
| 名前 | ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)。「暴君トカゲの王」の意味 |
| 分類 | 竜盤類・獣脚類・ティラノサウルス科 |
| 時代 | 白亜紀末(マーストリヒチアン)、約6800万〜6600万年前 |
| 発見地 | 北アメリカ西部(モンタナ州、サウスダコタ州、ワイオミング州、カナダのアルバータ州・サスカチュワン州など) |
| 全長 | 約12〜13m(最も完全な標本「スー」で12.3〜12.4m、「スコッティ」で約13m) |
| 腰の高さ | 約3.7〜4m |
| 体重 | 推定約5〜9トン(大型の個体で8.4〜8.9トン) |
| 頭骨の長さ | 最大で約1.5m |
ティラノサウルスは、白亜紀の終わりに北アメリカ西部で暮らしていた大型の肉食恐竜のなかまです。全長12mを超える体に1.5mの頭骨を載せ、陸上動物としては史上最大級のかむ力を持っていました。恐竜がいなくなる直前まで生きていた、最後の恐竜のひとつでもあります。学名は1905年に付けられましたが、この名前が正式なものとして確定するまでには、およそ100年の回り道がありました。
姿と暮らし
頭は幅が広く、後ろに向かって大きく張り出す一方で、鼻先は細くまとまっています。この形のおかげで両目が前方を向き、視野の重なる範囲は約55度と、現在のタカを上回ります。歯は上あごの前にある小さなノミ形の歯と、その後ろに並ぶ太くて厚いバナナ形の歯の二種類に分かれていて、いちばん大きな歯は根元まで含めると30cmに達します。多くの肉食恐竜の歯が薄い刃であるのに対し、ティラノサウルスの歯は骨ごと砕くための太さを持っていました。獲物の骨に残ったかみ跡や、骨のかけらが詰まった糞の化石が、その使い方を裏付けています。
後ろあしは体の大きさに対して長く、足の甲の骨は中央の1本が両側から締めつけられた形で束になり、歩くときの力を効率よく伝える構造になっていました。一方、前あしは全長が1mほどしかなく、指は2本だけです。ただし骨には太い筋肉が付いていた跡が残り、肘を曲げる力は成人の3倍を超えると見積もられています。小さくても飾りではなかった、という見方が現在は主流です。
食べていたのは、同じ地層から見つかるエドモントサウルスなどのハドロサウルス類やトリケラトプスです。トリケラトプスの腰の骨にティラノサウルスの歯形が残った例や、エドモントサウルスの尾の骨がかまれたあとに治った状態で見つかった例があり、死体をあさるだけでなく生きた獲物を襲っていたことが分かります。走る速さについては研究ごとに幅があり、時速20〜30kmほどとする推定が多く、体重を考えると全力で走れば脚の骨が持たなかったという計算もあります。速さで追いつくより、忍び寄って一撃で仕留める狩りに向いた体でした。
暮らしていたのは、当時の北アメリカを南北に貫いていた内海の西岸に広がる、川と森と湿地の平野です。現在のモンタナ州からサウスダコタ州にかけて広がるヘルクリーク層がその代表で、ここからはティラノサウルスのほかにトリケラトプス、アンキロサウルス、パキケファロサウルス、そして小型の哺乳類やワニ、カメが見つかっています。この地層のいちばん上には、小惑星衝突の痕跡であるイリジウムに富む薄い層が重なり、ティラノサウルスの時代が絶滅とともに終わったことを示しています。
復元はどう変わってきたか
1915年にアメリカ自然史博物館で公開された最初の全身骨格は、体を起こして尾を地面に引きずる、カンガルーのような姿勢で組まれていました。この立ち方は関節に無理がかかることが1970年ごろに指摘され、1992年にようやく組み直されます。背骨を地面と平行に近く保ち、尾を後ろに伸ばして頭と釣り合いをとる現在の姿勢は、映画などを通じて1990年代に一般に広まりました。
前あしも長いあいだ推測で描かれていました。1905年の時点で分かっていたのは上腕骨だけで、1915年の骨格には近縁のアロサウルスを参考にした3本指の長い腕が付けられていました。実物の前あしがそろった状態で見つかったのは1989年のことです。
羽毛については、初期のティラノサウルス類に羽毛の跡が見つかったことから、ティラノサウルスにも羽毛を描く復元が一時期増えました。ただし2017年に公表された皮膚化石の見直しでは、ティラノサウルス本体の首・腰・尾から見つかった皮膚の跡はいずれも細かいうろこで、羽毛があったとしても背中側のごく一部にとどまると結論づけられています。現在の復元は、うろこの体を基本にしています。
三度名付けられ、いちばん新しい名前が残った
ティラノサウルス・レックスの学名は、1905年にアメリカ自然史博物館のヘンリー・フェアフィールド・オズボーンが付けました。もとになったのは、1902年にバーナム・ブラウンがモンタナ州ヘルクリーク層で掘り出した部分骨格です。同じ論文の中でオズボーンは、ブラウンが1900年にワイオミング州で見つけていた別の骨格にも「ディナモサウルス・インペリオスス(Dynamosaurus imperiosus)」という名前を与えています。こちらには皮膚のよろい板が混じっていて、別の属だと判断されたためです。翌1906年、オズボーンは2体が同じ種であることに気づき、名前をティラノサウルスに統一しました。よろい板は、のちに一緒に埋まっていた別の恐竜のものだと分かります。
ところが、この2つよりも前に付けられた名前がありました。1892年、エドワード・ドリンカー・コープはサウスダコタ州で見つかった2個の巨大な背骨の化石に「マノスポンディルス・ギガス(Manospondylus gigas)」と名付けています。意味は「巨大な多孔質の背骨」で、コープはこれをトリケラトプスに近い角竜のものだと考えていました。1907年には獣脚類の骨だと訂正され、オズボーン自身も1917年の論文でティラノサウルスとの類似を指摘しています。ただし2個のうち1個はすでに失われており、残った1個だけでは種を決めるには足りないとして、オズボーンは正式な同一視を避けました。
動物の学名には「先に付けられた名前が優先する」という原則があります。もしマノスポンディルスとティラノサウルスが同じ動物なら、有効な名前は古いほうのマノスポンディルスになるはずでした。この問題が表に出たのは2000年6月です。サウスダコタ州のブラックヒルズ地質学研究所が、コープの化石が出たとみられる場所を突き止め、そこからティラノサウルスの骨格の約1割を掘り出しました。研究所のピーター・ラーソンは、これがコープの化石と同じ個体である可能性を示し、優先権の問題を公に提起しました。
ティラノサウルスの名前を守ったのは、その半年前に施行された規則でした。学名の運用を定める国際動物命名規約は2000年1月1日に第4版が発効し、その第23.9条で、古い名前が1899年以降まったく有効名として使われておらず、新しい名前が過去50年間に10人以上の著者による25以上の文献で使われている場合には、新しいほうの名前を維持すると定めています。ティラノサウルス・レックスはこの条件を大きく上回っていました。2003年にクリストファー・ブロシューがこの点を整理し、あわせて、風化の進んだコープの化石では新しく出た骨と同じ個体だと証明できないことも指摘しています。結果として、ティラノサウルスは「保護された名前」、マノスポンディルスは「忘れられた名前」として扱われることになりました。
1892年、1900年、1902年に見つかった3体の化石には、それぞれ別の名前が付けられました。最初の化石は角竜と誤認され、2番目の化石にはよろい竜の骨が混じって別属とされ、3番目の化石に付いた名前だけが残りました。100年以上あとにその順番が問い直されたとき、決め手になったのは化石そのものではなく、名前の運用を定める規則の改定でした。




出典
Osborn, H. F. (1905) Tyrannosaurus and other Cretaceous carnivorous dinosaurs. Bulletin of the American Museum of Natural History 21: 259–265:アメリカ自然史博物館デジタルライブラリー(ティラノサウルス・レックスとディナモサウルス・インペリオススの原記載)
Osborn, H. F. (1906) Tyrannosaurus, Upper Cretaceous carnivorous dinosaur (second communication). Bulletin of the American Museum of Natural History 22: 281–296:アメリカ自然史博物館デジタルライブラリー(ディナモサウルスをティラノサウルスに統合)
Osborn, H. F. (1917) Skeletal adaptations of Ornitholestes, Struthiomimus, Tyrannosaurus. Bulletin of the American Museum of Natural History 35: 733–771:アメリカ自然史博物館デジタルライブラリー(マノスポンディルスとの類似の指摘)
国際動物命名規約 第4版 第23条(先取権の原則):code.iczn.org(第23.9条「優先順位の逆転」)
Brochu, C. A. (2003) Osteology of Tyrannosaurus rex: Insights from a nearly complete skeleton and high-resolution computed tomographic analysis of the skull. Society of Vertebrate Paleontology Memoir 7: 1–138(骨学の記載と、マノスポンディルスの命名問題の整理)
Taylor, M. P. 「So why hasn’t Tyrannosaurus been renamed Manospondylus?」:The Dinosaur FAQ(命名規約の改定と命名問題の解説)
Bell, P. R. ほか (2017) Tyrannosauroid integument reveals conflicting patterns of gigantism and feather evolution. Biology Letters 13: 20170092(皮膚化石の見直し。うろこの証拠)
Stevens, K. A. (2006) Binocular vision in theropod dinosaurs. Journal of Vertebrate Paleontology 26: 321–330(視野の重なりの推定)
Persons, W. S. ほか (2020) An older and exceptionally large adult specimen of Tyrannosaurus rex. The Anatomical Record 303: 656–672(「スコッティ」の記載と体重推定)
大きさ・年代・標本の概要は、英語版Wikipedia「Tyrannosaurus」の項目に整理された一次文献も参照しました。


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