腰ベルトの効果をめぐって逆向きの結論が並んだ理由——168人の試験と8件のレビュー

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腰痛のときに巻く腰ベルト(腰部サポーター)について、9月の第1週に、向きの違う二つのニュースが並びました。

一つは、フランスの17施設で行われた無作為化比較試験。ベルトを12週間巻いた人のほうが、巻かなかった人より日常生活の支障が減った、という「効いた」側の結果です。もう一つは、コクラン(医療の系統的レビューで知られる国際組織)が9月2日に公開したレビュー。過去の無作為化比較試験8件・501人分をまとめて、「効くとも効かないとも言えるだけの証拠がない」と結論づけました。

片方は一つの試験、もう片方は試験を集めたまとめ。同じ道具について答えが割れたように見えるとき、どちらをどう読めばいいのか。腰痛という誰にでも身近な題材で、その読み方を整理してみます。

腰ベルトの評価の現在地

先に押さえておきたいのは、腰ベルトは昔から「効くかどうかよく分からない」道具だった、ということです。

コクランは2008年にも腰ベルトのレビューを出していて、そのときの結論も「治療として効くかどうかは不明のまま」でした。WHOが2023年に出した慢性腰痛の指針は、ベルトやコルセットの日常的な使用を「条件付きで推奨しない」としています。証拠の確実性が非常に低いことと、長く使い続けたときに体を動かすのが怖くなったり筋力が落ちたりする心配があること、が理由です。ヨーロッパの指針も、推奨しないか、推奨自体を出していないかのどちらかです。

それでも腰ベルトは世界中で処方され、薬局やネットで普通に売られています。安くて、副作用らしい副作用がなく、巻けばなんとなく安心する。証拠が薄いまま広く使われている道具、という位置づけが、長いあいだ続いてきました。

今回の二つの研究は、どちらもこの「よく分からない」状態を動かそうとしたものです。

フランスの試験が示した数字

フランスの試験は、2021年2月から2024年3月にかけて、グルノーブル大学病院のリウマチ科を中心とする17施設で行われました。参加したのは、原因のはっきりしない腰痛(非特異的腰痛)が1〜6か月続いている18〜75歳の168人。平均年齢は49歳で、痛みが続いている期間は平均で約3か月、6割は以前にも腰痛を繰り返している人でした。

半分の86人には、伸縮性のあるやわらかいベルトを渡し、日中に1日4〜8時間、12週間巻いてもらいました。残りの82人はベルトなし。どちらの群にも「なるべく体を動かすこと」「いつもの痛み止めは使ってよいこと」が伝えられていて、違いはベルトの有無だけです。

主な評価は、日常生活の支障を0〜100点で測るオズウェストリー障害指数(ODI)の変化でした。12週後、ベルト群は平均10.0点、対照群は5.3点下がり、その差は4.7点。個人にとって意味のある改善とされる「30%以上の減少」に届いた人は、ベルト群で60.5%、対照群で40.5%でした。痛みの強さ(0〜100)も、安静時で8.7点、動いているときで10.0点、ベルト群のほうが大きく下がっています。

薬の使用にも差が出ました。12週間のあいだに腰痛の薬を使った人はベルト群で50.6%、対照群で67.6%。とくにイブプロフェンなどの消炎鎮痛薬(NSAIDs)は18.5%対36.5%と、半分に近い差です。副作用らしいものは、ベルト群6人が訴えた不快感や皮膚のかぶれなど軽いものだけでした。

ベルトには温度センサーが仕込まれていて、実際にどれくらい巻いていたかも記録されています。センサーの値では週に4.5日、巻いた日は1日3.8時間。日記の自己申告(週5.5日・4.9時間)より少なめで、指示された「4〜8時間」の下限に届くかどうか、という使い方でした。

この試験だけを読めば、「やわらかい腰ベルトを3か月巻くと、痛みも生活の支障も薬の使用も減る」という、かなりすっきりした結論に見えます。

コクランのレビューが示した数字

一方のコクランのレビューは、ミラノのフマニタス大学とミラノ大学のチームが、2025年1月までに発表された無作為化比較試験を探し、条件に合う8件を集めたものです。参加者は合計501人、年齢は25〜78歳。8件のうち7件が「通常の治療にベルトを足す」型の比較で、5件が低・中所得国、3件が高所得国で行われていました。

結果をまとめると、ベルトを単独で使った場合、痛みにも生活の支障にも「ほとんど差がない」。消炎鎮痛薬に足した場合に限って、短期的に痛みが少し減るかもしれない。ただし、どの比較についても証拠の確実性は「低い」か「非常に低い」で、8件の大半は、盲検化されていない、データの欠けが多い、都合のよい結果だけ報告している可能性がある、といった理由で「バイアスの危険が高いか不明」と判定されています。副作用の報告はありませんでしたが、これも「なかった」というより「記録されていない」可能性が高い、と著者らは書いています。

筆頭著者のキアラ・アリエンティ氏は、腰ベルトは効果についてほとんど何も分かっていないまま広く使われている道具であり、非常に薄い研究基盤からは、使うべきとも使うべきでないとも言えない、と述べています。

このレビュー自体には、専用の研究資金はついていません。

二つの答えが両立する理由

「効いた」と「分からない」。並べると食い違って見えますが、中身を照らし合わせると、この二つはぶつかっていません。

まず、聞いている質問が違います。コクランのレビューが集めたのは、腰痛が1年以上続いている「慢性腰痛」の人を対象にした試験だけです。フランスの試験の参加者は、痛みが1〜6か月続いている人で、平均は3か月。慢性になりかけの段階、あるいは繰り返す腰痛の一回分です。腰痛は時期によって性格が変わることが知られていて、急性期に効くものが慢性期にも効くとは限りません。「慢性腰痛に腰ベルトは効くか」という問いに、「3か月の腰痛に効いた」という試験は直接には答えていないのです。

次に、時期の問題があります。レビューの文献検索は2025年1月で締め切られていて、2026年8月に発表されたフランスの試験は入っていません。つまり「8件のまとめ」と「9件目」を見比べている状態で、後者が前者を覆したわけではありません。

そして、ここがいちばん大事なところですが、フランスの試験を、レビューが8件の試験を評価したのと同じものさしで見てみると、どうなるか。

試験は非盲検で、偽のベルトを巻く対照群はありません。参加者は自分がベルトを渡されたことを知っていて、痛みも生活の支障も自分で答えます。「巻いてもらった」という安心感そのものが答えを動かす可能性を、著者ら自身が限界として明記しています。参加者数は、設計時に必要とされた203人に対して、コロナ禍で168人にとどまりました。主要評価の群間差4.7点は、設計時に想定した10点の半分以下です。試験の資金は、使われたベルトの製造元であるThuasne社が出していて、著者のうち3人は同社から謝礼を受けています(同社は設計・解析・論文の判断に関わっていない、とも明記されています)。

非盲検、小規模、想定より小さい効果、製造元の資金。これらは、この試験が不誠実だという話ではありません。腰ベルトのように「巻いたかどうかを隠せない」道具で、製造元以外に資金を出す相手が見つかりにくい研究では、むしろ避けにくい条件です。ただ、コクランのレビューが8件の試験に「バイアスの危険が高いか不明」「確実性が低い」という判定を下した理由は、まさにこの種の条件でした。

つまり、レビューの「分からない」という結論は、フランスの試験のような研究が8件集まった結果そのものです。9件目としてこの試験が次の更新に加わったとしても、判定が「効く」にひっくり返るとは考えにくく、「効くかもしれないが確実性は低い」の側に、もう1件が積まれるだけでしょう。一つの試験が「効いた」と言い、レビューが「分からない」と言うとき、両方が正しいことは珍しくない。今回はその典型です。

「分からない」という結論の読み方

では、腰痛のある人はどうすればいいのか。二つの研究が共通して言っていることを拾うと、こうなります。

やわらかいベルトを日中に数時間巻くことで、深刻な害が出たという証拠は、どちらの研究にもありません。フランスの試験の副作用は軽いものだけで、コクランのレビューも、記録が不十分と断りつつ、臨床の実感とも矛盾しないとしています。巻いてみて楽なら、やめる理由を示す証拠はいまのところない、というのが両者を合わせた答えです。

一方で、ベルトが運動療法や「体を動かし続けること」の代わりになるという証拠は、どちらにもありません。フランスの試験でも両群に「なるべく活動的に」と指示されていて、ベルトはその上に足されたものでした。レビューの著者らも、運動や教育といった能動的な治療のほうが慢性腰痛に効くというデータはすでに十分にある、と述べています。

レビューには、もう一つ考えさせられる指摘があります。集まった8件のうち5件が低・中所得国で行われていて、上級著者のステファノ・ネグリーニ氏は、能動的な治療を受けにくい地域ほど腰ベルトの研究が多いことを「印象的だ」と表現しています。理学療法士や運動指導の専門家を必要とする治療は高くつき、それが手に入らない場所では、安くて誰でも買えるベルトが現実的な選択肢になる。自分たちは腰痛の問題を、そうした治療が当たり前に受けられる国の目線だけで見ていないか、と著者らは問いかけています。高齢化が進む国では、安価で受動的な手当ての需要はこれから増えるはずで、いま空いている証拠の穴は、これから重みを増すことになります。

結局のところ、腰ベルトが「慢性腰痛に効くのか」という問いには、2008年のレビューから18年たっても、まだはっきりした答えが出ていません。今回のフランスの試験は、より短い腰痛については「効くかもしれない」を一段強めましたが、それを確かめるには、偽のベルトを使った盲検の試験や、製造元と独立した資金で行われた試験が要ります。そういう研究が、いつ、誰の手で行われるのかは、まだ見えていません。

出典

Chiara Arienti, Stefano Giuseppe Lazzarini, Fabio Zaina, Claudio Cordani, Fulvio Dal Farra, Silvia Minozzi, Carlotte Kiekens, Stefano Negrini, “Assistive technologies (lumbar supports and other devices) for treating chronic low back pain,” Cochrane Database of Systematic Reviews, 2026年9月2日公開。DOI: 10.1002/14651858.CD015492.pub2

Laurent Grange, Paul Calmels, Yves-Marie Pers ほか, “Lumbar Belt for Nonspecific Low Back Pain: A Randomized Clinical Trial,” JAMA Network Open, 2026年8月19日公開(オープンアクセス)。DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2026.29793(全文は PubMed Central でも読めます)

レビューの概要は コクランのプレスリリース と New Atlas の記事、フランスの試験の概要は ScienceAlert の記事 でも紹介されています。

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