極が持ち上がり、赤道が沈む——衛星測位が捉えた地球の形の変化

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地球は完全な球ではありません。自転による遠心力で赤道のあたりが少しふくらみ、南北の極が少しつぶれています。赤道の半径は極の半径より21kmほど長く、球からのずれ具合を扁平率(へんぺいりつ)と呼びます。宇宙から撮った写真ではまず気づけない程度の差ですが、地球の大きさを測る仕事では欠かせない数字です。

その扁平率が、いま少しずつ変わっています。しかも測り方によって「丸くなっている」とも「扁平になっている」とも出る、というのが今回の話です。2026年9月に学術誌『Journal of Geophysical Research: Solid Earth』に載った、ギリシャのアリストテレス大学テッサロニキで測地学(地球の形や大きさを測る学問)を研究するクリストファー・コツァキス氏の論文を追いかけます。

荷物を降ろすと持ち上がる地面

足もとの地面は動かないもののように感じますが、長い時間でみると地球の表面はかなりたわみます。ある場所に重い物がのると地殻は沈み、取り除かれるとゆっくり戻る。約1万1000年前に終わった最後の氷期に厚い氷に押されていた土地は、氷が消えて久しい今も少しずつ持ち上がっていて、この現象は氷河性アイソスタシー調整(GIA)と呼ばれています。スカンジナビア半島やカナダの北部で、海岸線がじわじわ陸側に退いていくのはこのためです。

そしていま起きているのは、大昔の氷の話だけではありません。グリーンランドと南極では氷が急速に減っていて、そのぶん地殻にかかる重さが軽くなり、下の岩盤が浮き上がってきます。一方で、融けた水は海に流れ込んで世界中に広がるので、海底の側には新しく重さが加わります。極から荷物が降り、それ以外の場所に荷物が積まれる。この質量の引っ越しは、地球全体の形にも影響します。

重力で測った地球の形

地球の形を測るやり方は一つではありません。ここで大事になるのが、ジオイドと呼ばれる形です。ジオイドは重力の強さが同じになる面をつないだもので、海の水面を陸の下まで延長したような曲面にあたります。地球の内部や表面で質量がどう分布しているかによって決まるので、山や岩盤の凹凸とは別の、いわば重力で見た地球の輪郭です。

このジオイドの扁平率は1970年代から人工衛星で追いかけられてきました。1980年代から1990年代のなかばまでは、氷期の名残で極域の岩盤が戻る効果が効いて、地球は重力の上でも少しずつ丸くなっていました。ところが1990年代の終わりごろ、この傾向がひっくり返ります。ジオイドはそこから扁平さを増す方向に転じ、その流れが現在まで続いています。グリーンランドと南極の氷が減るペースが上がり、融けた水が低緯度へ運ばれたことが理由と考えられてきました。

ここでコツァキス氏が問いを立てます。重力で測った形が扁平になっているなら、岩でできた地球そのもの、つまり固体地球の形も同じ向きに変わっているのだろうか。

衛星測位が捉えた、岩盤の逆向きの動き

氏が使ったのは、世界中に置かれたGNSS(全地球衛星測位システム)の観測局のデータです。カーナビやスマホの位置情報と同じ仕組みですが、固定された観測局で長期間受信し続けると、その地点が年に何mm上下したかまで読み取れます。1997年から2015年までの記録から、地球全体で地面がどこで持ち上がり、どこで沈んでいるかを取り出しました。

結果は、重力で見た形とは逆でした。極に近い地域は持ち上がり、赤道に近い地域は沈んでいたのです。持ち上がる速さは1997〜2000年ごろが年およそ0.5mm、それが2015年には年およそ1mmまで上がっていて、20年足らずでほぼ倍になっています。赤道側の沈み方も、同じように加速していました。極が上がって赤道が下がるのですから、固体地球の形は扁平さを減らし、球に近づいていることになります。

同じ期間のジオイドをあらためて計算すると、こちらは扁平さを増していました。岩の地球は丸くなり、重力の地球は扁平になる。一つの惑星の形が、同じ時期に反対向きに変わっているように見えます。

二つの形が食い違う理由

矛盾しているようで、説明はそれほど込み入っていません。鍵は、岩盤と重力が「何に反応するか」の違いです。

極の氷が融けると、押さえつけられていた岩盤は上に戻ります。これは荷重が減ったことへの地殻の反応で、極が持ち上がり、地球の固体部分は丸くなる方向に動きます。ところが融けた水そのものは消えてなくなったわけではなく、海を通って低緯度へ広がっていきます。質量が極から赤道寄りへ移動するわけです。重力は質量の分布そのものに反応するので、赤道側に質量が増えれば、重力で見た地球の輪郭はむしろ扁平になります。

つまり同じ氷の融解が、岩盤には「荷重が減った」という形で、重力には「質量が赤道寄りに移った」という形で伝わり、それぞれ反対向きの結果を生んでいます。コツァキス氏も論文の中で、この二つの傾向は一見食い違うように見えるが物理的には両立する、と述べています。

言い換えると、地球には少なくとも二つの「形」があります。岩や海底の凹凸としての形と、重力の強さで描いた形です。ふだんはほぼ同じものとして扱えますが、質量が大きく動く局面ではこの二つが別々の動きをします。近年の氷の融解は、その違いを実際の数字で見せる規模まで来ている、ということになります。

二つの測り方を並べて見えるもの

今回の研究は、極の持ち上がりが加速しているという固体地球側の観測を、重力側の観測と並べて初めて読める話です。どちらか一方だけを見ていると、「地球は丸くなっている」とも「扁平になっている」とも言えてしまい、氷の融解と水の再分配という一続きの出来事が見えてきません。

なお、今回の解析は2015年までのGNSSデータにもとづくもので、それ以降の変化や、氷の融解以外の要因がどこまで効いているかは、今後の観測とあわせて確かめる必要があります。極が年1mm持ち上がるといっても、日常で気づける量ではありません。それでも、地球の形が定まったものではなく、いまこの瞬間も測り方によって違う向きに動いているという事実は、足もとの惑星の見え方を少し変えてくれます。

出典

ScienceAlert:Earth’s Shape Is Changing – Becoming Rounder And Less Round at The Same Time(Michelle Starr、2026年9月17日)

元論文:C. Kotsakis、Journal of Geophysical Research: Solid Earth(DOI: 10.1029/2026JB034224)。本文は有料の場合があります。

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