子宮にも常在菌がいた——減った乳酸菌が出す糖で、老いたマウスの着床率が上がった

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おなかの中に菌がいる、という話はすっかり知られるようになりました。腸内細菌です。ところが菌がいるのは腸だけではなく、子宮の中にもいます。中国・北京大学第三医院のチームが、不妊治療を受けている女性149人の子宮内膜を調べ、そこにいる乳酸菌の量と年齢、そして妊娠との関係を報告しました。2026年8月6日、査読を経て Cell Host & Microbe に掲載されています。

卵子だけでは説明しきれない加齢

年齢とともに妊娠しにくくなる理由として、まず挙げられるのは卵子の話です。数が減り、質も落ちる。実際それは事実で、生殖の加齢はほぼその一点で語られてきました。

ただ、妊娠が成立するには受精卵が子宮の壁にもぐり込む必要があります。この壁が子宮内膜——子宮の内側を覆う組織で、受精卵が着床する場所です。責任著者である同院産婦人科のRong Li氏は、生殖の加齢は卵巣の予備能と胚の質の問題として扱われてきたが、妊娠が成立するかどうかは受け入れる側の子宮内膜の状態にもかかっている、という趣旨のことを述べています。

子宮内膜も、歳をとります。加齢とともに受精卵を受け入れる力(着床受容能)が落ちていくことは以前から知られていました。分かっていなかったのは、その落ち方に何が関わっているのかです。

年齢とともに減っていた特定の菌種

チームは、不妊治療を受けている20〜45歳の女性149人から子宮内膜の検体を集め、30歳未満・30〜35歳・35歳超の3つに分けて中の菌を比べました。すると、いちばん若い群だけが乳酸菌(Lactobacillus)を明らかに多く持っていました。とくに Lactobacillus gasseri という種が、年齢が上がるほど減っていました。

ここでLi氏が意外だったと言っているのが、菌の顔ぶれの豊かさ——多様性——のほうは、年齢層をまたいでもほとんど変わらなかった点です。全体がまんべんなく痩せていくのではなく、特定の菌だけが抜け落ちていく。減り方に選り好みがあったわけです。

1年後の追跡では、149人のうち93人が胚移植を受け、56件が臨床妊娠に至りました。妊娠した人は、しなかった人より子宮内膜の乳酸菌が多い傾向がありました。ただし、この93人の妊娠率そのものは3つの年齢群のあいだで有意な差がありません。ここは押さえておく必要があります。そして、これはあくまで「多い人のほうが妊娠していた」という相関です。乳酸菌が多いから妊娠したのか、妊娠しやすい体の状態が乳酸菌の多さとして表れているだけなのか、この調査では区別がつきません。

効き目を担っていた糖の膜

相関の話をここで止めず、チームは実験に進みました。検体から見つかった5種類の乳酸菌をそれぞれ子宮内膜の細胞と組み合わせて調べたところ、L. gasseri が抜きん出ていました。細胞にいちばん強く貼りつき、炎症を抑え、酸化ストレス(細胞を傷める反応性の高い分子による負担)による傷みも小さくしていたのです。

「では、この菌を増やせばいい」という話になりそうなところですが、結果はそこに落ち着きませんでした。

L. gasseri は、菌体外多糖(EPS)と呼ばれる糖の分子を大量に分泌します。菌が自分の外側にまとうように出す、糖でできた膜です。チームはこれだけを精製し、LG-EPSと名付けました。

そして、人でいえば中年にあたる年齢の高いメスのマウスに、生きた L. gasseri、またはLG-EPSを、4週間にわたって毎日、膣内に投与しました。どちらの群でも、無処置のマウスに比べて子宮の老化の徴候が減り、炎症が軽くなり、胚の着床率が上がっています。人の子宮内膜の細胞を薬剤で人工的に老化させたものにLG-EPSを加えた実験でも、老化の徴候は小さくなりました。

決め手になったのは、ここからです。チームは、EPSを作れないように改変した L. gasseri を用意して、同じ実験をやり直しました。すると、確認されていた効果の多くが消えました。菌はそこにいて、細胞にも貼りつく。それでも糖を出せないと効かない。つまり、はたらいていたのは菌そのものではなく、菌が出していた糖のほうだった、ということになります。

生きた菌を使わないという選択肢

生きた菌を摂るのがプロバイオティクスなら、菌が作り出した物質だけを取り出して使うのがポストバイオティクスです。生き物ではないので、増えることも死ぬこともありません。LG-EPSはこの後者にあたります。

Li氏は、特定の菌の産物という形にできれば、生きた微生物そのものを使うより臨床で扱いやすい選択肢になりうる、と述べています。生きた菌を治療に使う場合、体内でどう振る舞うかまで面倒を見なければなりませんが、精製した物質なら量も品質も管理しやすい。子宮内膜は、卵子や胚に比べれば外から手が届きやすい場所でもあります。

経路をさかのぼった裏づけ

もう一歩、確かめ方があります。LG-EPSが細胞の中の何を動かしているのかを追ったところ、Hippo-YAPと呼ばれる情報伝達の道筋にたどり着きました。細胞の増え方や組織の修復を調節する仕組みで、年老いたマウスや細胞ではこの調節が乱れており、投与によって整えられていました。

そこでチームは、この経路の要になるYap1という遺伝子を若いマウスで働かなくしてみました。すると、若いのに子宮内膜が早々と老化した状態になり、その状態のマウスに L. gasseri を投与しても、老化の徴候も着床率も改善しませんでした。

糖がなければ効かない。糖があっても、受け取る側の経路が塞がっていれば効かない。両側から潰していったことで、偶然の一致ではなく筋の通った因果として読める形になっています。

臨床までの距離と、いま言えないこと

ここまでの話には、大きな但し書きが付きます。効果が確かめられたのは、マウスと、培養された人の細胞だけです。人に投与した試験は行われていません。研究チーム自身、これが人の妊よう性の改善につながるかどうかは分からない、と論文の中で明言しています。「不妊治療の新しい方法ができた」という段階では、まったくありません。

限界は他にもあります。マウスへの投与は膣内で、それがどれだけ子宮内膜まで届いたのかは測定されていません。実験に使われたマウスは特定の病原体を持たない環境で育ったもので、人の生殖管が抱える菌や女性ホルモンの複雑さを部分的にしか映していません。着床率の改善も完全ではなく、微生物叢だけでは説明しきれない加齢の要因が他にもあることを、論文自身が示唆しています。検体が中国の1施設で集められたものだという点も残ります。

コロンビア大学の不妊治療専門医であるAlex Robles氏は、この研究には関わっていない立場から、興味深く有望なやり方ではあるが、これが人の妊よう性の意味ある改善につながるかはまだ分からない、と述べています。微生物叢は遺伝的な背景・食事・住んでいる地域・環境・生活習慣といったさまざまなものの影響を受けるため、集団を変えて確かめる必要がある、という指摘です。

そしてもうひとつ、この研究を読んで市販の乳酸菌サプリメントに手を伸ばす、という受け取り方はしないでください。Li氏自身が、市販の L. gasseri 製品を自己判断で不妊の治療に使わないよう注意を促しています。これらの製品は不妊治療用として検証されていません。Robles氏の言い方はもう少し踏み込んでいて、生殖管は繊細な生態系であり、特定の菌を入れたり取り除いたりすれば思わぬ結果を招きかねない、そもそも「健康な子宮内膜の菌の状態」がどういうものかを我々はまだ十分に分かっていない、というものです。

腸の話だと思っていた常在菌が、子宮にもいた。そこが減ると、受け入れる側の組織が老けていくらしい。そして効いていたのは、菌ではなく菌が残していった糖だった。ここまでが今回分かったことで、その先——人の体で同じことが起きるのか——は、まだ誰も確かめていません。

出典

Lactobacillus gasseri postbiotics ameliorate age-related decline in endometrial receptivity(Cell Host & Microbe, 2026年8月6日)

Bacterial supplements may boost female fertility(Cell Press プレスリリース/EurekAlert!)

Bacterial ‘postbiotic’ may help preserve fertility in the aging uterus, preliminary research suggests(Live Science, 2026年8月7日)

この記事は情報の紹介を目的としたもので、医学的な助言ではありません。妊娠や不妊治療について判断が必要なときは、必ず担当の医師に相談してください。

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