生命の始まりに迫る小さなRNA――45個の部品でできた「QT45」が自分自身をコピーした

化学・生命の起源
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生命はどうやって始まったのか——という大きな問いに、たった45個の部品でできた小さなRNAが新しい手がかりを与えました。イギリスの研究チームが「QT45」と名づけたこのRNAは、自分自身のコピーと、その”鋳型(いがた)”になる裏返しの鎖の両方を作れることが分かったのです。生命がまだ影も形もなかったころに、こんな分子がひとりでに現れて増え始めたのかもしれない、という話です。

生命の起源とRNAワールド仮説

いまの生き物は、遺伝情報をDNAにしまい、実際の仕事はタンパク質にやらせる、という分業でできています。ところが、この二つがそろっていないと生命が回らないとなると、「では最初はどちらが先にあったのか」という鶏と卵の問題が出てきます。

そこで有力なのが「RNAワールド仮説」です。DNAとタンパク質より前に、RNAが情報の保管役と反応の担い手の両方を兼ねていた時代があったのではないか、という考え方です。というのも、RNAは遺伝情報を書き込めるうえに、酵素のように化学反応を進める働きも持てるからです。はたらきを持つRNAは「リボザイム」と呼ばれます。

このシナリオで鍵になるのが「ポリメラーゼリボザイム」——RNAを鋳型どおりにコピーする働きを持ったRNAです。これがあれば、RNAが自分自身を写し取って増えていける、つまり自己複製の入り口に立てます。

これまで立ちはだかっていたパラドックス

ところが、ここに厄介なジレンマがありました。RNAをコピーするというのは、たくさんの分子がきちんと噛み合う手の込んだ作業です。だから「その働きを担えるRNAは、大きくて複雑でなければならない」と長らく考えられてきました。

実際、これまでに見つかっていたポリメラーゼリボザイムは、どれもこの数倍ほど長いのが当たり前で、他のRNAはコピーできても、自分自身をまるごと写し取るには大きすぎ・複雑すぎました。しかも、そんな長くて込み入った配列が原始地球で偶然できあがる見込みは、かなり薄いことになります。

まとめると、「自己複製できるほど高機能であるためには大きく複雑でなければならない。でも大きく複雑だと、自分自身をコピーするのも、そもそも自然に生まれるのも難しい」という板挟みです。この矛盾が、RNAワールド仮説の弱点として残っていました。

見つかった小さなRNA「QT45」

今回ケンブリッジのMRC分子生物学研究所(LMB)のチームが報告したQT45は、この板挟みを崩す発見でした。名前の「45」が示すとおり、わずか45ヌクレオチド(RNAをつくる部品の数)しかありません。従来のものと比べると、ぐっと短くてシンプルです。

小さいことには二つの意味があります。まず、短いぶん自分自身をコピーしやすい。そしてもう一つ、短い配列のほうが原始地球のような環境で偶然できあがる見込みも高い。つまりQT45は、「自己複製するRNAが自然に生まれた」というシナリオを、これまでよりずっと現実的な話にしてくれるわけです。

自己複製に必要な二つのステップ

研究チームは、QT45にまず二種類の”コピー作業”をやらせて確かめています。

一つは、自分の相補鎖(そうほさ)——鋳型としてペアになる、裏返しの配列——を作ること。これを1文字あたり94.1%の正確さで写し取れました。もう一つは、その鋳型を使って自分自身のコピーを作ること。小さなRNAが、自分の全体と、その相棒になる鋳型の両方を写し取れたのは、これが初めてです。過去の研究では、ごく一部分しかコピーできていませんでした。

この二つは、生き物が遺伝情報を受け継いでいくときにも欠かせない、まさに自己複製の心臓部にあたる手順です。それを、生命が生まれる前にも存在しえたような小さな分子でやってみせた——ここが今回いちばんの見どころです。

実験室での進化による発見

QT45は、狙って設計したものではなく、いわば”総当たり”で見つけ出したものです。まず、でたらめな配列のRNAを膨大に用意し、その中からRNAをコピーする性能を持つものだけを選び取る。選んだものをまた増やして、また選ぶ。この「試験管の中の進化」を何度もくり返すうちに、飛び抜けて効率のよいQT45が浮かび上がってきました。

反応の舞台になったのは、弱いアルカリ性の”共晶氷(きょうしょうひ)”の中です。水が凍るとき、溶けていた物質は凍りきらずに氷のすき間に押し込められ、そこで濃縮されます。この氷の中の小さな液だまりが反応を後押しする、というしくみで、材料には塩基を三つひとまとめにした断片(トリプレット)を使いました。凍った環境という設定は、原始の地球で起こりえた条件を意識したものです。

生命の起源をめぐる意味

筆頭著者のエドアルド・ジャンニ氏は、この分野では30年以上ものあいだ同じ系統のリボザイムばかりが研究され、「新しいものを見つけるのは難しい」「機能を持たせるには長い配列が必要だ」と信じられてきた、と振り返っています。小さなRNAでこれができると分かったことで、自己複製するRNAがひとりでに現れるという筋書きが、ぐっとありえそうな話になったわけです。

この話は地球の外にも広がります。生命が化学反応から自然に立ち上がる確率が思っていたより高いのなら、似たようなことが他の惑星でも起こりうるのか——という問いにもつながっていきます。

まだ「自己複製」そのものではない点

ここは正確に押さえておきたいところです。今回できたのは、あくまで自己複製に必要な二つの反応を別々に成功させたことで、ぐるぐる回る自己複製サイクルそのものが完成したわけではありません。ジャンニ氏自身も、これは「自己複製」ではなく「自己合成(self-synthesis)」だとはっきり述べています。二つの反応はまだひとつの容器の中で連続して進むわけではなく、サイクルを閉じるには研究者側の手助けが要る段階です。

効率の面でも、まだ入り口です。コピーができる割合(収率)は約0.2%で、しかも72日という長い時間がかかっています。次の目標は、この二つの反応をつなげて自己複製のサイクルを回し、システムが自分で自分を保ちながら育ち、進化し始めるところまで持っていくことだといいます。すごい成果ではありますが、そこは淡々と受け止めておくのがよさそうです。

出典・もっと知りたい人へ

元論文(Science、本文は一部有料):A small polymerase ribozyme that can synthesize itself and its complementary strand(Gianni et al., 2026)

無料で全文が読めるバージョン(PMC):同論文(PubMed Central)

研究機関のプレスリリース(MRC/UKRI):Scientists’ chemical breakthrough sheds light on origins of life

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