「ビタミンDのサプリを多めに飲んでいる人は、認知テストの点が13%高かった」。2026年8月、こんな見出しの記事が海外の科学ニュースサイトを一斉に駆けめぐりました。出どころは、アメリカのエモリー大学の研究チームが医学誌Sleep Medicineに発表した論文です。認知症の薬の開発で思わしくないニュースが続くなか、ドラッグストアで買える安いサプリで脳が守れるかもしれない、という話は確かに目を引きます。
ただ、この研究は中身をよく見ると「読んでそのまま真似をしてはいけない」タイプの研究です。結論を先に言うと、点数の差が出たのは、日本やアメリカで安全とされる上限を超える量を毎日飲んでいた人たちだけでした。しかも、その差そのものが、統計的にかなり際どいものです。この記事では、研究が何を調べたのかを追いながら、なぜ真似をしてはいけないのかを整理していきます。
エモリー大学の研究が調べたこと
研究を率いたのは、エモリー大学看護学部のVictoria Pak准教授のチーム。対象になったのは、50歳以上の大人54人です。全員に共通しているのは、軽度認知障害(MCI。認知症の手前とされる段階で、物忘れなどの変化はあるものの日常生活はおおむね送れる状態)と診断されているか、その疑いがあること。そして、睡眠に問題を抱えていることです。睡眠の問題は、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)とエプワース眠気尺度(ESS)という、よく使われる2種類の質問票で判定しています。
この「軽度認知障害+睡眠の問題」という組み合わせは、認知症へ進みやすい人たちとして注目されています。中等度から重度のアルツハイマー病の人の半数ほどに睡眠障害があるとされ、眠りの乱れと認知機能の低下はお互いに悪化させ合う関係にあると考えられているためです。ビタミンDは骨だけでなく、神経や筋肉の働き、睡眠と覚醒のリズムにも関わっていて、不足すると不眠や夜中の目覚めが増えるという報告もあります。そこで研究チームは、この人たちが普段ビタミンDのサプリをどれだけ飲んでいるかと、認知テストの点数の関係を調べました。
認知テストにはMoCA(モントリオール認知評価)を使っています。30点満点で、記憶・注意・言語などをまとめて測る、認知症のスクリーニングでは定番のテストです。一般に26点以上が正常、18〜25点が軽度認知障害の目安とされています。参加者の平均年齢は67.2歳、46%が男性、平均BMIは29.5でした。
結果に表れた「13%」の中身
ビタミンDの摂取量は、参加者本人の自己申告です。飲んでいない、1日1,000 IU未満、1,000〜1,999 IU、2,000〜4,999 IU、5,000 IU以上、という5つの区分に分けています。IU(国際単位)はビタミンの量を表す単位で、ビタミンDの場合は40 IUが1マイクログラムにあたります。あわせて、飲んでいるのがビタミンD2(植物やキノコ由来)かD3(動物由来で、日光を浴びたときに体内でつくられるのもこちら)かも聞いています。
年齢、性別、BMI、ビタミンDの種類、学歴の影響を差し引いたうえで比べたところ、1日5,000 IU以上を飲んでいた人たちのMoCAの点数は、飲んでいない人より平均3.78点高くなっていました。30点満点のテストで3.78点ですから、ニュースの見出しにあった「13%高い」とはこの数字のことです。D2でもD3でも結果に違いはありませんでした。
一方で、それより少ない量を飲んでいた人たちについては、点数がわずかに高い傾向こそあったものの、統計的に意味のある差とは言えませんでした。つまり「ビタミンDを飲むと点が上がる」のではなく、「5,000 IU以上という多い量を飲んでいた人だけ、点が高い傾向があった」というのが、この研究の正確な結果です。

差が出たのは安全上限を超える量
ここが、この研究をそのまま受け取ってはいけない一番の理由です。
ビタミンDには「耐容上限量」と呼ばれる、健康な人がこれ以上は毎日とり続けないほうがよい、という目安の上限があります。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、大人の耐容上限量は1日100マイクログラム。IUに直すと4,000 IUです。アメリカの基準でも上限は同じ4,000 IUで、ScienceAlertの記事もこの点にわざわざ触れています。研究で唯一差が出たグループの「5,000 IU以上」は、この上限をはっきり超えています。
ちなみに、日本人の食事摂取基準でふつうの大人に示されている1日の目安量は、10マイクログラムに届かない程度です。5,000 IU(125マイクログラム)は、その十数倍にあたります。
ビタミンDは脂に溶けるビタミンで、水に溶けるビタミンCなどと違って、余った分が尿で出ていきません。体にたまっていきます。とりすぎが続くと血液中のカルシウムが増えすぎる「高カルシウム血症」を起こし、吐き気や嘔吐、食欲不振、だるさ、のどの渇きや頻尿といった症状が出ます。さらに続くと腎結石や腎臓の機能低下、血管や心臓へのカルシウム沈着につながることもあります。ビタミンDのサプリを大量に飲み続けて何か月も嘔吐が止まらなくなり、入院した例も報告されています。
研究者自身も、この点は慎重です。Pak准教授は、観察研究である以上、高用量のビタミンDを勧められる段階にはない、と明言しています。研究の目的は「何 IU飲むべきか」を示すことではなく、より大きな臨床試験を組む価値があるかどうかの手がかりを得ることでした。
数字の細さと、観察研究の限界
上限の問題に加えて、この結果そのものも、思われているほど頑丈ではありません。
まず、参加者は全部で54人。それを5つの摂取量の区分に分けているので、1つのグループはかなり少人数になります。論文の要旨では、5,000 IU以上のグループの差について、統計的な意味はあるものの「ぎりぎり有意」と書かれています。p値(偶然でこの差が出る確率の目安)は0.039で、区切りとされる0.05にかなり近い値です。参加者が数人入れ替わるだけで結果が変わってもおかしくない水準です。
同じ解析で、少し意外な結果も出ています。大学を出ている人の点数が高かったのは、認知テストではよくあることなのでわかります。ところが、体重が「過体重」に分類される人も、点数が3.59点高くなっていました。太っているほど認知テストの成績がよい、と真面目に受け取る人はいないでしょう。少人数のデータでは、こういうたまたまの偏りがいくつも顔を出します。ビタミンDの結果だけがその例外だと考える根拠は、この研究の中にはありません。
そして、これは「ある時点での横断的な観察」です。ビタミンDを飲んでもらって、その後に点数がどう変わったかを追いかけたわけではありません。すでに5,000 IU以上を飲んでいた人と、飲んでいなかった人を比べただけです。1日5,000 IUものサプリを自分で選んで飲み続けている人は、そもそも健康への関心が高く、食事や運動、通院にも気を配っている可能性があります。点数の差がビタミンDのおかげなのか、そういう生活習慣の差なのかは、この研究では区別できません。血液中のビタミンD濃度を測っていないので、実際に体の中でどれだけ足りていたのかもわかりません。摂取量が本人の記憶頼みという点も、精度を下げる要因です。
この研究から持ち帰ってよいこと
まとめると、この研究からわかったのは「軽度認知障害と睡眠の問題を抱えた54人のなかで、上限を超える量のビタミンDを飲んでいた少人数の人たちが、認知テストで少し高めの点をとっていた」ということまでです。ビタミンDが認知機能を上げる証拠にはなっていませんし、ましてや、上限を超えて飲むことを勧める材料にはなりません。
研究チームの次の一歩は、ビタミンDを実際に飲んでもらう群と偽薬を飲んでもらう群に無作為に分けて比べる、ランダム化比較試験だとしています。効くかどうかがはっきりするのは、そういう試験の結果が出てからです。
読者として気をつけたいのは、この手のニュースの見出しにある「13%」や「5,000 IU」という数字だけを持ち帰らないことです。ビタミンDが足りていない人が、医師に相談したうえで適量を補うのは意味のあることです。ただ、その適量は今回の研究で差が出た量とはまったく別の話で、日本の基準では1日4,000 IUが上限になっています。すでにサプリを飲んでいる人は、ラベルの単位がIUなのかマイクログラムなのかを確認して、合計がその上限に近づいていないか一度見直してみるとよいと思います。
研究の細部は、以下の一次情報で確認できます。論文の要旨はPubMedで無料で読めます。
出典:
エモリー大学のプレスリリース(2026年8月)
ScienceAlertの解説記事(2026年8月25日)
論文要旨(PubMed)
Sleep Medicine掲載の元論文(DOI: 10.1016/j.sleep.2026.108960)


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