ネコ科に100年以上ぶりの新種——ボリビアの雲霧林にすむ「ティルカヨ」

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ネコ科に、新しい種がひとつ加わりました。名前はLeopardus tilcayo(レオパルドゥス・ティルカヨ)。ボリビアのユンガスと呼ばれる雲霧林(うんむりん)にすむ、イエネコより小さな斑点模様のヤマネコです。論文は2026年9月17日、学術誌Current Biologyに掲載されました。

研究チームによると、現生のネコ科で新しい種が見つかって名前がつくのは、1923年にウルグアイのパンパスキャット(Leopardus fasciatus)が記載されて以来で、100年以上ぶりになります。ライオンやトラを含めても40種あまりしかいないグループなので、1種増えるというのはかなり大きな出来事です。

タイガーキャットという小さなヤマネコ

今回の主役は「タイガーキャット」と呼ばれるネコたちです。名前にタイガーと付きますがトラとは縁が遠く、オセロットと同じLeopardus属に入る中南米の小型ネコで、日本の図鑑ではジャガーネコ、あるいはオンシラの名前で載っています。体長は30〜60センチほど、体重は2〜3キロ前後。黄褐色の毛に、ふちの黒い斑点(ロゼット)が散らばっています。

このネコたちは、分類学者を長く悩ませてきました。どの地域の個体も見た目がそっくりで、違いといえば模様のわずかな差くらいしかありません。こういう「外見ではほぼ区別できないが、実は別の種」というものを隠蔽種(いんぺいしゅ)と呼びます。

最初のタイガーキャットが記載されたのは1775年、場所は南米北東部のフランス領ギアナでした。その後18〜19世紀にかけて、ヨーロッパの博物学者が南米のあちこちで似たネコを見つけ、それぞれ別の学名をつけていきます。ところが20世紀に入ると、今度は逆に「どれも同じだろう」とまとめられ、Leopardus tigrinusという1種に一括りにされました。

一種から五種への再分類

この一括りがほどけ始めたのは、遺伝子を調べられるようになってからです。2013年、ブラジル南部などにいる集団が別種L. guttulus(ミナミタイガーキャット)として切り離されました。2017年にはブラジル東部のL. emiliaeを独立種とする提案が出て、2024年にはアンデスの雲霧林にすむL. pardinoidesも別種とされています。

ただ、肝心のところが抜けていました。1775年に最初の1頭が記載されたギアナ地方、つまり「本家のL. tigrinus」のDNAが、これまで誰にも調べられていなかったのです。基準になるネコの遺伝情報がないまま、まわりの集団だけを比べて「別種かどうか」を議論していたことになります。

アントワープ大学(ベルギー)のJonas Lescroart氏らのチームは、この穴を博物館の標本で埋めました。調べたのはLeopardus属38個体ぶんの全ゲノムで、うち26個体がタイガーキャットです。コスタリカ、コロンビア、ペルー、ボリビア、ブラジル、スリナム、ガイアナ、ベネズエラと産地は広く、試料も血液や筋肉だけでなく、歯、骨、皮、毛までさまざま。38個体のうち8個体は博物館に保管されていた古い標本で、そのなかにギアナ地方の6点が含まれていました。

ゲノムを比べて系統樹を描き、枝分かれの時期を推定した結果、タイガーキャットは五つの種に分かれました。これまで提案されていたL. tigrinus、L. guttulus、L. emiliae、L. pardinoidesの4種はどれも独立した種として裏づけられ、そこにもう一つ、どの既知の集団にも当てはまらない系統が加わりました。それがボリビアのティルカヨです。ほかのタイガーキャットと枝分かれしたのは、およそ140万年前と見積もられています。

あわせて、ペルー側のユンガスにいる集団はL. tigrinusの新しい亜種とされ、L. tigrinus antisuyoと名づけられました。亜種名は、この一帯を含んでいたインカ帝国の東の地方「アンティスーユ」にちなんでいます。

保護施設で10年暮らしていた基準標本

ティルカヨが研究者の目にとまった場所は、人の入らない森の奥ではありませんでした。

種の基準になる個体(タイプ標本)に選ばれたのは、「ティグリーノ」という愛称のオスです。ボリビアのラパス近郊にある野生動物の保護施設、センダ・ベルデで、10年ほど前から暮らしています。密輸や違法飼育から救い出された動物を受け入れている施設で、ティグリーノも人の手で持ち込まれた1頭でした。当初はイエネコの子と間違われていたといいます。

この施設に関わっていた生物学者のPaola Nogales-Ascarrunz氏は、2016年にこのネコを見て、まず小ささに驚いたそうです。ほかのタイガーキャットとどこか違う。とはいえ、新種だとまでは考えていなかったと、Live Scienceの取材に答えています。体重は1.5〜2キロ、頭から胴までが最大で約50センチ、尾が25センチほど。毛は明るい茶色で、形のふぞろいなロゼットが全身に入っています。

いまのところ、ティルカヨの記載は生きた2個体にもとづいています。ティグリーノと、野外で捕獲されて写真に記録されたもう1頭です。この2頭のゲノムが互いによく似ていて、しかもほかのどのタイガーキャットからも離れていたことが、新種と判断する決め手になりました。

もうひとつ付け加えると、「ティルカヨ」は研究者が考えた名前ではありません。ユンガスの地元の人たちが、昔からこのネコをそう呼んでいました。科学の側から見れば新種でも、現地では何世代も前から知られていた動物です。100年以上ぶりの新種は、誰も見たことのない動物ではなく、名前を呼ばれ、保護施設で世話をされながら、学名だけを持っていなかったネコでした。

分類の見直しで変わる保全評価

種が分かれると、保全上の扱いも変わります。

国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストは、現在タイガーキャットを北と南の2種として評価していて、どちらも「危急(VU)」、個体数は減少傾向とされています。けれども、1種と数えていた集団が実は複数の種だったなら、1種あたりの個体数も分布域も、これまでの見積もりより小さくなります。Lescroart氏は、まとめて「危急」とされてきた集団が、個別に評価し直すと「絶滅危惧(EN)」に上がる可能性があると話しています。チームはすでに結果をIUCNに伝えていて、次の再評価ではそれぞれの系統が別々に扱われる見通しです。

タイガーキャットを脅かしているのは、森林の伐採、野生動物の密輸、それに飼い犬からうつる病気です。ティルカヨのすむユンガスは、アンデスの斜面がアマゾンの低地へ下っていく途中の、雲に包まれた山の森で、ここも開発と無縁ではありません。

ティルカヨ自身については、分かっていないことのほうが多いのが現状です。ふんから小型のネズミ類の骨などが見つかっていること、自動撮影カメラの記録から夜に活動していそうなこと。いま言えるのはそのくらいで、何頭いるのか、どこまで分布しているのかはこれからの調査になります。チームはユンガスにカメラを設置して、野生での暮らしぶりを追う計画です。

なお「100年以上ぶり」という数え方には、少しだけ注釈が要ります。2023年に、コロンビア南部のアンデスで採られた標本をもとにLeopardus narinensisという新種を提唱した論文が出ているからです。ただ、今回のチームはティルカヨを「1世紀以上ぶりに発見・命名された現生のネコ科」と位置づけていて、各メディアもその数え方で報じています。小型ネコの分類は、まだ動いている最中だと見ておくのがよさそうです。

研究に加わったブラジルのEduardo Eizirik氏は、25年かけて積み上げてきた研究で、このグループの進化の歴史と分類がようやく全体像に近づいたと述べています。まだ試料のない地域も残っているとのことで、身近に思えるネコ科でも、種の数え方はこれからも変わっていくかもしれません。

出典

Lescroart, J. et al., “Phylogenomics and museomics reveal five distinct species of tiger cats in South America,” Current Biology, 2026年9月17日. https://doi.org/10.1016/j.cub.2026.08.059

Live Science, “Scientists name a new cat species for the first time in over a century,” 2026年9月17日. https://www.livescience.com/animals/cats/scientists-name-a-new-cat-species-for-the-first-time-in-over-a-century

Gizmodo, “Scientists Discover First New Cat Species in Over a Century—and It’s Love at First Sight,” 2026年9月17日. https://gizmodo.com/scientists-discover-first-new-cat-species-in-over-a-century-and-its-love-at-first-sight-2000812939

CNN, “Meet the tiny wild cat that’s new to science,” 2026年9月17日. https://www.cnn.com/2026/09/17/americas/new-tiny-wild-cat-intl-latam

Ruiz-García, M. et al., “Morphological and Genetics Support for a Hitherto Undescribed Spotted Cat Species (Genus Leopardus; Felidae, Carnivora) from the Southern Colombian Andes,” Genes, 2023年. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10298493/

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