【オルドビス紀の生物】カメロケラス – 殻9mの巨体は、別の属のうわさだった

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名前カメロケラス(Cameroceras)。ギリシャ語で「部屋のある角」の意味
分類軟体動物門 頭足綱 エンドセラス目(内角石目) エンドセラス科
時代オルドビス紀(約4億8500万〜4億4400万年前)。とくに後期オルドビス紀に多い
発見地アメリカ・ニューヨーク州(トレントン石灰岩)をはじめ北米各地、スウェーデン、エストニア、中国など
殻の長さ種によって10cm台から約2m(最大種のカメロケラス・トゥリソイデス)。「6〜9m」とされる数字は、近縁のエンドセラスの標本や未確認の証言にもとづく
体重殻2m級で15kg前後(殻を円錐とみなした概算。殻5m級のエンドセラス類を約100kgとする推定に準じる)

カメロケラスは、まっすぐな円錐形の殻を持つ頭足類のなかまです。オルドビス紀の赤道付近の浅い海に広く分布し、北米、バルト海周辺、シベリア、中国から化石が見つかっています。イカやタコ、オウムガイと同じ頭足類で、殻の中に体を収め、開口部から頭と触手を出して暮らしていました。

この生物は「殻の長さ9m、古生代最大の動物」として図鑑やテレビ番組で紹介されてきました。ただし、実際に化石として確認できるカメロケラスの殻は最大でも2mほどで、9mという数字の出どころをたどると、別の属の標本と、写真も実物も残っていない証言に行き着きます。

姿と暮らし

殻は先端に向かって細くなる長い円錐形で、断面は円か、わずかに横に広い楕円です。殻の内部は隔壁で多数の小部屋に区切られ、その部屋を貫くように「連室細管」と呼ばれる管が通っています。カメロケラスをふくむエンドセラス類の特徴はこの管の太さで、種によっては殻の直径の半分に達します。管の内部には円錐形の石灰質の沈着物が幾重にも積み重なっており、これがエンドセラス目の名前の由来になった「エンドコーン(内錐)」です。近縁のエンドセラスとの見分けは主に殻の表面で、エンドセラスには細い輪状の隆起が並ぶのに対し、カメロケラスの殻はなめらかです。

エンドコーンは殻の先端側に集中しているため、動物の体が入る殻の口側だけが重くなるのを防ぐおもりとして働いたと考えられています。2019年に発表された浮力の計算では、このおもりのおかげで殻は水中でほぼ水平に保たれ、海底の近くを漂う暮らしに向いていたとされました。まっすぐな殻を持つ頭足類が全て縦向きに浮いていたわけではなく、エンドセラス類は水平姿勢の代表例として扱われています。

食べ物については、化石に残るのが殻だけなので直接の証拠は乏しく、現生のオウムガイとの比較から、触手で獲物を捕らえ、硬いくちばしで殻や外骨格を砕く捕食者と復元されるのが一般的です。カナダ・オンタリオ州の後期オルドビス紀の地層からは、大型の三葉虫イソテルスに噛み跡のような傷が治りかけたまま残った化石が見つかっており、傷の大きさから大型のエンドセラス類が加害者の候補に挙げられています。一方で2018年には、エンドセラス類の大型種は触手のあいだに膜を張ってプランクトンをこし取る懸濁物食者だったのではないかという説も出されました。この説は浮力の面から疑問視する意見もあり、決着はついていません。

カメロケラスが泳いでいた後期オルドビス紀の海には、三葉虫、腕足動物、ウミユリ、床板サンゴ、浮遊する筆石、そして顎のない魚類がいました。エンドセラス類はその中で最大級の体を持ち、バルト海周辺からニューヨーク周辺まで広い範囲で大型個体が大量に見つかることから、当時の海の生態系でかなりの生物量を占めていたと見られています。オルドビス紀末の大量絶滅でエンドセラス類の大半は姿を消し、まっすぐな殻の頭足類はその後も続きますが、この規模の大きさに戻ることはありませんでした。

「殻9m」はどこから来たか

カメロケラスの名前とともに語られる「9m」あるいは「10m」という数字には、化石の裏付けがありません。出どころは1955年に古生物学者ルソー・フラワーが書いた論文で、ニューヨーク州の採石場で長さ30フィート(約9.1m)のエンドセラス類の殻が見つかったが、回収されないまま壊されてしまった、という話を伝聞として記しています。写真も標本も残っておらず、計測した人物も特定されていません。

実物として確認できる最大の標本は、ハーバード大学の比較動物学博物館にあるエンドセラス・ギガンテウムの殻で、後期オルドビス紀のニューヨーク州から産出しました。残っている部分だけで長さ3mあり、殻の先端側と口側の両方が欠けています。この標本を1960年に記載したタイヒャートとクンメルは、全長を約8mと見積もりました。フラワーが伝えた30フィートの話は、この推定と並べると十分にありえる数字に見えたことになります。

その後、殻の広がる角度から幾何学的に全長を計算し直す方法で見積もりは下方修正され、2015年の研究では全長5.73mとされました。この値は体の入る部屋が殻全体の30%を占めると仮定したもので、エンドセラス類の完全な標本では体の部屋がもっと短い例が知られているため、実際にはさらに短かった可能性があります。2025年に発表された頭足類の体サイズの通史でも、ハーバードの3mの断片は現在知られている最大の頭足類の化石であり、9〜10mの報告は物的証拠がなく、確認された最長の標本の3倍以上の長さであることから疑わしいと明記されています。同じ論文は、エンドセラス類が総じて巨大だったという見方そのものが誤解で、大多数はずっと小さいと念を押しています。

そして、この最大の標本はカメロケラスではなく、エンドセラス属に分類されています。カメロケラスとエンドセラスは体のつくりがほとんど同じで、殻の表面の輪状の隆起の有無でしか区別できないため、両者を同じ属とみなす研究者もいました。フラワー自身もそのひとりで、この二つを区別しない立場をとっていました。2003年にイギリスBBCが制作した番組「Sea Monsters」は、ニューヨーク州の海を舞台に殻9〜10mの「カメロケラス」を登場させましたが、そのモデルはフラワーの伝聞と、属の境界があいまいだった時代の分類を組み合わせたものです。番組の影響で、9mの巨大頭足類はカメロケラスの名前で広まりました。

属としてのカメロケラス

カメロケラスは1842年にティモシー・コンラッドが、ニューヨーク州のトレントン石灰岩から産出した化石をもとに命名しました。この最初の標本はその後行方が分からなくなっています。元になる標本がないうえに当初の記載も簡単なものだったため、どの化石をカメロケラスと呼ぶかの基準が定まらず、この属は大型のまっすぐな殻を持つエンドセラス類の置き場所として使われてきました。あとから別の属に移された種も多く、エンドセラスも一時期はカメロケラスの一部と扱われたことがあります。

現在も両方の属は有効とされていますが、境界がはっきりしない種は残っています。属名の整理を別にして、カメロケラスと呼ばれている種の大きさを見ると、直径1cmほどの小型種から、スウェーデンのボダ石灰岩から産出した直径約17cm、全長約2mのカメロケラス・トゥリソイデスまで幅があります。「9mのカメロケラス」の代わりに残るのは、この2m級の種です。それでもオルドビス紀の海では最大級の動物であり、現在の海に置いても大型の頭足類に入る大きさです。

出典

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