グリーンランドと南極。地球に残る二つの大きな氷床が、1970年代から2023年までのあいだにどれだけ減ったのか。その半世紀ぶんを、衛星の記録をつなぎ合わせてひとつの数字にまとめた研究が、2026年9月16日付の科学誌Scientific Dataに載りました。
出てきた数字は、1979年から2023年までの45年間で約11兆3000億トン。海面に換算すると3.14センチぶんの上昇です。ただ、この研究の見どころは総量そのものよりも内訳のほうにあります。減った氷の大半は、表面が融けて水になったのではありませんでした。
半世紀ぶんの衛星記録をひとつにつなぐ
この研究はIMBIE(アイス・シート・マス・バランス・インターコンパリズン・エクササイズ)という国際共同プロジェクトの成果で、ESA(欧州宇宙機関)とNASAが支援しています。筆頭著者は英ノーサンブリア大学の氷河学者イネス・オトサカ氏で、世界各地の研究機関から58人の研究者が名を連ねました。
氷床の増減を宇宙から測る方法は、大きく三つあります。ひとつは高度計で氷の表面の高さの変化を測る方法。もうひとつは重力の変化から質量そのものを測る方法(米独のGRACE衛星などが担当します)。三つめは氷河の流れる速さと厚さから海へ流れ出す量を計算し、降雪や融解との差し引きで収支を出す方法です。1972年に打ち上げられた初期のランドサット衛星の画像も、氷河の速さを読み取るのに使われました。
それぞれ得意不得意があり、同じ場所を測っても答えが少しずつ違います。今回の研究は、27の衛星計画のデータから作られた42本の独立した推定値を持ち寄り、測り方の違いによる差を丁寧に補正したうえで、ひとつの「合意値」にまとめました。グリーンランドは1972年から、南極は1979年から、いずれも2023年末までです。ばらばらだった記録が半世紀ぶんつながったのは、これが初めてになります。
1990年代から加速した減り方
つないでみると、減り方が一定ではないことがはっきり見えます。グリーンランドは1970年代にはほぼ収支が釣り合っていました。それが1980年代には年600億トンの損失に転じ、2000年代には年1920億トン、2010年代には年2640億トンまで増えています。2010年代は夏の極端な融解が何度も起きた時期でした。
南極も似た経路をたどり、1980年代の年480億トンから2010年代には年2020億トンへ。とくに西南極では、パインアイランド氷河やスウェイツ氷河といった大きな氷河の流れが速まり、海へ流れ出す氷の量が衛星記録のどの10年をとっても前の10年より増え続けています。
あわせて11兆3000億トン。海面への寄与は、グリーンランドが1.81センチ、南極が1.33センチでした。IMBIEを立ち上げたアンドリュー・シェパード氏は、3センチ余りという数字は小さく聞こえるかもしれないが、それだけで沿岸の洪水や浸食の危険にさらされる人が600万から900万人増える、と話しています。
融けたのではなく、流れ出した
ここからがこの研究の肝です。研究チームは、氷の減少を二つの要因に切り分けました。ひとつは「表面の収支」で、雪が積もって増えるぶんと、表面が融けて流れ去るぶんの差し引きです。もうひとつは「氷の動き」で、氷河の流れが速くなり、内陸の氷が海へ押し出されるぶんを指します。
結果は、氷の動きが84パーセント、表面の収支が16パーセント。減った氷の8割以上は、気温で融けて水になったのではなく、固体の氷のまま氷河に運ばれて海へ落ちたものでした。

上の図のように、氷床の縁では氷河が海に張り出しており、暖かい海水がその末端や底に触れると氷が削られ、支えを失った氷河は流れを速めます。流れが速まれば、内陸の氷がより多く海へ運び出される。表面で融けるぶんとは別の経路で、氷床は痩せていきます。
氷床ごとに見るとさらにはっきりします。グリーンランドは流出が67パーセント、表面の融解が33パーセント。南極にいたっては、減った氷のすべてが氷の動きによるものでした。南極は寒すぎて表面はほとんど融けないので、氷を減らしているのは氷河の末端に届く海水だけ、ということになります。
「氷床が減っている」と聞くと、気温が上がって氷が融けている光景を思い浮かべがちです。けれど実測の内訳が示しているのは、主役は気温ではなく海水温だという構図でした。オトサカ氏はESAの発表の中で、長期的な傾向を動かしているのは温まった海に対する氷床の力学的な応答だ、と説明しています。
直近4年の減速をどう見るか
ひとつ注意しておきたいのは、記録の最後の4年、2020年から2023年にかけては損失のペースが落ちていることです。東南極では2022年と2023年に記録的な大雪が降り、その期間だけ見れば東南極は年920億トンの増加に転じました。これが西南極の損失を打ち消し、南極全体の減り方は2010年代の3分の1以下になっています。グリーンランドでも比較的おだやかな夏が続き、表面融解による損失は2010年代の半分ほどに減りました。
ただし研究チームは、これを傾向の反転とは見ていません。大雪や涼しい夏は年ごとの揺らぎで、その裏で氷河が海へ流し出す量は変わらず続いているからです。西南極の流出量は、この4年間でさらに38パーセント増えています。表面の収支は年によって上下しても、氷の動きのほうは一方向に進んでいる。8対2という内訳は、ここでも効いてきます。オトサカ氏はPhys.orgの取材に対し、2023年以降の未公表の測定では加速が戻りつつあるようだ、とも話しています。
なお今回の集計には、南極の棚氷(海に浮かんでいる部分の氷)の薄化や後退は含まれていません。浮いている氷が減っても海面は直接には上がらないため、対象を海面に効くぶんに絞っているからです。
予測の土台になる記録
氷床は、将来の海面上昇を見積もるうえで最大の不確かさの源とされています。氷床が不安定化する可能性まで織り込むと、2150年の海面上昇の高めの見積もりは2.6倍にふくらむとも言われています。その予測を現実に近づけるには、モデルを過去の実測と突き合わせるしかなく、半世紀つづきの記録はそのための物差しになります。
今回まとめられたデータと計算コードは公開されており、誰でも使えます。衛星の世代が変わっても記録を途切れさせずにつないでいく作業は地味ですが、氷床がこれからどう動くかを知る手がかりは、こうした積み重ねの中にあります。
出典
論文:Otosaka, I. N. et al. “Mass balance of the Greenland and Antarctic ice sheets from the 1970s to 2023,” Scientific Data 13, 1301(2026年9月16日公開・オープンアクセス):doi.org
プレスリリース:ESA “Faster-flowing glaciers fuel decades of polar ice loss”(2026年9月16日):esa.int
紹介記事:ScienceAlert “We’ve Lost 12 Trillion Tons of Ice From Earth’s Major Ice Sheets in Just 47 Years, Satellites Reveal”(2026年9月23日):sciencealert.com


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