南極大陸は、表面の99.5%以上が厚い氷に覆われています。面積では5番目に大きな大陸なのに、その下にどんな岩があり、どんな歴史をたどってきたのかは、ほとんど分かっていません。
その氷の下に、ヒマラヤ級の山脈の「根」が埋まっている。オーストラリア国立大学のベイ・チェン氏とイアン・キャンベル氏が、そういう結論の論文を地球科学の専門誌 Earth and Planetary Science Letters に発表しました。しかもその山脈が削られていく過程が、カンブリア爆発と呼ばれる動物の急激な多様化の下地をつくった、というのが2人の主張です。
氷に覆われた大陸の調べ方
南極の地質について分かっていることは、上空や地上からの物理探査と、氷の上にわずかに突き出た岩山から得られたものに限られます。岩が顔を出している場所は大陸の縁に偏っていて、内陸の大部分は手つかずのままです。
そこで2人が使ったのは、大陸から運び出された砂でした。南極の氷床は少しずつ海へ向かって流れていて、その途中で足元の岩盤を削り、砕けた岩のかけらを沿岸の海底まで運びます。つまり南極をとりまく海底の堆積物には、氷の下の岩が粉になって混ざっています。国際深海科学掘削計画(IODP)などが南極の大陸縁辺で掘り出した試料のうち、12地点ぶんを分析に回しました。
調べたのは、砂に含まれるジルコンという鉱物です。ジルコンはとても丈夫で、もとの岩が風化して砂になり、川や氷に運ばれても壊れずに残ります。しかも結晶の中にウランを取り込んでいるので、ウランが鉛に変わった割合から、その粒が何億年前に結晶になったのかを一粒ずつ測れます。ジルコンは大陸どうしがぶつかって地殻が溶けるようなときに大量にできるため、年代を数多く集めて並べると、「その土地でいつ大きな山づくりが起きたか」が山なりの分布として浮かび上がります。

ジルコン1,712粒の年代分布
今回新たに年代を測ったジルコンは1,712粒。これに過去の研究で報告されていた南極沖の約2,200粒を合わせて、南極のジルコン年代データベースをつくりました。
年代の分布には4つの山が現れましたが、そのうち6億5,000万〜4億5,000万年前の山が飛び抜けて大きく、2番目の山(3億〜1億年前)のおよそ3倍の粒数がありました。ひとつの時期にここまで偏る大陸はほかにない、と論文は書いています。6億5,000万〜4億5,000万年前というのは、いまのアフリカ、南アメリカ、インド、オーストラリア、南極などが次々にぶつかって、巨大な大陸ゴンドワナが組み上がっていった時期にあたります。
年代だけでは、山の高さまでは分かりません。そこで2人が注目したのが、ジルコンに含まれるルテチウムという元素の量です。ヒマラヤのように非常に高い山脈の地下深くでは、高い圧力のもとでガーネット(ざくろ石)ができます。ガーネットはルテチウムをよく取り込むので、その隣で育ったジルコンはルテチウムが少なくなります。ルテチウムの少ないジルコンは、高い山の根で生まれた粒の目印になるわけです。南極のジルコンには、この目印を持つ粒が、問題の時期に集中して含まれていました。
山ができる条件もそろっています。ヒマラヤは、インドが年間20cmという速さでユーラシアにぶつかってできました。高い山脈をつくるには、ある程度大きな大陸どうしが、勢いよく衝突する必要があります。古地磁気の研究によると、カンブリア紀のはじめごろのオーストラリアは年間16cm前後(誤差は大きいものの)で動いていたと見積もられていて、東南極で5億5,000万〜5億3,000万年前ごろに起きた大陸どうしの衝突は、ヒマラヤ型の山脈を生む条件を満たしていたと2人は見ています。
山そのものは、数億年のあいだにすっかり削られてしまいました。いま氷の下に残っているのは、かつて山の地下深くにあって高い圧力を受けた岩、つまり山脈の根の部分だと考えられています。
欠けていた南極というピース
この話には前段があります。ゴンドワナができるときの巨大山脈が動物の進化を後押しした、という仮説は、キャンベル氏らのグループが2006年から唱えてきたものです。当初は、東西のゴンドワナがぶつかってできた全長8,000km以上の山脈として「トランスゴンドワナ超山脈」と名づけられていました。根拠の中心にあったのは、世界の大河の砂から集めたジルコンの年代分布で、やはり6億5,000万〜4億5,000万年前に大きな山がありました。
ところが2018年、この山の大きさに疑問が出されます。その後に編まれた、桁違いにデータ数の多い世界規模のジルコン年代集では、ゴンドワナの時期の山がそれほど目立たなかったからです。
今回の論文は、その食い違いの理由を2つ挙げています。ひとつは、大規模な年代集が採取地の面積で重みづけされていないこと。分析は北半球、とくにアメリカで数多く行われてきたので、粒数をそのまま積み上げると北半球の歴史が強く出ます。ゴンドワナは南半球のできごとなので、どうしても過小に見えてしまう。もうひとつは、どの年代集にも、氷に覆われた南極のデータが入っていなかったことです。
ゴンドワナを組み立て直すと、南極はオーストラリア、インド、アフリカをつなぐ真ん中のピースになります。その真ん中が、氷のせいで丸ごと抜けていました。
2人は南極のデータを、世界の大河やオーストラリアの砂丘のデータと合わせ、流域や大陸の面積で重みをつけ直しました。合計8,995粒ぶんの分布では、6億5,000万〜4億5,000万年前の山が地球史を通じて最大になります。全ジルコンに占める割合は20%。超大陸パンゲアができた時期の14%、ロディニアの11%、ヌーナの8%を上回りました。高い山の根を示すルテチウムの少ない粒に限ると、37%がこの時期に集中しています。
さらに、カンブリア紀のはじめから動物の多様化が一段落するまでの5億4,000万〜5億1,000万年前に絞ると、世界のジルコンのうち41%が南極から、地続きだったオーストラリア南東部を合わせると46%が、この一帯から来ていました。高い山の根を示す粒では、合わせて55%にのぼります。動物の歴史でいちばん大事な時期に、海へ流れ込んだ砂のほぼ半分が、いま氷の下にある山から出ていた計算です。
東西の衝突だけでなく、アフリカ東部、ブラジルからナミビア、南極からオーストラリア西部へと延びる衝突帯をすべて合わせると、長さはおよそ2万km。アルプスからヒマラヤへ続くいまの山脈帯(約7,500km)の2.5倍を超えます。2人はこの全体をまとめて「ゴンドワナ超山脈」と呼び直すことを提案しています。
削られた山から海へ、海から大気へ
高い山は、それだけ速く削られます。削られた土砂は川で海へ運ばれ、大陸の縁から深海へなだれ落ちて、海底扇状地と呼ばれる扇形の厚い堆積物をつくります。いまの地球で最大のものは、ヒマラヤの土砂がたまったベンガル湾の海底扇状地で、アマゾン川のものの20倍、ミシシッピ川のものの40倍の規模があります。
オーストラリア南東部には、オルドビス紀(約4億8,500万〜4億4,400万年前)に積もった同じタイプの地層が広く分布していて、その量はベンガル湾の海底扇状地に匹敵すると見積もられています。今回、この地層のジルコンと南極のジルコンを比べたところ、年代分布の2つの山の位置がよく一致しました。2人の解釈では、オーストラリア南東部の地層は、東南極から延びていた巨大な海底扇状地の、河口から遠い若い部分にあたります。河口に近い古い部分は、いまの南極横断山脈のあたりで氷の下に埋もれている、というわけです。同じ時期の海底扇状地はヨーロッパ、南アメリカ、中東、インドなどにも残っていて、地質記録のなかで最大の堆積システムだったとされています。

この土砂が生き物に効いた経路を、論文は2つ挙げています。
ひとつは栄養です。岩が削られると、リンや鉄といった、生き物に欠かせない元素が海に流れ込みます。殻や骨格の材料になるカルシウムも一緒です。まず増えるのは藻類やシアノバクテリアのような光合成をする生き物で、これが動物の食物網の土台になります。カンブリア紀の始まりの地層から大規模なリン鉱床が現れることも、この時期の海にリンがたっぷり供給されていた証拠として挙げられています。
もうひとつは酸素です。光合成は酸素を出しますが、できた有機物が分解されれば、同じだけの酸素がまた消費されます。大気の酸素が正味で増えるのは、有機物が分解される前に地中へ埋もれたときだけです。ふつうの川では、運ばれる途中で有機物の大半が酸化されてしまい、アマゾンのような大河でも埋もれるまで残るのは3割ほどとされます。これに対して、土砂が一気に深海へ落ちて積もる海底扇状地では、酸化で失われる分がずっと少なくなります。実際、この時期の泥岩は、それ以前の時代のものと比べて有機炭素も硫黄も多く含んでいます。
この時期、大気の酸素はおよそ一桁増えたと見積もられていて、地球史で2度目の大きな酸素上昇にあたります。その途中に、動物の歴史の節目が並んでいます。海綿動物の痕跡とされる分子化石が約6億5,000万年前、動物の食物網の土台になる緑藻が約6億2,500万年前。エディアカラ生物群を代表する平たい楕円形の生き物ディッキンソニアが約5億5,800万年前で、これが確認されている最古級の大型動物です。そしておよそ5億3,900万年前にカンブリア紀が始まり、5億1,400万年前ごろまでに、三葉虫をはじめ、いまの動物の主なグループがひととおり化石記録に出そろいます。
ゴンドワナの山づくりは、一度の衝突ではなく、2億年ほどのあいだに起きた衝突の積み重ねでした。山は衝突が終わってからも2億年以上削られ続けるので、古い山からの土砂に、新しい山からの土砂が次々に上乗せされていきます。栄養の供給がいちばん多くなるのは、最後の大きな衝突のころです。南極のジルコンの山は、世界全体の山のなかでも若い側に寄っていました。南極での衝突がゴンドワナ完成の最終盤にあたり、それがカンブリア爆発の時期と重なる、というのが2人の描く筋書きです。
仮説としての現在地
報道の見出しだけ読むと「南極の山がカンブリア爆発を起こした」と受け取りたくなりますが、論文はそこまで言っていません。結びの部分で2人は、南極での大陸衝突がカンブリア爆発を引き起こしたわけではなく、その役割は爆発を後押しする好条件を用意したことだ、とはっきり書いています。そのうえで、地球史でもっとも劇的な進化の時期と、もっとも重要な山づくりの時期が重なっているのは偶然とは考えにくい、と述べるにとどめています。
酸素についての試算も同じ扱いです。海底扇状地の総量を、ヒマラヤ・チベットから出た土砂の2倍以上と仮定すると、埋もれた有機炭素と硫黄から放出された酸素は、いまの大気にある酸素の約18倍になります。ただしこの数字は仮定を重ねたもので、2人自身が、仮説の証明にはならないが成り立ちうることは示せる、と位置づけています。
説明しきれていない点も挙げられています。約8億年前、ゴンドワナの山づくりが本格化する前にも酸素が増えた兆候があり、これは今回の筋書きにうまく収まりません。2人は一時的な上昇だった可能性を指摘していますが、決着はついていません。
読む側として押さえておきたいのは、氷の下の山の根を直接見た人はまだいない、ということです。証拠はすべて、沖の海底に運ばれた砂粒から組み立てたものです。また、この仮説は同じグループが20年にわたって育ててきたもので、今回の論文は短報という形式でもあります。ほかの研究者による検証はこれからです。
カンブリア爆発の背景を大陸の動きに求める研究は、ほかにも出ています。今月には中国地質科学院などのチームが、ゴンドワナを取り巻いていた火山帯が二酸化炭素を出して地球を温めたことが効いた、とする論文をScience Advancesに発表しました。山からの栄養と酸素なのか、火山による温暖化なのか、その両方なのか。どちらの説も、ゴンドワナという大陸の完成と動物の多様化が同じ時期に起きたことを出発点にしていて、答えの一部はまだ南極の氷の下にあります。
出典
Bei Chen, Ian H. Campbell (2026) Do Himalayan-style mountains lie under the Antarctic ice: Implication for the Gondwana Supermountains, the rise of oxygen and the Cambrian explosion? Earth and Planetary Science Letters 695, 120330(オープンアクセスで全文を無料で読めます)
Squire, R. J. ほか (2006) Did the Transgondwanan Supermountain trigger the explosive radiation of animals on Earth? Earth and Planetary Science Letters 250
404 Media(Becky Ferreira、2026年9月19日)‘Supermountains’ Buried Under Antarctica Fueled Explosion of Life, Scientists Discover


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