地球の重心は、思っていたほど揺れていなかった

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地球の重心はどこにあるか。答えは「真ん中」で終わりそうな問いですが、測地学(ちそくがく/地球の形や位置を精密に測る学問)の世界では、この点が1年のうちに数ミリ動くことが知られています。北半球に雪が積もり、アマゾンに雨が降り、それが海へ流れ込む。地球の表面で水がそうやって行き来するたびに、地球全体の重心もつられて動くのです。

ところがこの「動き」の大きさは、長いあいだ測り方によって2倍以上も食い違っていました。NASA ジェット推進研究所(JPL)の Donald F. Argus 氏らのチームが2026年9月に地球物理学の専門誌に発表した研究は、この食い違いの原因を突き止め、季節の揺れが従来の衛星計測で言われていた値の半分ほどだったことを確かめました。動いていたのは重心そのものより、それを測っていた足場のほうだった、という話です。

季節とともに動く地球の重心

地球は、岩石でできた本体(固体地球)と、その表面を覆う水・氷・空気の層からできています。本体はほとんど形を変えませんが、表面の層は季節でかなり動きます。

研究チームが重力観測衛星 GRACE のデータから整理した1年の流れはこうです。北半球の冬、ユーラシアと北アメリカに雪が積もり、3月にピークを迎えます。ほぼ同じころ、雨季のアマゾンでは4月に地面と川が水で満たされます。春から夏にかけて雪解け水と雨水が川を下って海へ注ぎ、海の水の量は10月に最大になります。陸と海のあいだを往復する水の量は年間で約6300ギガトン(6.3兆トン)。これだけの水が海に戻ると、世界の平均海面は季節で17ミリほど上下します。

この水の往復に、大気の重さの変化が重なります。空気は冷えると縮んで重くなるので、冬のはじめに大陸の上で大気が重くなります。大気全体の質量が最大になるのは7月で、陸の水と海の水それぞれのピークとちょうど3か月ずれています。

北半球には陸が多く、南半球には海が多い。だから水が陸から海に移ると、地球の重さの分布はわずかに南側へ寄り、重心も南へ動きます。研究チームの計算では、自転軸に沿った方向の重心の揺れは年間で約4ミリ。東西方向にも3ミリから6ミリの揺れがあり、こちらはアマゾンの雨、東南アジアのモンスーン、太平洋の水の増減が主な原因です。

衛星の軌道が教える重心の位置

重心の位置は地面からは測れません。頼りになるのは人工衛星です。衛星は地球の中心を回っているのではなく、正確には地球の質量の中心、つまり重心を回っています。重心がずれれば衛星の軌道もずれる。だから衛星の軌道を精密に追えば、重心の位置が分かります。

この目的で長く使われてきたのが、LAGEOS という衛星です。直径60センチほどの金属球の表面に反射鏡を並べただけの、燃料も電子機器もない衛星で、地上の観測局からレーザーを当てて往復時間を測ることで位置を割り出します。この「衛星レーザー測距」によって、1990年代の終わりから重心と地球本体のずれが推定されてきました。

そこで得られた値は、自転軸方向の季節の揺れが年間で約11ミリ。世界の測地基準系(ITRF)の2008年版と2014年版に採用された数字です。

一方で、別の方法から出てくる値はずっと小さいものでした。重力観測衛星 GRACE は、陸と海のあいだでどれだけの水が動いたかを直接測れます。そこから重心の揺れを逆算すると、自転軸方向で約4ミリ。レーザー測距の値の半分にも届きません。同じ現象を測っているはずなのに、2.5倍もの開きがあったことになります。

この開きをそのまま受け取ると、衛星が見ている重心の揺れは、実際に動いている水の量では説明がつかない、ということになってしまいます。

食い違いの正体は測る足場にあった

Argus 氏らが着目したのは、レーザー測距の計算に組み込まれていた一つの前提です。

重心の「ずれ」を言うには、何に対してずれているかを決めなければなりません。測地学ではこれを地球本体の「形状中心」、つまり地表全体の平均の位置に置きます。ただし地表全体の平均を直接測ることはできないので、実際には「観測局ネットワークの中心」を形状中心の代わりに使ってきました。世界中の観測局の位置を平均すれば、地表全体の平均に近いだろう、という考え方です。

この前提には二つの穴がありました。

一つは観測局の偏りです。レーザー測距の観測局は、半分がヨーロッパと北アメリカに集まっています。地球の7割は海ですが、海の上に観測局はありません。局の平均は、地表の平均にはなりにくいのです。

もう一つはもっと根本的で、地面そのものが季節で動くことです。雪や雨水が地面に載れば、その重さで地殻はわずかに沈みます。水が抜ければ戻ります。この弾性変形は場所ごとに違い、雪の多い地域では年間で数センチにもなります。つまり観測局は、季節で上下する床の上に立っていました。局の位置を平均して「これが地球本体の中心」とすると、床の動きが重心の揺れに混ざってしまいます。

そこで研究チームは、平均を取る前に床の動きを引き算しました。大気の重さ(欧州中期予報センターの気象モデル)、海水の分布(海洋モデル)、陸の水と海全体の水の量(GRACE)の三つから、それぞれの観測局の地面が季節でどれだけ動くかを計算し、観測された局の位置からその分を差し引く。そうして残った位置を平均すれば、床の揺れを取り除いた形状中心が得られます。

この方法の強みは、局の数や配置に頼らなくてよい点です。床の動きが正しく分かっていれば、理屈の上では一つの局からでも形状中心を推定できます。従来法のように「たくさんの局を平均すれば偏りが打ち消される」ことを期待する必要がありません。

チームはこの方法を二種類のデータに適用しました。一つは従来どおりの衛星レーザー測距のデータ(2002〜2020年)。もう一つは、地上の GPS 観測局、GPS 衛星、そして GRACE や Jason といった低軌道衛星の観測を一体で解いた新しいデータ(2010〜2020年)です。GPS 衛星は高度約2万キロ、LAGEOS は約5900キロ、低軌道衛星は450〜1300キロと高さがばらけているため、衛星どうしの三角測量が効き、GPS だけでは難しかった重心の決定ができるようになりました。GPS 局はレーザー測距局よりずっと多く、世界に偏りなく散らばっている点も利点です。

四つの推定値がひとつに収束した

結果は明快でした。レーザー測距から出した値、GPS と低軌道衛星から出した値、GRACE から逆算した値、そして2024年に別チームが観測局の配置の偏りを補正して出した最新の基準系(ITRF2020)の値。この四つが、三つの方向すべてで2.5ミリ以内に集まったのです。自転軸方向の季節の揺れは4〜5ミリ台。旧い基準系の11ミリは、測り方の前提から生じた見かけの大きさだったことになります。

「地球の重心の揺れが従来の半分だった」という言い方は、この旧い衛星計測の値と比べたときのものです。研究チームの結論はむしろ、GRACE が測ってきた水の移動量が正しかった、というほうにあります。衛星の軌道から見た重心の動きが、地上の水と空気の出入りの計算とぴったり合った。半球のあいだで行き来する水と空気の量について、二つの独立した見方が初めて一致した、と言えます。

精度について一点補足すると、数字を単純に足し合わせた場合の不確かさは0.4ミリと出ますが、研究チーム自身は連続する観測どうしの相関を考えると実際の不確かさは3ミリ程度だと見積もっています。「ミリ単位で重心の動きが決まった」とは言えますが、1ミリを切ったとまでは書かれていません。

地上の位置はすべてこの点に乗っている

数ミリの話がなぜ問題になるのか。それは、地球上のあらゆる「位置」がこの重心を原点にして決められているからです。

GPS 衛星は重心の周りを回っているので、GPS で得られる座標も重心を基準にしています。人工衛星の高度計で測る海面の高さもそうです。海面上昇は世界平均で年に3〜4ミリ台と言われますが、その値は「重心から見て海面がどこにあるか」と「重心から見て地面がどこにあるか」を引き算して出てきます。原点の季節変動を倍に見誤っていれば、そこから導く地面の上下や海面の変化にも、ミリ単位のずれが混ざり込みます。

今回の研究は、この原点が季節でどれだけ動くかについて、長く続いた食い違いに区切りをつけました。地球の重心がどこにあるかという素朴な問いは、じつは地面と海と空の水の出入りを丸ごと勘定する問いだった、ということでもあります。

出典:
Argus, D. F. et al., “Estimation and cause of the seasonal oscillation between Earth’s centre of mass and centre of figure”, Geophysical Journal International, 247(2), ggag314 (2026)(オープンアクセス)
Universe Today: Earth’s Center of Mass Drifts Less Than We Thought

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