銀河中心の巨大ブレーザーと同じ仕組みが、1万2,000光年先の小さなブラックホールで回っていた

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遠くの銀河の中心で、ブラックホールがこちら向きにジェットを吹いている天体を「ブレーザー」と呼びます。その縮小版が天の川銀河の中にもあるはずだ、と1990年代から言われ続けてきました。30年たって、ようやくそれらしいものが見つかりました。しかも地球から約1万2,000光年という、銀河のスケールでいえばすぐ近所です。

天体の名前は IRAS 18293−0941。スペイン・ハエン大学のジョゼップ・マルティさんを中心とする国際チームが、電波・可視光・X線・ガンマ線を総動員して正体を突き止め、その結果が天文学の専門誌『Astronomy & Astrophysics』に受理されました。査読を通った論文で、誰でも無料で読めます。

銀河の外にしかなかった「こちら向きのジェット」

ブラックホールは、周りの物質を飲み込むとき、その一部を両極から細い流れとして噴き出します。これがジェットで、速さは光速に迫ります。銀河の中心にある太陽の何百万倍、何十億倍という超大質量ブラックホールが作るジェットは、銀河の外まで何十万光年も伸びることがあります。

このジェットが、たまたま地球の方を向いている場合があります。光速に近い速さでこちらに向かってくるものは、相対性理論の効果で実際よりずっと明るく見えます。逆に、遠ざかる側のジェットは暗くなってほとんど見えません。こうして「片側だけが異様に明るい」姿で見えるのがブレーザーです。宇宙でもっとも明るい部類の天体で、何十億光年先からでも観測できます。

一方、天の川銀河の中には、太陽の10倍前後の質量しかない小さなブラックホールがたくさんあります。そのブラックホールが相棒の星からガスを吸い取り、小さなジェットを吹いているものを「マイクロクエーサー」と呼びます。こちらは1990年代にこの名前がついて以来、すでに何個も知られています。

ここで自然な疑問が出てきます。マイクロクエーサーの中にも、ジェットがたまたま地球を向いているものがあるはずです。つまりブレーザーの縮小版、「マイクロブレーザー」です。理論上は1990年代からその存在が予想されていましたが、候補が挙がっては詳しく調べると違っていた、の繰り返しでした。銀河の中心でしか起きないと思っていた仕組みが、同じ形のまま小さくなってすぐ近くで回っている——その実例が、30年間見つからなかったわけです。

1983年からカタログに載っていた天体

IRAS 18293−0941 は、新しく発見された天体ではありません。1983年に赤外線天文衛星IRASがカタログに登録していて、2010年にはX線を出す連星ではないかという提案もありました。ただ、地球との間に濃い星間の塵(ちり)が横たわっていて、ふつうの可視光の写真ではほとんど写りません。マルティさんは「あらゆる意味で、目の前に隠れていた。数十年前にカタログに載ったあと、ほぼ忘れられていた」と話しています。

研究チームがこの天体に目を留めたのは、塵に強く赤らんだ明るい星をカタログから拾い出す作業の中でした。過去の電波サーベイの画像を見比べると、この天体はいつ見ても、明るく小さな中心部の片側だけに電波が伸びていました。年をまたいで同じ形なので、一時的な爆発の名残ではなく、ずっと続いている現象です。片側だけ、というのがブレーザーと同じ特徴です。

そこからチームは本格的な追跡に入りました。スペインのモンセック天文台、カラル・アルト天文台、ハエン大学の望遠鏡で何年も可視光の明るさを追い続けると、星の光がわずかに周期的に揺れているのが見えてきました。この揺れから、11.38日周期で何かが星のまわりを回っていること、そしてその軌道をほぼ真上から見下ろしていることが分かりました。軌道面を真上から見ているということは、軌道に垂直に出るジェットは、ほぼこちらを向いていることになります。可視光の側から出た答えと、電波の「片側だけ」が示す答えが一致したわけです。

ただ、電波で見えている片側のジェットが本当にこの星のものなのか、という問題が残ります。同じ方向のはるか後ろに別の銀河があって、その電波が重なって見えているだけ、という可能性は消せません。決め手になったのは、ヨーロッパを中心に南アフリカや中国まで含む電波望遠鏡をつないで一つの巨大な望遠鏡として使う「欧州VLBI網(EVN)」の観測です。位置を非常に細かく決められるこの観測で出たジェットの根元の座標が、位置天文衛星ガイアが測っていた星の座標とぴったり重なりました。オランダの合同VLBI研究所のベニート・マルコテさんは、この一致で結果が固まったと述べています。ジェットは、この星の系から出ていました。

まとめると、太陽の10倍ほどのブラックホールが、高温で重い星のまわりを11.38日で一周し、星から流れ込むガスの一部を光速の4分の3ほどの速さで両極から噴き出している。そのジェットの一方が、ほぼ地球を向いている。それがこの天体の正体です。

見えない側のジェットが作った100光年の泡

ここまでなら「ようやく見つかった」で終わりです。この研究がおもしろいのは、地球の方を向いていない側、つまり見えないはずのジェットのほうを追いかけたところにあります。

遠ざかるジェットは相対性理論の効果で暗くなり、直接には写りません。しかし、飛んでいった先で何かにぶつかれば、その痕跡は残ります。南アフリカの電波望遠鏡MeerKATで深く撮ると、天体の反対側に差し渡し100光年におよぶ空洞、いわば泡が写っていました。ジェットが通り道の星間ガスを長い年月をかけて押しのけた跡です。そして泡のいちばん奥、ジェットが濃い分子雲(水素分子と塵の雲)に突き当たる場所に、小さくまとまった明るい電波の塊がありました。ジェットが雲に衝突して衝撃波を作り、粒子を加速し、塵を温め、水素を光らせている「ホットスポット」です。

この場所には、もう一つ別の顔がありました。中国のLHAASO、メキシコのHAWC、ナミビアのH.E.S.S.、それにフェルミ衛星が、まさにこの位置で超高エネルギーのガンマ線をとらえていたのです。光子1個で100兆電子ボルトを超えるもので、地球最大の加速器LHCが陽子1個に与えるエネルギーの10倍以上です。天の川の中には、粒子を1,000兆電子ボルト(1ペタ電子ボルト)近くまで加速している場所がいくつかあり、「ペバトロン」と呼ばれています。ただ、何がそこまで粒子を加速しているのかは、100年来の未解決問題です。

研究チームは、この天体でその筋書きが成り立つことを示しました。ジェットが運ぶエネルギーは太陽の放射の50万倍にもなります。それが分子雲にぶつかると、衝撃波で陽子がとてつもないエネルギーまで加速され、濃いガスの中の原子核に衝突して、ガンマ線を出す粒子を作ります。ハエン大学のペドロ・ルケ=エスカミージャさんの言い方を借りれば、加速する装置とぶつかる的が数十光年離れた別の物体で、ジェットが加速し、雲が光っている、という構図です。

ここは慎重に書いておきます。ガンマ線源とホットスポットの位置が重なることは確かですが、論文はこの天体を「超高エネルギー粒子の加速器になりうる」候補として提示していて、決着がついたとは言っていません。ペバトロンの正体探しは、これで一歩進んだ、という段階です。

手の届く距離にあるブレーザーの模型

本物のブレーザーは何十億光年も先にあって、ジェットの根元がどうなっているかは、どんな望遠鏡でも点にしか写りません。変化のスピードもブラックホールの大きさに比例するので、人間の寿命では追いきれないことが多くあります。同じ仕組みの小型版が1万2,000光年先にあれば、構造を分解して見ることも、変化を数か月から数年の単位で追うこともできます。マルコテさんは、遠くのブレーザーの物理を詳しく調べる手がかりになると話しています。

もう一つ、ジェットが100光年の泡を掘り、分子雲を叩いて光らせているという事実そのものも意味を持ちます。分子雲は星が生まれる場所です。小さなブラックホールのジェットが、そこにこれだけのエネルギーを注ぎ込んでいるなら、銀河の中でのガスの動きや星の誕生にも、これまで考えられていた以上に関わっているかもしれません。

研究チームは、EVNによる高解像度の観測を繰り返してジェットの変化をとらえること、ホットスポットと分子雲の相互作用を詳しく調べること、そして天の川の中に同じような天体がほかにもないか探すことを次の課題に挙げています。30年探して1個目が見つかった以上、2個目、3個目は最初ほど時間がかからないかもしれません。

出典

論文:J. Martí et al., “A Galactic microblazar as a potential accelerator of ultra-high-energy particles”, Astronomy & Astrophysics(2026年、受理済み・掲載準備中)
https://doi.org/10.1051/0004-6361/202661105
プレプリント:arXiv:2609.00990

プレスリリース:南アフリカ電波天文台(SARAO)”A black hole in the Milky Way aims its jet at us”
https://www.sarao.ac.za/news/a-black-hole-in-the-milky-way-aims-its-jet-at-us/

プレスリリース:ASTRON/JIVE(Astronomie.nl)”First microblazar found could produce the fastest particles in the Milky Way”
https://www.astronomie.nl/nieuws/en/first-microblazar-found-could-produce-the-fastest-particles-in-the-milky-way-4843

解説記事:Space.com(Robert Lea、2026年9月24日)
https://www.space.com/astronomy/black-holes/astronomers-discover-the-1st-black-hole-powered-microquasar-in-the-milky-way

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