宇宙の「網」は想定よりずっと大きかった――DESIが揺るがす宇宙論の大前提

宇宙・天文
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宇宙には、銀河が網の目のようにつながった巨大な構造がある。「コズミックウェブ(宇宙の網)」と呼ばれるもので、ダークマター(目に見えない物質)とガス、そして銀河が、糸状のフィラメントと、その節にあたる銀河団、広大な空洞(ボイド)でできた立体的な網を作っている。

その「網」の一番大きな構造が、これまでの宇宙論が予想していたよりもずっと大きく、しかも遠くまで消えずに続いていることが分かった。イタリアとニュージーランドの2人の物理学者が、史上最大級の銀河地図を新しい手法で解析した結果で、2026年6月24日付の科学誌『Nature』に発表された。宇宙の成り立ちを支える基本的な前提の一つに、見直しを迫りかねない内容だ。

宇宙論の大前提「一様・等方」

現在の宇宙論の土台になっているのが、ラムダ・コールドダークマター(ΛCDM)モデルと呼ばれる標準モデルだ。これは「宇宙原理」という考えに基づいている。十分に大きなスケールで眺めれば、宇宙はどこを見ても同じようなつくりで(一様性)、どの方向を見ても同じように見える(等方性)、というものだ。

もちろん、銀河ひとつ、あるいは銀河団くらいの近さで見れば、宇宙はでこぼこしている。ある方向にはぽっかり空いた空洞があり、別の方向には銀河がぎっしり集まった塊がある。ただ標準モデルでは、こうしたムラは数千万〜数億光年といったスケールまでで、もっと大きく見ればならされて、のっぺりと均一な分布に近づくはず、とされてきた。

この前提を強く支えてきたのが、宇宙で最も古い光「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」だ。ビッグバンの名残であるこの光は、どの方向もきわめて均一で、ごくわずかなムラしかない。だから「宇宙は大きく見れば等方」という見方は、長らく確かなものと考えられてきた。

ギガパーセク規模で残った構造の偏り

今回、フランチェスコ・シロス・ラビニ氏(ローマのエンリコ・フェルミ研究センター)とマルコ・ガロッポ氏(ニュージーランド・カンタベリー大学)が示したのは、その前提に合わない結果だった。銀河の分布をよく調べると、約1ギガパーセクという途方もないスケールまで、「特定の方向」に構造が偏っていた、というのだ。

1ギガパーセクは約32.6億光年。天の川銀河の直径がおよそ10万光年なので、その3万倍以上にあたる。銀河団どうしの間隔(数千万光年規模)すら大きく超えた、宇宙論で扱う最大級の物差しだ。そのスケールに達してもなお、宇宙は「どの方向も同じ」にはなっていなかった。

研究チームの説明では、実際の宇宙で見えている構造は、標準モデルに基づく最先端のシミュレーションが作り出すものよりも、はっきりと大きく、長持ちしているという。標準モデルでも大規模構造そのものは生まれるが、本来はもっと小さく、もっと早く均されて消えるはず——というのが食い違いの核心だ。つまり、構造の「大きさ」と「しぶとさ」の両方が、理論の見積もりを上回っていた。

方向の偏りを測る手法「ADPD」

カギになったのは、解析に使った新しい統計の道具立てだ。これまでの大規模構造の研究では、「ある銀河から距離Lだけ離れたところに、別の銀河がどれくらいの確率でいるか」を、方向を気にせず測るのが一般的だった。これだと「どの方向に偏っているか」という情報は落ちてしまう。

2人が使ったのは「対距離の角度分布(Angular Distribution of Pairwise Distances、ADPD)」という手法で、銀河のペアがどの方向に並びやすいかという、方向ごとの偏りを直接とらえられる。あらかじめモデルの数値を仮定しなくてよい(パラメータ不要の)手法である点も特徴だ。

解析の材料になったのは、米アリゾナの口径4mの望遠鏡を使う大規模探査「DESI(ダークエネルギー分光装置)」が公開した、史上最大級の3次元銀河地図だ。約4700万個の銀河を、約110億光年の奥行きにわたってマッピングしたもので、ガロッポ氏は「5年、10年前にはギガパーセク級で検証できるデータがなかった。いまはそれができるようになった」と語っている。

標準モデルへの影響

この結果が宙に浮いた話で終わらないのは、宇宙の成り立ちの一番おおもとの仮定(宇宙原理)に触れているからだ。研究チームは、いまのところ、CMBが示す高い一様性と矛盾せずに、これほど大きな構造を自然に説明できる、簡単で広く受け入れられたΛCDMの修正案は存在しない、としている。

片方(大きな構造の存在)を立てると、もう片方(CMBの一様性)が立たない、という緊張関係がある。だからこそ、この食い違いは「理論と観測のあいだにある、調べる価値のあるギャップ」だと位置づけられている。

今後の検証材料は増える見込みだ。DESIは1年以内に新しい観測データを公開する予定で、欧州の宇宙望遠鏡「ユークリッド」や、チリのベラ・C・ルービン天文台からも、似たデータが近く出てくる。これらが、こうした大規模構造が本当にどこまで大きいのか、そして宇宙の見方をどう変えるのかを、より確かに見極める助けになる。

解釈上の留意点

大きな話だが、受け止め方には注意がいる。これは1本の研究が、新しい一つの手法でDESIのデータを解析して得た結果だ。査読を経て『Nature』に載った成果ではあるものの、標準モデルが覆ったというより、「標準モデルの前提に合わない兆候が、これまでより確かな形で見つかった」段階だと考えるのが妥当だろう。

研究者自身も、もし今後の探査がさらに大きなスケールでも方向のそろった構造を見つけ続けるなら、宇宙論への影響は計り知れない、と条件付きの言い方をしている。新しい物理につながる可能性を秘めた手がかりとして、これからのデータでどう裏づけられていくかを見守りたい。

出典・もっと知りたい人へ

元論文(査読済み・本文は有料):Francesco Sylos Labini & Marco Galoppo, “Detection of anisotropic cosmic structures on a gigaparsec scale,” Nature (2026). https://www.nature.com/articles/s41586-026-10702-5

無料で読める解説:Phys.org「The universe should look the same in all directions at large scales, but DESI data suggest otherwise」 https://phys.org/news/2026-06-universe-large-scales-desi.html

解説(Science / AAAS):「The universe is unexpectedly stringy, which could unravel the theory of the cosmos」 https://www.science.org/content/article/universe-unexpectedly-stringy-which-could-unravel-theory-cosmos

元ネタ記事(404 Media):「Vast ‘Structures’ In Space Reveal the Universe Isn’t What We Thought」 https://www.404media.co/vast-structures-in-space-reveal-the-universe-isnt-what-we-thought/

解析コードとデータ(GitHub):https://github.com/MarcoGaloppo/Code-and-Data-Detection-of-anisotropic-cosmic-structures-on-a-gigaparsec-scale

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