで、星のスケールの磁場の見積もりは10分の1ほどに下がる可能性があります。それでも10の14乗ガウスは残り、マグネターと呼ぶには十分だ、というのが著者たちの見立てです。
もうひとつは、できた磁場の形です。今回育った星のスケールの磁場は、赤道面のまわりにたまった磁場で、棒磁石のような双極子ではありません。ガンマ線バーストのジェットを飛ばすには、極に大きな磁場が要ります。それには別の仕組み、磁気回転不安定が働いて、磁場を双極子の形に組み直す必要があります。計算の終わりの時点で、合体後の星の中では磁気回転不安定が働く条件が満たされ、極方向の磁場が生まれ始める兆しが見えていました。チームはこの計算を続ける予定だと書いています。
今回の計算の意味は、ほかの手法との比較でもはっきりします。星の一部だけを2.9メートル刻みで拡大した先行研究では、磁場のエネルギーの増幅は約10万倍にとどまっていました。今回は星全体を扱って約10億倍です。小さな渦の効果を模型で代用した計算では、磁場の分布の変化が今回よりずっと遅く進みます。星全体を、小さな渦が解像できる細かさで計算して初めて、小さな乱れが星のスケールの磁場に育つ道筋が見えた、ということになります。
合体でできた星がすぐにブラックホールへつぶれてしまわない限り、連星中性子星の合体では少なくとも一時的にマグネターが生まれるのは避けられない、というのが論文のまとめです。実際、このブログでも以前、合体のあとに10分近く続いた X 線が、生まれたてのマグネターを指していたという観測の話を取り上げました。観測が示していた「合体後のマグネター」に、計算の側から道筋がついた格好です。この論文は査読前のプレプリントで、日本語のプレスリリースも見当たりません。評価はこれからですが、6.25メートルという刻みの細かさと、5億コア時間を超える計算の規模は、この分野でこれまでにないものです。
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出典
- Kenta Kiuchi, Alexis Reboul-Salze, Yuichiro Sekiguchi, Masaru Shibata, “A magnetar formation in binary neutron star merger”, arXiv:2606.11299(2026年6月9日、査読前):https://arxiv.org/abs/2606.11299
- Universe Today “A Magnetar Can Be Born When Two Neutron Stars Touch”(2026年10月20日、Brian Koberlein):https://www.universetoday.com/articles/a-magnetar-can-be-born-when-two-neutron-stars-touch


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