2026年9月16日、アメリカ・カリフォルニア州オレンジ郡のシールビーチ近くの砂浜で、1頭のウミガメが砂を掘って卵を産んでいるのを、ハンティントンビーチ消防局のライフガードが見つけました。種類はヒメウミガメ。ライフガードはその場に立ち入り禁止の線を張り、NOAA(アメリカ海洋大気庁)の漁業局と魚類野生生物局に連絡しました。
それから3日後の9月19日、今度は数キロ南のハンティントンビーチ桟橋のすぐそばで、また同じ種類のウミガメが産卵しているのが見つかりました。
NOAA漁業局西海岸支局によると、カリフォルニアの浜でウミガメが自然に産卵した記録は、これまで一度もありません。アメリカ西海岸全体で見ても初めてです。太平洋水族館のジェフ・フロッケン館長は地元メディアに対し、ウミガメの産卵地として知られているもっとも北の場所はメキシコで、今回はそれよりかなり北だと説明しています。

ヒメウミガメという小さなカメ
ヒメウミガメは、ウミガメの中でもっとも小さい部類に入ります。大人でも体重は45キロほどまで、甲羅の長さは60〜75センチ程度。名前のとおり甲羅がオリーブ色で、形はハート型に近いです。世界の熱帯の海に広く分布していて、数の上ではウミガメの中でいちばん多い種類とされています。
産卵のしかたに特徴があって、1頭ずつ単独で浜に上がることもあれば、数千から数万頭が同じ夜に同じ浜へ一斉に押し寄せることもあります。この一斉産卵は「アリバダ」と呼ばれ、スペイン語で「到着」という意味です。太平洋側では、メキシコ、ニカラグア、コスタリカ、パナマの浜が大きな産卵地で、メキシコ南部のラ・エスコビージャという浜だけで推定45万頭の雌が産卵に来ます。
ウミガメは、自分が生まれた浜の近くへ戻って産卵する性質があります。だから産卵地は、世代を越えて同じ場所に固定されやすい。カリフォルニア南部の海には、暖かい海流に乗ってヒメウミガメが泳いでくることはたまにあります。ただ、それはあくまで海の中の話で、浜に上がって卵を産んだ例はありませんでした。
同じ1頭か、別の2頭か
ここで研究者たちが最初に気にしたのは、シールビーチのカメとハンティントンビーチのカメが同じ個体かどうか、という点でした。ウミガメは1シーズンに1〜3回産卵するので、1頭が場所を少し変えて2度上がってきた可能性は十分あります。もしそうなら、「たまたま迷った1頭が来た」という話で済みます。
NOAA南西漁業科学センターの生物学者、カリ・ターナー・トマシェヴィッチさんが、2頭の写真を照合しました。体つき、甲羅についたフジツボの数と位置、甲羅の模様を見比べた結果、2頭は別々の個体だと分かりました。
つまり、これまで誰も見たことがなかった場所に、3日の間に2頭のヒメウミガメが、別々にたどり着いて産卵したことになります。1頭なら偶然で片づけられても、2頭となると、その年の海の状況が関わっていると考えるほうが自然です。
スーパー・エルニーニョと、それ以外の手がかり
いま太平洋では、2026年6月に始まったエルニーニョが進行中で、今シーズンは記録的に強くなると予想されています。エルニーニョが起きると、南米沖からカリフォルニア沖にかけての海水温が上がります。NOAAでウミガメの生態評価プログラムを率いるジェフ・セミノフさんは、この暖かい海が2頭の行動に大きく関わった可能性が高いと見ています。
ただし、セミノフさんは「水温だけで説明できる話ではない」とも言っています。ウミガメは、海の中で進む方向を決めるのに、いくつもの手がかりを組み合わせて使います。地磁気を感じ取る体内のコンパス、波の向き、海流、えさの多さ。暖かい水が北へ広がったことで、こうした手がかりの何かが狂い、2頭は「メキシコの産卵地に着いた」と思い込んだまま、カリフォルニアの砂に上がった。セミノフさんはそんな筋書きを想定しています。
NOAAでカリフォルニアの座礁対応を担当するジャスティン・ヴィエズビッケさんは、最近のハリケーンで進路を乱された可能性も挙げていて、なぜカリフォルニアだったのかは「100万ドルの問い」だと話しています。答えはまだ出ていません。
柵の中の卵はどうなるか
2か所の産卵地はいずれも柵で囲われ、当局が見守っています。ヒメウミガメの卵は、ふつう45〜60日で孵化します。9月中旬の産卵なので、順調にいけば11月の前半から中ごろに子ガメが出てくる計算です。1回の産卵で産む卵はおよそ100個です。
ただ、この2つの巣には、本来の産卵地にはない条件が重なっています。セミノフさんが挙げるいちばんの心配は、秋が深まるにつれて下がる気温と、この時期に多い大潮です。ウミガメの卵は砂の温度で発育が進み、孵化する子ガメの性別も、抱卵期間の途中の砂の温度で決まります。メキシコやコスタリカの砂浜と比べれば、11月のカリフォルニアの砂は冷たい。潮が高く上がれば、巣が海水に浸かることもあります。柵で防げるのは人が近づくことだけで、寒さと潮は防げません。
孵化するかどうかは、まだ誰にも分かりません。ただ、日付と場所がはっきりしている出来事なので、11月に何が起きたかは、いずれ記録として残ります。記録上初めてのカリフォルニアの巣が、初めての孵化まで行き着くのか。この秋は、そこを見ていくことになります。
出典
Smithsonian Magazine:In a First, Sea Turtles Were Spotted Nesting on the U.S. West Coast. Scientists Say the ‘Super’ El Niño Could Have Brought Them There(2026年9月25日、Margherita Bassi)
ハンティントンビーチ市の発表:Olive Ridley Sea Turtle Discovered in HB/Seal Beach for the First Time
NOAA漁業局の種の解説ページ:Olive Ridley Turtle | NOAA Fisheries


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