死肉を食べる動物が「自分に近い種」を避ける理由

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死んだ動物は、そのまま自然に還るわけではありません。倒れた場所にはすぐに何かがやってきて、肉をついばみ、骨を運び、数日のうちに片づけてしまいます。動物の死骸(しがい)は、湿地や森で暮らす生き物にとって、狩りをしなくても手に入るごちそうです。

ただし、このごちそうにはリスクがあります。死骸には、その動物が持っていた病原体がそのまま残っている。食べる側にとっては、栄養と一緒に病気を取り込む可能性のある食事でもあります。

そこで昔から言われてきた仮説が一つあります。「死肉を食べる動物は、自分と近い仲間の死骸を避けているのではないか」。近い種ほど体のつくりが似ていて、同じ病原体にかかりやすい。だから遠い種の死骸を選ぶほうが安全だ、という考え方です。筋は通っていますが、これを野外で大規模に確かめた研究はほとんどありませんでした。

スペインの研究チームが、この仮説を約200体の死骸と自動撮影カメラで検証した結果を、2026年に生態学の専門誌『Ecology Letters』に発表しました。

湿地に置かれた約200体の死骸

舞台はスペイン南東部、アリカンテ県にあるエル・オンド自然公園です。アシ原と湿地、塩性の干潟が広がる場所で、狭い範囲にたくさんの種類の動物が暮らしています。生き物が多ければ、それだけ死骸も日常的に生まれる。腐肉食(ふにくしょく)、つまり死んだ動物の肉を食べる行動を観察するには都合のいい場所です。

研究チームは2020年2月から2021年5月まで、この公園に約200体の死骸を置きました。中身はコイ、ウズラ、カモ、ネズミ類、ウサギ。魚・鳥・小型哺乳類の3グループがそろっています。死骸の出どころは、道路で轢(ひ)かれた動物や、外来種のコイを駆除する作業で出たものなど。わざわざよそから運んできた珍しい動物ではなく、この公園で実際に死ぬ可能性のある種を、実際に死骸が出そうな場所に置いています。

各地点には自動撮影カメラを2台ずつ据えて、誰がいつ来て何を食べたかを記録しました。

この公園には、腐肉食の代名詞のようなハゲワシがいません。大型の肉食獣もいない。だからここで死骸を片づけているのは、ネズミ、キツネ、カササギ、モズといった、ふだん「掃除屋」とはあまり呼ばれない顔ぶれです。

「近い・遠い」を数字で測る

この研究の肝は、食べる側と食べられる側の「遺伝的な距離」を数字にしたところにあります。

使ったのは系統樹(けいとうじゅ)です。生き物の進化の枝分かれを樹形図にしたもので、2つの種が共通の祖先から分かれてどれくらいの年月がたっているかを読み取れます。たとえばキツネとウサギはどちらも哺乳類で、共通祖先からの分岐は数千万年前。一方、キツネとコイは魚と陸上動物の分かれ目までさかのぼるので、数億年になります。この「別々に進化してきた年数」を距離として扱いました。

そのうえで、カメラに写った「誰が何を食べたか」の記録と、もし種類を気にせずでたらめに食べていたらどうなるかをコンピュータで計算した結果とを比べました。実際の食べ方が偶然の予想からずれていれば、そこに何らかの選り好みがある、という判定になります。

遠い種を選んでいた

結果は、仮説の方向で出ました。腐肉食の動物は全体として、偶然に食べる場合より遺伝的に遠い死骸を食べていたのです。この傾向は「その死骸を食べる確率」と「食べた死骸の数」の両方で確認されました。

いちばんたくさん食べていたのはドブネズミで、38体の死骸に手をつけていました。その多くが魚です。ネズミから見て魚は、同じ哺乳類のウサギやネズミ類よりはるかに遠い相手。数字の上でも、いちばんの大食漢がいちばん遠い種を選んでいた形になります。

ただし、全員が同じように振る舞ったわけではありません。傾向の強さは鳥と哺乳類で違い、哺乳類のほうがはっきり出ていました。種ごとに見るとさらにばらつきがあります。

例外として名前が挙がっているのがイベリアオオモズです。この鳥が食べていたのは鳥の死骸だけでした。研究の中では数少ない、自分に近い相手を食べていた種です。モズは捕まえた獲物を木のとげに突き刺しておく習性で知られていますが、この研究では鳥の死骸に寄ってきていたことになります。

カササギとアカギツネは、どちらかと言えば「気にしない派」でした。遠い種を選ぶ傾向がはっきりせず、手近なものを食べていたようです。

仲間だからではなく、病気がうつるから

ここで大事なのは、「近い種の死骸を避ける」という行動を、仲間意識や共食いへの抵抗感のような話で説明しているわけではない、という点です。

研究チームが考える理由は感染のリスクです。近縁の動物ほど体の仕組みが似ているので、片方についている病原体がもう片方にも取りつきやすい。同じ哺乳類同士、同じ鳥同士のほうが、魚と哺乳類の間よりずっと病気がうつりやすいわけです。

だとすると、遠い種の死骸を選ぶことは、免疫が働くより前の段階で病原体を遠ざける「最初の防衛線」になります。感染してから体が戦うのはコストがかかる。食べる前に危ない相手をよけておけば、そのコストを払わずにすみます。

人間が「共食いはよくない」と道徳で語る行動を、動物は病気の確率で選んでいるのかもしれない、というのがこの研究の見立てです。

まだ言い切れないこと

研究チーム自身も、限界をいくつか挙げています。

まず、この研究では魚が「食べる側」に入っていません。水中で死骸を食べる魚がどう振る舞うかはわかっていません。また、写った回数がごく少ない種もあり、そうした種については傾向をはっきり言えない状態です。健康状態や年齢、群れで暮らすかどうか、周りに食べ物が足りているか、といった条件で食べ方がどう変わるのかも、これからの検証が必要です。

そもそも「遠い種を選ぶ」という行動が本当に感染回避のために進化したものなのか、それとも別の理由でたまたまそう見えているのかも、この研究だけでは決められません。研究チームの結論も「そうした仕組みが存在することを示唆する」という表現にとどまっています。

掃除屋がいることの意味

この研究が最後に触れているのは、死骸を片づける動物の価値です。腐肉食の動物は、栄養を土や水に戻し、食物網をつなぎ、放っておけば病原体の温床になる死骸を早く消してくれます。人間側から見れば、動物由来の感染症のリスクを下げてくれている存在です。

この点で知られているのがインドの例で、ハゲワシが激減した時期に人間の死亡が大きく増えたことが報告されています。死骸が片づかず、野犬などが増えて病気が広がった、という筋書きです。

エル・オンドにはハゲワシがいませんが、代わりにネズミやキツネやカササギが同じ仕事をしています。しかも彼らは、自分が病気をもらわないように相手を選びながらやっている。研究チームは、こうした腐肉食動物の集まりを保全することが、生態系の健康と人間の感染症対策の両方につながると書いています。

死骸をあさる動物は、あまりいいイメージで語られません。でも、その食べ方をカメラで追ってみると、栄養と危険を天秤にかけた、案外まっとうな選択をしているようです。

出典

Pessano-Serrat, T. et al. (2026). Phylogeny drives carrion consumption by vertebrate scavengers towards distantly related species. Ecology Letters.
https://doi.org/10.1111/ele.70455

ScienceAlert:Scavengers Stay Healthy By Not Eating Their Own Kind, New Science Suggests
https://www.sciencealert.com/scavengers-stay-healthy-by-not-eating-their-own-kind-new-science-suggests

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