ニッポノペルタ・エゾエンシス、北海道から出た日本初のよろい竜の新属新種

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北海道夕張市で30年前に見つかっていた恐竜の化石が、よろい竜(鎧竜)の新属新種として正式に名前をもらいました。学名はニッポノペルタ・エゾエンシス(Nipponopelta yezoensis)。「北海道で見つかった日本の盾」という意味で、よろい竜の新属新種が日本から命名されたのはこれが初めてです。

研究を発表したのは、北海道大学の大藪隼平さん(大学院理学院博士後期課程)と小林快次教授を中心に、カナダのカルガリー大学、アメリカのニューメキシコ自然史博物館、三笠市立博物館が加わった研究グループ。論文は2026年8月21日に学術誌Cretaceous Researchでオンライン公開され、9月2日に北海道大学がプレスリリースを出しています。

おもしろいのは、この化石が「新発見」ではない点です。見つかったのは1995年で、2005年にはすでに「ノドサウルス類の頭骨」として論文になっていました。それが20年以上たって、なぜいま新属新種になったのか。そこにこの話の読みどころがあります。

川で拾われた岩塊から出てきた頭骨

化石が見つかったのは1995年。夕張市を流れるシューパロ川の支流、大巻沢で、後藤栄治郎さんという方が恐竜の骨を含む岩の塊(ノジュール)を発見しました。産出したのは蝦夷(えぞ)層群の日陰ノ沢層という地層で、時代は白亜紀後期のセノマニアン期、およそ1億年前にあたります。

当時、三笠市立博物館の学芸員だった早川浩司さんがクリーニングを行い、頭骨の後ろ半分や歯の特徴から、これがよろい竜のなかでも「ノドサウルス類」であることがわかりました。翌1996年に日本古生物学会で発表され、2005年にはアメリカの学術誌Journal of Vertebrate Paleontologyに論文が出ています。

これは当時としてもかなり重要な発見でした。よろい竜は大きく二つのグループに分かれます。尾の先にハンマー状の骨のかたまりをもつアンキロサウルス類と、首から肩にかけて長いトゲ(スパイク)が並ぶノドサウルス類です。アンキロサウルス類は北米やアジアからたくさん見つかっているのに対し、ノドサウルス類の化石はほとんどが北米とヨーロッパ産で、アジアからはごくわずかしか出ていません。夕張の頭骨は、アジアにもノドサウルス類がいたことを示す貴重な証拠だったわけです。

ただ、そこで話は止まりました。ノドサウルス類であることはわかっても、それがどの属・どの種なのか、既知の恐竜と同じなのか別なのかを決めるには、材料が足りなかったのです。標本の一部はまだ岩の中に埋もれたままで、従来のクリーニングでは取り出せない骨が残っていました。

CTスキャンによるデジタル・クリーニング

状況を変えたのは、この20年間の二つの変化です。

一つは比較対象が増えたこと。2005年以降、中国からノドサウルス類が複数見つかって命名され、北米からは「ボレアロペルタ」に代表される、皮膚の質感までわかるような保存状態の化石が出てきました。ノドサウルス類の骨格についての知識そのものが、大きく積み上がったのです。

もう一つはCTスキャンです。化石を壊さずに岩の内部を撮影し、埋もれた骨をコンピューター上で立体的に復元できるようになりました。研究グループはこれを「デジタル・クリーニング」と呼んでいます。岩を削って取り出す代わりに、データの上で岩を消していく作業です。

上の画像は想像図で、実際の標本写真とCTの3Dモデルは、記事末尾のプレスリリース(PDF)で見ることができます。

CTでよみがえった骨を、世界中で蓄積された新しい知見と突き合わせた結果、この化石には他のノドサウルス類には見られない特徴の組み合わせが七つあることがわかりました。方形骨(下あごを吊る骨)の前面のへこみ方、脳を納める脳函(のうかん)の側面を走る隆起、歯の冠の条線の入り方、S字に曲がった歯根、第一頸椎の神経弓の形などです。一つひとつは細かい話ですが、これだけそろえば別の種類だと判断できる。そうして「ニッポノペルタ・エゾエンシス」の名前がつきました。

属名のNipponは日本、peltaはギリシャ語由来で「小さな盾」。種小名のyezoは北海道の古い呼び名「蝦夷」です。標本(MCM A522)は三笠市立博物館に収蔵されています。

日本で新属新種として命名された恐竜(鳥類を除く)はこれで14例目、北海道からはカムイサウルス(2019年)、パラリテリジノサウルス(2022年)に続く3例目になります。

海辺暮らしが大陸を越える鍵だった

ここからが、この研究のいちばん大きな発見です。

研究グループは、骨や歯などの340項目の特徴を、剣竜類とよろい竜類をあわせた93種と比較して系統樹をつくりました。すると、ニッポノペルタは中国のノドサウルス類ではなく、北米やヨーロッパの進化したノドサウルス類のすぐ隣に入ったのです。しかも中国のタオヘロン、ドンヤンゴペルタとは系統樹上で離れた場所にいました。

これが意味するのは、アジアのノドサウルス類は「一つの祖先がアジアに来てから枝分かれした」のではなく、別々の系統がそれぞれ独立に、何度もアジアへ入ってきたということです。

では、どうやって入ってきたのか。研究グループは系統樹に、化石の産地と、その地層がどんな環境で積もったかという情報を重ねて、祖先の分布域と生息環境を復元しました。すると、二つの対比が浮かび上がりました。

分布については、ニッポノペルタを含む進化したノドサウルス類の祖先は、北米西部のララミディア、北米東部のアパラチア、そしてアジアにまたがる広い範囲にいたと推定されました。アンキロサウルス類の祖先の分布がララミディアとアジアに限られていたのとは対照的です。

生息環境については、進化したノドサウルス類ほど海に近い環境で暮らす傾向が強まっていくのに対し、アンキロサウルス類は一貫して内陸にとどまっていました。

この二つを合わせると、一つの絵が見えてきます。白亜紀には北米とアジアをつなぐベーリング陸橋がありました。海岸や河口を好むノドサウルス類にとって、海沿いに続く道は移動しやすい経路だったはずです。実際、その通り道にあたるアラスカからは、ノドサウルス類のエドモントニアの頭骨が出ているほか、海岸や河口の環境でできた地層からよろい竜の足跡も見つかっています。南米の足跡列からも、この仲間が植物の茂る沿岸の低地や湿地を好んでいたことが示されており、一部の足跡にはかかとの跡がなく、水中で浮力を使いながら移動していた可能性まで指摘されています。

要するに「海の近くで暮らす」という生き方そのものが、大陸を越えて分布を広げる原動力になったのではないか。研究グループはそう考えています。共著者のダーラ・ゼレニツキー准教授(カルガリー大学)はLive Scienceの取材に対し、海岸沿いに移動するという習性が、ベーリング陸橋を渡って分散する助けになったのだろうと話しています。

ただし、慎重な見方もあります。研究に関わっていないカナダ自然博物館のジョーダン・マロン氏は、山地や高地は浸食が激しくて化石が残りにくいため、ノドサウルス類が内陸にいなかったとは言い切れないと指摘しています。化石記録はどうしても穴だらけで、ゼレニツキー准教授自身も、アジアでノドサウルス類が少ない理由が地層の残り方のせいなのか、それとも本当にアジアでは多様化できなかったのかは、まだわからないと認めています。

北海道の恐竜が海の地層から出る理由

ニッポノペルタの化石は、陸上の恐竜なのに海で積もった地層から出ています。これは日本の恐竜化石ではよくあることで、死んだ体が川や河口から海へ流され、海底に沈んで埋まったと解釈されています。

北海道で命名された3種の恐竜は、実は全部そうです。むかわ町のカムイサウルスも、中川町のパラリテリジノサウルスも、海で堆積した地層から出ています。北海道の白亜紀の地層は蝦夷層群と呼ばれる海の地層が主体で、アンモナイトの産地として有名です。そこから出る恐竜は、当時の東アジアの海岸近くで暮らし、海に流された個体ということになります。

そう考えると、海辺を好んだノドサウルス類が北海道から出てきたのは、偶然というより必然に近いのかもしれません。北海道の恐竜化石は、東アジアの沿岸にどんな恐竜がいて、どんな暮らしをしていたのかを知るうえで、特別な位置にあります。

もう一つ、この研究が示しているのは、博物館の収蔵庫に眠っている標本の価値です。30年前に見つかり、20年前に論文にもなった化石が、新しい技術と新しい知見で再研究されて、新属新種になりました。断片的な化石でも、そこから恐竜の進化や生態を読み解ける可能性が残っている。日本各地の博物館には、まだ名前を待っている標本があるのかもしれません。

出典

北海道大学プレスリリース:北海道産恐竜化石を「ニッポノペルタ・エゾエンシス」と命名~約1億年前の”海辺の恐竜”が明かす、白亜紀の大陸間移動~
同プレスリリース詳細版(PDF・標本写真、CT画像、骨格復元図あり)
Oyabu et al. (2026) A new nodosaurid ankylosaur from the Upper Cretaceous Hikagenosawa Formation in Japan reveals dispersal pattern of Asian nodosaurid ankylosaurs. Cretaceous Research
Live Science: Rare armored dinosaur found in Japan may have ancestors that migrated across a land bridge 100 million years ago

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