電気を通さないホウ素が半導体になった――17年ぶりの新しい同素体 Imma-B60

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ホウ素という元素は、周期表で炭素のすぐ左隣にある。名前だけなら、ホウ酸団子やホウケイ酸ガラス(耐熱ガラス)で聞いたことがあるかもしれない。純粋なホウ素の結晶そのものを目にする機会はほとんどないが、材料の世界では性格のはっきりした元素として知られている。とても硬く、もろく、そして電気をほとんど通さない。この三つがセットで、教科書でも実験室でも長らく「ホウ素とはそういうもの」として扱われてきた。

2026年9月23日、中国の燕山大学(えんざんだいがく)を中心とする研究チームが、この三つのうち二つを同時にひっくり返すホウ素の結晶を『Nature Chemistry』で報告した。名前はImma-B60。電気の通りやすさは従来のホウ素の100万倍を超え、しかも壊れる前に形が変わる。作り方も変わっていて、いったん別の元素と結びつけてから、その元素だけを抜き取っている。

同じ元素なのに別物になる「同素体」

話の前提として、「同素体(どうそたい)」という言葉を押さえておきたい。同じ元素だけでできているのに、原子の並び方が違うために性質がまるで違う物質どうしを、互いに同素体と呼ぶ。

いちばん有名なのが炭素で、ダイヤモンドと鉛筆の芯(黒鉛)はどちらも炭素100%だ。ダイヤモンドは原子ががっちり立体的に組まれているので世界一硬く、電気を通さない。黒鉛は原子が薄い層になって重なっているので、層がすべってやわらかく、電気もよく通す。中身は同じ、並び方だけが違う。それだけで硬さも電気の通り方も正反対になる。

ホウ素にも同素体はいくつもある。ただし炭素と違って、どれを見ても「硬い・もろい・電気を通しにくい」という点は共通していた。ホウ素の原子は12個で正二十面体(サッカーボールのような多面体)のかたまりを作りたがり、その固い部品がどう並ぶかの違いで同素体ができる。部品が同じなので、性格も似通ってしまう。透明なものや不透明なものはあっても、電気をよく通すものは出てこなかった。

17年間、新顔が現れなかった理由

ホウ素の変わり種の同素体が最後に見つかったのは2009年で、それから17年、目立った新顔は出ていなかった。理論計算では「こういう並び方も安定に存在できるはず」という候補がいくつも予言されていたのに、実物を作れずにいた。

理由は二つある。一つは、ホウ素がほかの元素とすぐに結びついてしまうこと。何かと混ぜて反応させると、純粋なホウ素の新しい形ではなく、ホウ素とその元素の化合物(ホウ化物)ができてしまう。もう一つは、ホウ素の原子がとても軽いことだ。原子の重さは水素のおよそ10倍しかなく、X線で結晶の中を調べても信号が弱い。できたものの構造を正確に見きわめる段階でつまずきやすかった。

「作るのが難しく、作れても確かめにくい」という二重の壁が、ホウ素の新しい同素体を長く遠ざけていた。

ナトリウムと組ませてから、ナトリウムだけを抜く

今回のチームが取ったのは、この壁を正面から越えるのではなく、迂回する手だった。

まず、ホウ素とナトリウムを高圧のもとで反応させ、ホウ素60個に対してナトリウム4個が入った結晶(Na4B60)を作る。これは普通にやればホウ化物ができてしまう、というさっきの「弱点」をそのまま使ったやり方だ。ホウ素の骨組みの中にナトリウムの原子が収まった、いわば足場つきの結晶ができる。

次に、この結晶を真空中で加熱する。ナトリウムはホウ素よりずっと蒸発しやすいので、骨組みを残したままナトリウムだけが抜けていく。ナトリウムをほぼ取り除いた後に残ったのが、ホウ素だけでできたImma-B60だ。「Imma」は結晶の対称性を表す記号で、「B60」は繰り返しの単位にホウ素が60個入っていることを示している。

できあがった構造は、ホウ素12個の正二十面体を、ホウ素3個の三角形がつなぎ合わせた網目になっている。そして肝心なのは、ナトリウムが座っていた場所が空洞のまま残っていることだ。詰まった結晶ではなく、あちこちに隙間のあいた「開いた骨組み」になっている。

隙間が変えた二つの性質

この隙間が、ホウ素らしくない二つの性質を生んでいる。

一つ目は電気の通りやすさだ。論文によると、Imma-B60の電気伝導率はおよそ900 S/m(ジーメンス毎メートル)で、代表的なホウ素の同素体であるβ型ホウ素と比べて7桁、つまり1000万倍近く大きい。『Nature』のニュース記事はこれを「一般的なホウ素材料の100万倍以上」と紹介している。電子が動くのに必要なエネルギーの隙間(バンドギャップ)が0.2 eV以下と非常に小さく、ほとんど金属に近い振る舞いをする半導体になっていた。

ただし、銅のような金属と並ぶわけではない。銅の電気伝導率は数千万 S/mのけたにあり、Imma-B60はそれよりはるかに小さい。「電気を通さない元素の代表格が、まともに電気を通す半導体になった」という驚きであって、電線の材料が生まれたという話ではない。

二つ目は、壊れる前に形が変わることだ。ホウ素は硬い代わりにもろく、力をかけると変形せずに割れる。ところがImma-B60で作ったナノメートルサイズの柱を押しつぶす試験では、割れる前におよそ23%も塑性変形(そせいへんけい)した。塑性変形とは、力を抜いても元に戻らない変形のことで、針金を曲げると曲がったままになるのと同じ種類の変化だ。硬い材料では起きにくく、ホウ素では考えにくかった。

これを可能にしているのが「転位すべり」と呼ばれる仕組みだ。結晶の中で原子の並びに一列ぶんのずれ(転位)があると、力をかけたときにそのずれが少しずつ移動して、結晶全体が割れることなく形を変えられる。金属が曲がるのはこの仕組みのおかげで、ぎっしり詰まった硬い結晶ではずれが動けないので割れてしまう。Imma-B60には隙間があるぶん、ずれが動ける余地があった、というのがチームの説明だ。

このB60という構造そのものは、今回の共著者でもある研究者が2019年に理論計算で「存在できるはず」と予言していたものだった。計算で先に姿が描かれ、7年後に実物ができたことになる。

ひとつの物質より、作り方のほうが大きい

ホウ素の三拍子のうち二つが崩れたこと自体もおもしろいが、この研究のいちばん大きな意味は、おそらく作り方のほうにある。

「別の元素と組ませて結晶を作り、あとからその元素を抜く」という手順は、ホウ素に対しては初めて使われた。原理の上では、ナトリウムの代わりに別の元素を入れれば、別の骨組みが残る。理論で予言されたまま作れずにいたホウ素の同素体の候補に、実物を作るための現実的な道筋がついたことになる。2009年の同素体発見に関わったスコルコボ科学技術大学のArtem Oganov氏は、『Nature』の取材に対して、この方法は新しいわけではないがもっとも洗練された使い方であり、影響は広い範囲に及びうると述べている。

いくつか割り引いて読む点もある。23%の変形はナノメートルサイズの柱で測ったもので、手に取れる大きさの塊が同じように変形するかどうかは別の話だ。高圧で合成する材料なので、大量に作るには相応の手間がかかる。電気伝導率も金属にはほど遠い。応用の話はこれからで、今の段階では「ホウ素にもこういう形がありえた」という発見として受け取るのが正確だと思う。

それでも、同じ元素の並びを変えるだけで、硬くてもろい絶縁体が、曲がる半導体になる。ダイヤモンドと黒鉛の話を、ホウ素でもう一度なぞって見せたような結果だった。

出典

Feng Chen氏らによる論文「An open-framework boron allotrope exhibiting high conductivity and plasticity」は、2026年9月23日付で『Nature Chemistry』に掲載されています(DOI: 10.1038/s41557-026-02267-7)。責任著者は燕山大学のXiao-Ji Weng氏とXiang-Feng Zhou氏です。研究の概要は『Nature』のニュース記事(2026年9月23日、Dhruv Shenai氏)で読めます。論文本文は有料ですが、要旨と図の一覧は上のリンク先で無料で確認できます。

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