70代の運動比較で筋肉を守れたのはHIITだけ——ただし差は小さかった

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オーストラリアのサンシャインコースト大学(UniSC)とクイーンズランド大学の研究チームが、平均72歳の健康な男女123人を対象に、運動の「強度」だけを変えて6か月間の変化を比べた試験の結果を報告しました。週3回・1回45分の運動を続けたところ、どの強度でも体脂肪は減りました。ところが、筋肉を減らさずに脂肪だけを落とせたのは、高強度インターバルトレーニング(HIIT)のグループだけだった——というのが、この研究の見出しになっている部分です。

論文は医学誌Maturitasに2025年10月末に掲載され、査読を経たオープンアクセス論文として誰でも読めます。ただ、見出しだけを受け取ると少し印象がずれる研究でもあります。順番に見ていきます。

加齢にともなう体組成の変化

年齢を重ねると、体重があまり変わらなくても中身は変わっていきます。脂肪が少しずつ増え、筋肉を含む除脂肪量(脂肪以外の組織)が少しずつ減っていく。この入れ替わりは、心臓や血管、代謝の病気、それに転倒や要介護につながる筋肉の衰え(サルコペニア)のリスクと結びついています。

「運動すればいい」というのは誰でも知っている答えですが、実は「どのくらいの強度が体組成に効くのか」は、高齢者ではよく分かっていませんでした。強度を比較した研究の多くは若い人か、肥満や持病のある人を対象にしていて、健康な高齢者どうしで強度だけを比べたデータは乏しかったのです。

そこで今回のチームは、65〜85歳の「健康な」高齢者を集め、強度の違いだけを比べる設計にしました。もともとは運動が脳(記憶に関わる海馬)に与える影響を調べるランダム化比較試験で、今回の体組成の分析はそのサブ解析にあたります。参加者はくじ引きのように3つのグループへ無作為に割り付けられ、すべての運動は専門家の監督つきで行われました。

3つの強度と測り方

3つのグループの中身はこうです。いずれも週3回・1回45分、6か月間です。

高強度グループ(HIIT)は、トレッドミルで「4分間の全力に近い運動(最大心拍の85〜95%)+3分間のゆるい回復」を4セット繰り返します。息が上がって会話が難しくなるレベルです。中強度グループは、同じくトレッドミルで最大心拍の60〜70%のウォーキングを30分続けます。健康づくりの定番としてよく勧められる、あの「早歩き」です。低強度グループは、バランス運動やストレッチ中心の教室で、比較のための対照役でした。

体組成の測定にはDXA(デキサ)という、X線で脂肪量・除脂肪量を精密に測る装置を使い、開始時・3か月・6か月の3回測っています。出席率は全体で99%。食事や普段の活動量も記録され、グループ間で差がないことが確認されています。条件のそろえ方としては、かなり手堅い試験です。

筋肉が減っていたのは定番の中強度

6か月後、脂肪は高強度グループでも中強度グループでも、低強度グループより減っていました。減り方に両者の差はありません。脂肪を落とすだけなら、早歩きでもHIITでも同じだったわけです。

違いが出たのは筋肉のほうでした。統計的にはっきりと除脂肪量が減っていたのは、中強度グループだけだったのです。高強度グループは除脂肪量を保ち、6か月時点では中強度グループより平均0.69kg多く残していました。体脂肪率が開始時から有意に下がったのも高強度グループだけです。つまりこの結果は「HIITが筋肉を増やした」話ではなく、健康づくりの定番である中強度の有酸素運動に「脂肪と一緒に筋肉も少し削れる」という側面が見えた、という話に近いのです。

なぜ高強度だと筋肉が守られるのか。共著者のミア・シャウムバーグ准教授は、HIITは筋肉にかかる負荷が大きく、体に「この筋肉は必要だから残せ」という強い信号を送るためではないか、と説明しています。高い強度の運動ほど筋肉のタンパク質合成が促されることは、先行研究でも知られています。

なお、内臓脂肪(お腹の内側、臓器のまわりにつく脂肪)は、高強度・中強度の両方で減っていました。ここは強度による差がなかった項目です。

数字の大きさと研究の限界

ここからが、この論文の誠実なところです。研究チーム自身が、変化の幅は小さく、平均としては「臨床的に意味のある大きさ」には届かなかったと明記しています。高強度グループの脂肪の減少は6か月で約0.5kg。体脂肪率で意味のある改善に達した人は高強度グループの44%で、他のグループ(27〜35%)より多かったものの、過半数には届かず、統計的な差も確認されていません。

限界もいくつか挙げられています。まず、中強度・低強度グループの参加者が目標心拍を超えて頑張ってしまい、実際の強度差が計画より縮まっていたこと。分類上は、低強度グループが実質的に中強度、中強度グループはかなり強めの運動になっていた可能性があります。また、DXAは除脂肪量の追跡ではMRIなどに比べて誤差が出やすいこと、男女別の分析には人数が足りなかったことも記されています。

対象が「健康な高齢者」だという点も見落とせません。参加者は心臓の病気などがないことを事前に確認されたうえで、毎回、運動の専門家がついた環境でトレーニングしています。持病のある人や運動習慣のない人が、この結果だけを根拠にいきなり自己流で高強度運動を始めるのは別の話です。強めの運動を検討する場合は、かかりつけ医に相談し、指導者のいる環境で段階的に強度を上げていくのが前提になります。

研究チームは今後の方向として、筋肉量そのものを増やす王道である筋力トレーニングと、HIITのような高強度の有酸素運動を組み合わせた検証を挙げています。有酸素運動の強度選びだけで筋肉の問題が解決するわけではない、という位置づけです。

それでも、「脂肪は減らしたいが、年齢的に筋肉は1gも無駄にできない」という状況で、同じ時間の運動なら強度の高いほうが筋肉を守れそうだ、という手がかりが健康な高齢者のデータで示されたことには意味があります。定番の早歩きが無意味になったわけではありません。ただ、運動の効果を「何分やったか」だけで考えていた人にとっては、「どのくらいきつくやったか」というもうひとつの軸を意識するきっかけになる研究です。

出典

論文(Maturitas、オープンアクセス):Rose G, et al. “Exercise intensity influences body composition: a 6-month comparison of high-intensity interval, moderate- and low-intensity training among healthy older adults.” https://doi.org/10.1016/j.maturitas.2025.108763

サンシャインコースト大学プレスリリース:Research finds exercise type to target body fat in seniors

ScienceDaily:Only one workout helped older adults lose fat without losing muscle

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