ティラノサウルスの体温は36.3℃だった――歯のエナメル質が明かした「ヒト並み」の数字

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ティラノサウルスの体温は36.3℃だった。2026年9月16日、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のチームが査読誌 Science Advances に発表した数字です。ヒトの平熱とほぼ同じで、ワニやトカゲより高く、鳥より低い。「T.レックスはたぶん温血だった」という話はこれまでもありましたが、具体的な温度が実測されたのはこれが初めてになります。

150年続いた温血・冷血論争

恐竜が温血だったのか冷血だったのかは、恐竜という名前がついた19世紀からずっと議論されてきました。20世紀の前半までは「巨大なトカゲ」のイメージが強く、日なたで体を温めてから動く、のろい動物と考えられていた時期もあります。1960年代以降、骨の内部構造や成長の速さ、鳥との近さといった手がかりから「実は活発で温血だったのでは」という見方が広まり、いまでは少なくともティラノサウルスの仲間については温血説が優勢です。

ただ、そこで使われてきた証拠はどれも間接的なものでした。骨の断面に見える成長線の間隔、体の大きさから計算した代謝、鳥の祖先にあたるという系統上の位置。どれも「温血だったなら説明がつく」という話であって、体温そのものを測ったわけではありません。6600万年前に死んだ動物に体温計を当てる方法がなかった、というのが正直なところです。

歯のエナメル質は温度計になる

今回のチームが使ったのは、歯のエナメル質に残る「同位体の結びつき方」です。炭素にも酸素にも、ふつうより少し重い希少な同位体(同じ元素で重さだけ違うもの)があります。エナメル質ができるとき、この重い炭素と重い酸素が隣り合って結びつく割合は、そのときの温度で決まります。温度が低いほど結びつきが多く、高いほど少ない。つまり、結びつきの量を測れば、エナメル質が作られたときの温度、すなわちその動物の体温がわかるという理屈です。この手法はクランプト同位体温度計と呼ばれています。

骨ではなく歯を選んだのには理由があります。骨は生きているあいだに絶えず作り替えられ、化石になったあとも周囲の環境で成分が入れ替わりやすい。一方、エナメル質は大きく硬い結晶でできていて、何千万年たっても化学的に変質しにくい部分です。体温の記録を読み出すなら、いちばん信頼できる場所ということになります。

問題は必要な試料の量でした。UCLAのチームはこの温度計を10年ほど前に開発し、メガロドンなど絶滅した動物が温血か冷血かを調べてきましたが、ティラノサウルスの歯を削って測るには、当時の手法では博物館が許してくれる量をはるかに超える試料が要りました。そこで10年かけて装置と手順を改良し、必要な量を約90%減らして、数ミリグラムで測れるようにしたそうです。放出した二酸化炭素を加圧して密度の高いガスにし、少ない試料でも質量分析計にかけられるようにしたのがポイントだと説明されています。

試料を提供したのはロサンゼルス郡自然史博物館です。同館の恐竜ホールにある「トーマス」というティラノサウルスの全身骨格のうち、展示していない歯2本の一部が削られました。トーマスはモンタナ州のヘルクリーク層で発掘された個体で、同館でもっとも完全なティラノサウルス標本です。館の研究部門を率いるルイス・キアッペ氏は、貴重な標本を削る依頼は日常的に来るが、歯2本のごく一部を犠牲にしてティラノサウルスの体温がわかるなら十分に見合う、と話しています。測定に使われたティラノサウルスの歯は、このトーマスの2本を含めて合計3本で、いずれもヘルクリーク層のものです。

ワニより6℃高く、鳥より4℃以上低い

出てきた数字が36.3℃です。誤差はプラスマイナス2.5℃と報じられています。ヒトの平熱が37℃前後、ゾウが36℃前後なので、大型の哺乳類とほぼ同じ体温だったことになります。

この数字を読むうえで重要なのが、同じヘルクリーク層から出たワニの仲間の歯も同じ方法で測っていることです。こちらは30℃でした。現生のワニやトカゲの体温は28〜30℃くらいで、周囲の気温とほぼ同じ。つまり白亜紀末のモンタナで、ワニの体温は環境なりの30℃だったのに、ティラノサウルスはそれより6℃も高かったわけです。同じ地層の二枚貝も環境温度を示していました。もし化石化のあいだに地質の影響で同位体の記録が書き換わっていたなら、ワニもティラノサウルスも似た値になるはずです。両者が違う値を示したことが、36.3℃が本物の体温だという根拠になっています。

一方で、現生の鳥はもっと熱い動物です。多くの鳥の体温は40〜43℃で、ダチョウでも39℃前後あります。ティラノサウルスは鳥の祖先に近い系統ですが、体温は鳥の域には達していませんでした。共著者のロバート・イーグル氏は「爬虫類やナマケモノのような代謝の遅い哺乳類より高く、鳥より低い。だいたい予想どおりの値だった」と述べています。外部の研究者からは「もう少し高い、鳥に近い値を予想していた」という声も出ています。

温血か冷血か、という問いの立て方だと、答えは「温血」で終わりです。ただ、36.3℃という数字は、それ以上のことを語っています。ティラノサウルスは、冷血の爬虫類から鳥のような高体温へ向かう道筋の、途中にいた。この研究のチームも、鳥の祖先にあたる系統が冷血の恐竜からどこまで離れていたかを示す、時間軸の一点として位置づけています。

メキシコからアラスカまで

体温がわかると、その動物がどこまで住めたかを計算できます。チームは白亜紀末の気候モデルと組み合わせて、36.3℃の体温を保てるティラノサウルスが生きられた範囲を北米大陸上で推定しました。結果は、いまのメキシコからアラスカまで。白亜紀は地球史でも指折りの温暖期で、平均気温は現在より6〜14℃ほど高かったとされますが、それでもアラスカの冬は冷血の爬虫類には厳しすぎたと共著者のアレッサンドロ・キアレンツァ氏(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)は言います。

実際、白亜紀のアラスカからはトカゲもカメもワニも化石が見つかっていないのに、ティラノサウルス類の化石は出ています。冷血の動物が越冬できない土地に、体温を自分で保てる肉食恐竜だけがいた。体温の実測値は、この化石記録の偏りにうまく説明をつけてくれます。北米とアジアがベーリング陸橋でつながっていた時期にティラノサウルス類が行き来していた、という近年の説とも整合する話です。

研究が言えるのは、いまのところティラノサウルスについてだけです。ヘルクリーク層の3本の歯から出た値であって、すべての恐竜が同じ体温だったという話ではありません。チームは次にトリケラトプスやステゴサウルス、ブラキオサウルスといった別の系統の恐竜に同じ方法を使い、高い体温を保つ能力が恐竜の中でいつ、何度生まれたのかを調べたいとしています。研究を統括したアラドナ・トリパティ氏の言葉を借りれば、これほど有名な動物なのに、私たちが実際に知っていたことは驚くほど少なかった。体温が測れるようになったことで、行動範囲や食べる量、気候の変化への応答といった、生き物としての基本的な部分にようやく手が届き始めています。

出典

論文:Flores, R. J., Eagle, R. A., Trayler, R. B., Conte, G. L., Kim, S. L., Chiarenza, A. A., Farnsworth, A., Valdes, P. J., Chiappe, L., & Tripati, A. (2026). The body temperature of Tyrannosaurus rex. Science Advances, 12.

プレスリリース:UCLA Newsroom Scientists finally know the body temperature of the Tyrannosaurus rex(2026年9月16日)

報道:Live Science Scientists finally figured out the temperature of T. rex’s blood — and it was as hot as ours(2026年9月16日)

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