新型コロナで入院した患者のおよそ半数で、もともと体の中に潜んでいた別のウイルスが活動を再開していた——そんな調査結果が、2026年8月5日付の科学誌『Nature』に掲載されました。米国の20病院・1,154人の患者を最長1年間追いかけた研究で、テキサス大学オースティン校のエスター・メラメド氏らのチームがまとめたものです。
目を覚ましていたのは、EBウイルスや口唇ヘルペスのウイルスなど、多くの人が子どものころから持っているものばかりでした。しかも、その目覚め方は、これまでの医学の常識とは少し違っていました。

体の中に住みついている「眠ったウイルス」
ウイルスの中には、一度感染すると体から出ていかず、一生そのまま居残るものがあります。代表がヘルペスウイルスの仲間です。唇に水ぶくれをつくる単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、10代でかかると高熱やのどの腫れを起こすことがあるEBウイルス(エプスタイン・バーウイルス)、多くの人が気づかないうちに感染しているサイトメガロウイルス(CMV)。どれも最初の感染がおさまったあとは、神経や免疫細胞の中でほとんど活動せず、じっと潜んでいます。
論文によれば、人はふだんから8〜12種類ほどのこうしたウイルスを抱えて暮らしています。ほとんどの場合は無害で、症状も出ません。
ただし、眠ったままとは限りません。強いストレス、睡眠不足、手術、重い病気などをきっかけに、ウイルスがふたたび増え始めることがあります。これが「再活性化」です。疲れたときに口唇ヘルペスが出るのは、その身近な例です。
新型コロナでも、重症患者でEBウイルスやサイトメガロウイルスが再活性化しているという報告は、パンデミックの初期からありました。ただ、これまでの研究は患者数が少なかったり、ある一時点しか調べていなかったり、ウイルスそのものではなく抗体の量から間接的に推定していたりと、全体像をつかむには材料が足りていませんでした。どのウイルスが、いつ、どれくらいの割合で目を覚ますのか。それは病状とどう関係するのか。今回の研究は、そこを正面から調べています。
入院患者1,154人を1年間追った調査
使われたのは「IMPACC(インパック)」と呼ばれる米国の大規模な追跡調査のデータです。2020年5月から2021年3月にかけて、全米20の病院に新型コロナで入院した18歳以上の患者1,154人が登録されました。ワクチンが行きわたる前の時期で、全員が未接種です。
患者からは、入院から72時間以内、4日目、7日目、14日目、21日目、28日目、さらに退院後の3・6・9・12か月目と、最大10回にわたって血液と鼻の奥のぬぐい液が採られました。人工呼吸器をつけた患者では、気管の奥の分泌物も集めています。
チームはこれらの検体に含まれるRNAを片っぱしから読み取り、新型コロナ以外のウイルスの遺伝子が「いま読み出されているかどうか」を調べました。眠っているウイルスは遺伝子をほとんど働かせないので、ウイルス由来のRNAが見つかれば、そのウイルスが活動している証拠になります。抗体から推定する従来のやり方より、直接的な見方です。
結果、入院から40日以内に、解析できた1,148人のうち550人(47.9%)で、潜んでいたウイルスの活動が検出されました。多かったのはEBウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、サイトメガロウイルス、そして「アネロウイルス科」と呼ばれるグループです。アネロウイルスについては後で詳しく触れます。なお、550人のうち約3分の2(67.6%)は、検出されたウイルスが1種類だけでした。
ウイルスごとに違っていた目覚めの時期
何度も検体を採っていたおかげで、目を覚ますタイミングがウイルスごとに違うこともわかりました。
いちばん早いのはEBウイルスです。入院から8日目までの時点で、すでに患者の24%(1,080人中260人)から検出され、その後はゆっくり減っていきました。入院時点でEBウイルスに対する抗体の量も高くなっていたことから、チームは「入院するより前、症状が重くなる前の段階で、すでに再活性化が始まっていた患者もいる」とみています。
アネロウイルスは入院後20日目ごろまでほぼ一定の割合で検出され、そこから徐々に下がりました。
反対に遅かったのが、単純ヘルペスウイルス1型とサイトメガロウイルスです。ピークは入院からおよそ22日後。19〜23日目の時点で、単純ヘルペスウイルス1型は気管の検体の43%(30人中13人)、鼻の検体の15%から見つかっています。入院が3週間に及ぶ患者、つまり状態の悪い患者で、あとから出てくるウイルスということになります。

病状との関係もはっきり出ました。患者は入院中の経過によって、軽症(3〜5日で退院)から、28日以内に死亡した最重症まで5つのグループに分けられています。EBウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、アネロウイルスのいずれも、重いグループほど検出される割合が高くなっていました。また、入院が28日を超えた重篤なグループの中で比べると、鼻や気管からこれらのヘルペスウイルスが検出された患者は、そうでない患者に比べて1年以内に亡くなる割合が高くなっていました。
免疫の弱りでは説明できなかった再活性化
ここまでは、ある意味で予想の範囲内です。意外だったのは、その原因のほうでした。
潜んでいるウイルスの再活性化は、医療の現場では昔から「免疫が抑えられた人に起きるもの」として知られてきました。臓器移植のあとで免疫抑制剤を使っている患者や、血液のがんの治療中の患者で、サイトメガロウイルスが暴れ出すのが典型です。見張り役の免疫が弱るから、眠っていたウイルスが起きてくる。理屈としてはわかりやすい話です。
新型コロナの重症患者にも、この説明がそのまま当てはまると考えられてきました。重症になるとリンパ球が減りますし、治療で炎症を抑えるステロイドも使われます。どちらも免疫を弱める方向に働きます。
ところが、今回のデータはそうなっていませんでした。ヘルペスウイルスの再活性化は、免疫抑制剤を使っているかどうかとも、ステロイド治療を受けたかどうかとも、関連が見られなかったのです。再活性化が免疫の弱りを映しているだけなら、免疫を抑える薬を使っている人ほど多くなるはずですが、そうはなりませんでした。
代わりに結びついていたのは、炎症の強さです。再活性化が起きていた患者では、IL-6、IL-10、CXCL10、IL-18といった、炎症のときに血液中に増える信号物質が高くなっていました。これらは新型コロナの重症化と関連することが知られている物質で、チームは病状の重さ・年齢・性別の影響を統計的に差し引いたうえで比べていますが、それでも差は残りました。血液中では、活性化したT細胞(ウイルスに感染した細胞を攻撃する免疫細胞)も増えていました。免疫が黙っているどころか、むしろ盛んに働いている状態です。
つまり、免疫の機能に問題のない人でも、重い感染症で全身に強い炎症が起きると、眠っていたウイルスは目を覚ます。論文は、再活性化をおもに免疫抑制の結果とみなしてきた従来の見方に、この結果が見直しを迫るものだと述べています。
では、目を覚ましたウイルスは病状を悪くしているのでしょうか。それとも、病状が悪いから目を覚ましただけなのでしょうか。この点について論文は慎重で、今回のデータから因果関係は決められないと明記しています。ただ、病状の重さを差し引いても炎症物質が上乗せで増えていること、EBウイルスが重症化より前に動き出していたらしいことから、チームは「再活性化はただの付随現象ではなく、進行中の炎症をさらに強めている可能性がある」と考えています。
後遺症と関連が見つかった別のウイルス
もうひとつ、予想と違う結果が出たのがコロナ後遺症(ロングCOVID)との関係です。
後遺症の原因候補として、これまでいちばん名前が挙がってきたのはEBウイルスでした。後遺症の患者でEBウイルスへの抗体が高いという報告が複数あったためです。ところが今回の調査では、入院中にEBウイルスが再活性化していたかどうかと、その後に後遺症が出たかどうかのあいだに、はっきりした関連は見つかりませんでした。
関連が出たのはアネロウイルスのほうです。退院後の検体でアネロウイルスの活動が検出された人は、疲れやすさや身体機能の低下が長く続くグループに多く含まれていました。年齢、免疫抑制剤の使用、入院中の病状の重さを考慮に入れても、この傾向は残っています。
アネロウイルスは一般にはあまり知られていませんが、珍しいウイルスではありません。代表格のトルクテノウイルス(TTV)は、1997年に日本の研究グループが発見したもので、人口の80〜90%が持っているとされます。ただ、持っていても何の病気も起こさないように見えるため、「体に害のない同居人」として扱われることが多く、病気との関わりはずっと議論の対象でした。
今回の結果は、そのアネロウイルスが後遺症の身体症状の「目印」になりうることを示しています。ただし、ここでも言えるのは関連までです。アネロウイルスが症状を引き起こしているのか、免疫の調子が崩れた結果としてアネロウイルスが増えているだけなのかは、まだわかりません。論文によれば、アネロウイルスは高齢者や免疫抑制剤を使う人で増えやすく、免疫の老化と関連するという報告もあるため、後者の見方も十分に成り立ちます。
この研究からは言えないこと
結果の受け取り方については、いくつか注意が要ります。
まず、対象は入院が必要だった患者だけです。自宅で治った軽症の人で同じことが起きているかどうかは、この研究からはわかりません。
次に、時期の問題があります。データは2020〜2021年の初期の流行株に、ワクチン未接種の状態で感染した人のものです。現在は多くの人がワクチン接種や過去の感染による免疫を持っており、流行している株も違います。論文自身が、いまの状況に当てはまるかどうかは今後の研究で確かめる必要があるとしています。
後遺症の分析にも制約があります。調査に使われた質問票は、後遺症の定義が固まる前のパンデミック初期に設計されたもので、現在の基準とは完全には一致しません。また、入院中にウイルスの再活性化があった患者は死亡や追跡からの脱落が多く、後遺症との関係を調べられる人数が限られていました。EBウイルスと後遺症の関連が見えなかったのは、このせいかもしれないとチームは述べています。
そして、くり返しになりますが、因果関係は示されていません。ヘルペスウイルスには既存の抗ウイルス薬があるため、「再活性化を薬で抑えれば重症化や後遺症を防げるのでは」という発想は自然に出てきます。チームもその可能性に触れていますが、実際に効果があるかどうかは、これから臨床試験で確かめる段階です。
重い感染症のあとに残された問い
この研究が描いたのは、新型コロナという1種類のウイルスとの闘いの裏で、体の中のウイルスたちの均衡がまとめて崩れていた、という姿です。チームはこの状態を、腸内細菌のバランスの乱れを指す「ディスバイオシス」になぞらえて、「ディスバイローシス(dysvirosis)」と呼んでいます。
再活性化そのものは新型コロナに限った現象ではありません。敗血症や重い肺炎、マラリアでも、EBウイルスやサイトメガロウイルスが目を覚ますことが以前から報告されています。今回わかった「免疫の弱りではなく炎症がきっかけになる」という仕組みが、ほかの重い感染症にも共通するのかどうかは、次に確かめるべき点です。
研究に参加したボストン小児病院のオファー・レヴィ氏は、同病院の発表の中で、米国では2025〜2026年の冬のシーズンにも最大5万人が新型コロナで亡くなったと指摘し、後遺症に苦しむ人が今も多いことを強調しています。チームは今後、再活性化したウイルスに免疫がどう反応しているのかを時間を追って調べ、介入するとすればどの時期が適切かを探っていくとしています。
再活性化を検査で見張ることに意味があるのか、抑える治療が患者の助けになるのか。答えが出るのはまだ先ですが、どのウイルスが、いつ、どんな患者で目を覚ますのか。その見取り図ができたことで、次の研究が狙うべき時期と対象は、以前よりはっきりしました。
出典
Maguire, C. et al. “Virus reactivation in acute and long COVID-19.” Nature 656, 700–711 (2026). 2026年8月5日公開、オープンアクセス。
https://www.nature.com/articles/s41586-026-10740-z
ボストン小児病院のプレスリリース(EurekAlert!、2026年8月5日)
https://www.eurekalert.org/news-releases/1138588


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