恒星間天体3I/ATLASの水はなぜ重いのか、理研の計算が出した答えは「重元素の少なさ」だった

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2025年7月に見つかった恒星間天体 3I/ATLAS は、太陽系の外で生まれ、たまたま通りかかった天体です。近づいてきた数か月のあいだに、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡をはじめ各地の望遠鏡が成分を調べ、いくつか妙な数字が出てきました。そのひとつが「水がやけに重い」ことです。理化学研究所の古家健次さんを中心とする研究チームが、この重い水の出どころを計算で追いかけたところ、答えは「生まれた場所に重元素が少なかったから」でした。

3I/ATLAS の水に含まれる重水素の異常

水素には、ふつうの水素のほかに「重水素」という重いタイプがあります。原子核に中性子が1個余分に入っているだけで、化学的な性質はほぼ同じです。水の中に重水素がどれくらい混じっているか(D/H比)は、その水がどんな環境でできたかを映す指標として、彗星や隕石の研究でずっと使われてきました。

太陽系の彗星では、水のD/H比はおよそ0.015〜0.03%です。地球の海水は約0.016%で、ほぼ同じ範囲に入ります。ところが 3I/ATLAS の水を調べると、この比が約1%ありました。太陽系の彗星の数十倍です。

おかしな数字は水だけではありません。メタンのD/H比も約3%で、探査機ロゼッタが直接調べた67P彗星の約0.2%を10倍以上うわまわっていました。炭素も同じで、軽い炭素12と重い炭素13の比は太陽系ではだいたい90、太陽の近くの星間空間でも平均70くらいなのに、3I/ATLAS では123〜191と、炭素13が明らかに少なめでした。

炭素13が少ないのは、生まれた場所に重元素が乏しかったしるしだと以前から考えられてきました。炭素13は星の中で作られて何世代もかけて宇宙にたまっていく元素なので、それが少ない天体は、宇宙がまだ若く、重元素の少なかった時代の材料でできている、という読み方です。ではD/H比の高さも同じ理由で説明できるのか。今回の論文はそこを確かめました。

重水素が氷に集まる仕組み

研究チームは、星が生まれる前の暗い分子雲から、その中で密度が高まった「コア」ができるまでの段階について、ガスと氷の化学反応を追う計算モデルを組みました。ガスの密度、まわりからの紫外線の強さ、宇宙線の量、そして重元素の量を何通りにも変えて、氷の中の水のD/H比がどこまで上がるかを調べています。

まず、重水素が水に集まる仕組みそのものを押さえておきます。分子雲の奥はマイナス260℃台、絶対温度で10ケルビン前後しかありません。この寒さでは、ふつうの化学反応はほとんど進みません。動いているのは、宇宙線がガスにぶつかって作る H3+ という電気を帯びた分子です。

H3+ が重水素入りの水素分子(HD)とぶつかると、H2D+ という重水素入りのイオンに変わります。この反応は本来、行きも戻りもできるのですが、戻る向きにはわずかにエネルギーが要ります。10ケルビンの世界ではそのエネルギーが足りないので、反応は行ったきりになり、重水素がイオンの側にため込まれていきます。そのイオンが電子とぶつかって壊れると重水素の原子が出てきて、ちりの表面で酸素と結びつき、重水素入りの水の氷になります。寒ければ寒いほど重水素がたまる、というのがこの話の基本です。

重元素が少ないほど重水が増える理由

ここからが今回の論文の中身です。計算の結果、重元素の少ない環境のほうが、水のD/H比がはっきり高くなりました。寒さだけでは足りなくて、材料の乏しさが効いていたのです。理由は3つ挙げられています。

ひとつめは、一酸化炭素が少ないことです。一酸化炭素は H2D+ を壊す相手で、ガスの中にたくさんあると、重水素をため込んだイオンが水になる前に消えてしまいます。重元素が少なければ一酸化炭素も少なく、イオンが長生きして、重水素を氷に渡しやすくなります。論文では、H3+ に重水素がつくこと以上に、それが水の氷に移る段階で重元素の少なさが効いた、としています。

ふたつめは、ふつうの水素の「洪水」が起きないことです。重元素の多い環境では、紫外線が水を壊してふつうの水素原子を大量に放出し、それがD/H比を薄めてしまいます。重元素が少なければ壊される水も少ないので、薄まりにくいわけです。

みっつめは宇宙線の量です。宇宙線が強すぎると、ガスがわずかに温まったり、さきほどの「戻る向き」の反応が動き出したりして、せっかくためた重水素が逃げます。かといって弱すぎると、そもそも H3+ ができません。紫外線と宇宙線については、強ければ良い・弱ければ良いという単純な関係にならず、ちょうどよい範囲があるという結果でした。

これらを合わせると、3I/ATLAS の水のD/H比がいちばん自然に再現されるのは、重元素の量が太陽の半分以下で、ガスの密度が1立方センチあたり1万個ほどと比較的濃く、宇宙線が極端に強くない分子雲の中でした。紫外線と宇宙線の強さについては、その範囲内であればあまり結果が変わらなかったそうです。

メタンと水の比による検算

計算がそれらしい数字を出しただけでは、たまたま合っただけかもしれません。研究チームはメタンで検算をしています。

3I/ATLAS のメタンのD/H比は約3%、水は約1%で、メタンは水の3.4倍ほどです。太陽系の67P彗星では、メタンが約0.2%、水が約0.05%で、4.8倍ほどです。それぞれの数字はけた違いなのに、「メタンは水の何倍か」という比だけはよく似ています。計算モデルでも、この比は重元素の量を変えてもほとんど動きませんでした。重元素が少ないと重水素の絶対量は一気に跳ね上がるけれど、分子どうしの配分は変わらない。観測と計算の両方でそう出たことが、このシナリオの裏づけになっています。

成分表から読める出身地

今回の話をまとめると、3I/ATLAS の炭素の比とD/H比は、別々の謎ではなく、ひとつの答えで説明がつきます。生まれた分子雲に重元素が少なかった。それだけで、炭素13の少なさも、水の重さも、メタンと水の配分も、まとめて筋が通ります。重元素の少ない環境は、いまの太陽系の近くよりも、宇宙が若かった時代や銀河の外側に多いので、3I/ATLAS は太陽系より古い時代の材料でできている、という見方とも合います。

研究チームは、水のD/H比が「その天体の故郷の重元素量と物理条件を測る、もうひとつの物差しになりうる」と書いています。炭素の比が使えない天体でも、水さえ測れれば出身地の手がかりが得られる可能性があります。恒星間天体は、次にいつ来るか分かりませんが、来たときに何を測ればよいかは、少しずつはっきりしてきました。

なお、この論文は The Astrophysical Journal Letters への掲載が決まっている段階で、記事の時点では arXiv のプレプリント版が公開されています。正式版で数字や表現が変わる可能性はあります。また、モデルは「3I/ATLAS の水は分子雲の段階で作られ、そのまま受け継がれた」という前提に立っていて、その後の原始惑星系円盤で水が作り直されたケースは扱っていません。この前提が崩れれば話は変わります。

出典

論文(arXiv プレプリント、ApJL 掲載予定):High water D/H ratio of the interstellar object 3I/ATLAS is consistent with a low-metallicity origin(K. Furuya ほか)

解説記事:Universe Today「3I/ATLAS Has An Extreme Taste For Heavy Water」

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