自宅の光ファイバーには、ご近所全員ぶんの光が届いている

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自宅の壁から出ている光ファイバー。あの1本のケーブルには、実は自分あての通信だけが流れているわけではありません。同じ分岐にぶら下がっているご近所さん全員ぶんの光が、まとめて届いています。それを選り分けているのは、玄関先やリビングに置かれた白い箱――ONU(光回線終端装置)――だけ。その箱を改造すると、隣の家の通信が覗けてしまう。そんな研究が発表されました。

報告したのは、セキュリティ研究者のRithwik Jayasimha氏とRithvik Vibhu氏。ハッカーの祭典として知られる「DEF CON 34」(2026年8月)と、同じくセキュリティの国際会議「Black Hat USA 2026」で発表され、技術系メディアのHackadayが取り上げました。まず断っておくと、これは海外の光回線の話で、日本の回線がそのまま覗けるという内容ではありません(このあたりは後半で詳しく書きます)。

家庭用光回線を支える「パッシブ」な仕組み

海外の家庭用光回線で広く使われているのが、GPON(Gigabit Passive Optical Network)という仕組みです。日本語にすると「ギガビット級・受動的・光ネットワーク」。長いので、以下はGPONと呼びます。

構成はシンプルで、大きく3つの装置でできています。まず、通信事業者の局に置かれる大元の装置がOLT。そこから住宅街まで太い光ファイバーが伸びていて、その途中に分岐器(スプリッタ)が置かれます。分岐器は1本で入ってきた光を複数に枝分かれさせる部品で、その枝の先に各家庭のONU――例の白い箱――がぶら下がります。1つの分岐器で、だいたい数十軒ぶんをまかなう構成です。

ここで名前に入っている「パッシブ(受動的)」が、この話の核心になります。分岐器は電気を使いません。半導体で信号を振り分けるような能動的な部品ではなく、入ってきた光をただ物理的に分けて配るだけの、いわば光の分配器です。電源も要らず、故障しにくく、コストも安い。だから家庭向けに広く使われてきました。

「届いていない」のではなく「箱が捨てている」

電気を使わずに光をただ分けるだけ――ここに、思わぬ帰結があります。

分岐器は光を「振り分ける」ことができません。ただ「配る」だけです。つまり、その分岐にぶら下がっている数十軒ぶんの光(=データ)が、選別されないまま、そっくりそのまま各家庭のONUまで流れ込んでいます。自分あての通信も、隣の家あての通信も、同じケーブルで一緒くたに届いているわけです。

では、なぜ普段は他人の通信が見えないのか。それは、各家庭のONUが「自分あて以外を捨てている」からです。届いていないのではなく、届いているけれど玄関の箱が黙って捨てている。この一点が、今回の研究が突いたポイントでした。

つまり、その「捨てる」処理を止めさせれば――ONUを改造して、受け取ったフレーム(データのかたまり)を全部そのまま素通しさせれば――近所の通信がそのまま覗けてしまう。研究チームは実際にONUを改造し、本来なら捨てられるはずの、近隣の家あてのデータを引き出してみせました。捨てる係が仕事をやめた瞬間、選別されずに届いていた他人のデータが、そのまま手元に残るという理屈です。

改造以外にも成立した攻撃

研究チームが試したのは、ONUの改造だけではありません。ほかに2つの経路も成立させています。

1つは、屋外の設備に無断で分岐器を足す手口。誰でも触れる場所に置かれた設備に自前の分岐器を割り込ませて、光の一部を横取りするというものです。デジタルな攻撃というより、物理的に線を引き込むような、いかにも泥くさいやり方です。もう1つは、上流のOLTを乗っ取り、そこから複数の家庭のONUにファームウェア(機器を動かす基本ソフト)を書き込んでしまう手口。こちらは1軒だけでなく、ぶら下がっている複数の加入者にまとめて手を出せる点が厄介です。

ただし、いくつか冷静に見ておきたい前提があります。まず、いまの通信の多くは暗号化されています。仮に他人あてのデータを引き出せても、中身がそのまま読めるとは限りません。GPON自体にも下り方向の暗号化が規定されていて、記事もこの点は防御として認めています。また、ONUの改造にも屋外設備への割り込みにも、基本的に物理的なアクセスが必要です。遠くのネット越しに誰でも仕掛けられる、という類の攻撃ではありません。それでも研究チームは、「そもそもこの種のハックが成立してしまうこと自体、望ましい状況とは言えない」と釘を刺しています。暗号化という保険はあるにせよ、構造上の穴が空いていること自体が問題だ、という指摘です。

日本の光回線はそのまま当てはまらない

ここが、日本の読者にとっていちばん大事なところです。

今回の研究が対象にしたのはGPONで、これはITU-Tという国際機関が定めた規格。海外で広く普及しています。一方、日本の光回線(フレッツ光など)の大半で使われているのは、NTTなどが採用したGE-PON(およびその高速版の10G-EPON)という、別系統の規格です。こちらはIEEEが定めたもので、GPONとは仕様が異なります。ですから「海外でGPONが覗けたのだから、日本の光回線も同じように覗ける」と単純に結び付けるのは正確ではありません。

とはいえ、安心しきれる話でもありません。「1本の光を分岐器で複数の家に配り、各家庭のONUが自分あて以外を捨てる」という基本の構造は、GE-PONもGPONも共通です。パッシブ光ネットワーク(PON)という土台が同じである以上、「同じ光が全戸に届いている」という前提そのものは、日本の回線にも当てはまります。今回の攻撃がそのまま通用するかは規格差しだいで、その検証は別の話ですが、「あの白い箱が、届いた光を選り分けている」という仕組みは、日本の家庭も変わりません。

普段まったく意識しない、家の壁と通信事業者のあいだの短い区間。そこに「みんなの光がまとめて届いている」という構造があること自体、知っておいて損はないはずです。発表資料はgpwn.ioにまとめられており、DEF CONでの講演は動画でも公開されています。

出典

Hacking Fiber To The Home(Hackaday, 2026-08-13)

gPWN: Wiretapping Fiber ISP Deployments From the Comfort of Your Home(研究チーム発表資料)

DEF CON 34 Speakers(講演情報)

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