NASAのAIは太陽の「音」を聴いて、黒点が見える前にその出現を当てる

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太陽の表面に黒いシミのように現れる「黒点(こくてん)」。この黒点が、まだ表面に姿を見せていない段階で、AIがその出現を先読みする——そんな研究成果をNASAが発表しました。手がかりにしたのは、太陽の中を絶えず伝わっている「音」です。

開発したのは、NASAのCOFFIES(コーヒーズ)というプロジェクトのチームです。名前は「Consequence Of Fields and Flows in the Interior and Exterior of the Sun(太陽の内外における磁場と流れの帰結)」の頭文字で、ニュージャージー工科大学、プリンストン大学、NASAエイムズ研究センターの研究者が集まっています。成果は査読を経て、学術誌「Journal of Geophysical Research: Machine Learning and Computation」に掲載されました。

黒点と宇宙天気予報の現状

黒点は、太陽の内部で生まれた強い磁場のかたまりが表面に顔を出した場所です。ここは太陽フレア(爆発現象)やコロナ質量放出(電気を帯びたガスのかたまりが宇宙空間へ飛び出す現象)の発生源になります。これらが地球に届くと、人工衛星の故障、無線通信の乱れ、GPSの精度低下、ひどい場合は地上の電力網の障害まで引き起こします。いわゆる「宇宙天気」の荒れです。

だからこそ、黒点がいつどこに現れるかを前もって知ることは、宇宙天気予報の中心的な課題になっています。ところが現在の予報には、構造的な弱点があります。アメリカ海洋大気庁(NOAA)の宇宙天気予報センターなどが行っている運用予報は、すでに表面に見えている黒点を監視して、そこからフレアの発生確率を見積もる方式です。つまり、黒点が姿を見せるまでは、予報のスタートラインに立てません。

では、表面に出てくる前の磁場のかたまりを直接見ればいいのでは、と思うところですが、これができないのです。太陽の内部は不透明で、どんな望遠鏡でも中をのぞくことはできません。研究チームの一人であるニュージャージー工科大学のアレクサンダー・コソビチェフ氏も、内部を上昇中の磁場構造を直接見ることはできない、と説明しています。

太陽の内部を満たす音波

ただし、間接的な手がかりならあります。それが音です。

太陽の内部では、ガスの激しい対流によって音波が絶えず生み出され、内部を縦横に伝わっています。この音波は、通り道の状態——温度や磁場など——の影響を受けながら進むので、表面に届いた振動を丁寧に読み解けば、通ってきた場所の様子を推測できます。地震のときに地球を伝わる地震波を解析して、直接掘れない地球の内部構造を調べるのと、まったく同じ理屈です。太陽でこれをやる分野は「日震学(にっしんがく)」と呼ばれ、NASAの太陽観測衛星SDOに載っているHMI(日震・磁場撮像装置)が、この振動を撮り続けています。

理屈の上では、内部を上昇してくる磁場のかたまりも、周囲の音波にわずかな影響を残すはずです。問題は、その変化があまりに小さいことでした。コソビチェフ氏はこれを、とても騒がしいオーケストラの中のかすかなリズムの変化のようなもの、と例えています。大音量の演奏の中で、一人の奏者がほんの少しテンポを揺らした——それを聴き分けろ、という話です。人間の解析では、この信号を捉えるのに長年苦労してきました。

AIが聴き分けた「かすかなリズムの乱れ」

そこでチームは、この聴き分けをAIに任せました。SDOが観測した46個の活動領域(黒点になる領域)のデータを使い、磁場と音波のパワーの時系列を機械学習モデルに読み込ませて、黒点出現の前触れとなる微細なパターンを学習させたのです。

モデルの中身は「スライディングウィンドウ型トランスフォーマー」と呼ばれる構造です。トランスフォーマーはChatGPTなどの言語AIの土台にもなっている仕組みで、長いデータ列の中から重要な部分に注意を向けるのが得意です。ただ、太陽の観測データは非常に長いので、全部を一度に見るのではなく、一定の幅の「窓」をタイムライン上でスライドさせながら、直近のデータに集中しつつ全体の傾向も覚えておく、という工夫が入っています。さらにこの研究では、再現の正確さよりも「前触れをできるだけ早く捉えること」を優先するように学習の目標自体を作り変えた「EarlyDetect(アーリーディテクト)」というモデルを開発しました。

結果、このモデルは黒点領域の出現を、表面に見える前に検知できました。予測の設計上の上限は12時間先で、テストでは平均しておよそ9時間前に出現の兆候を捉えています。しかも予測精度そのものも、従来型のAI(LSTMという方式)より約10%良くなりました。早さと正確さは普通トレードオフになりがちですが、両方を同時に達成できたことも、この研究の見どころです。

つまり、黒点を「見て」から動き出すのではなく、内部から上がってくる気配を「聴いて」先に構える——宇宙天気予報の起点を、目から耳へ移す試みです。

実運用までの距離と残る課題

ただし、今日からこの予報が使えるわけではありません。NASAは、このモデルはまだリアルタイムの運用予報に使える段階ではないと明記しています。誤警報を出したり、検知が遅れたりするケースもまだあり、チームは今後、より多くの既知の太陽イベントでモデルを検証して精度を高めていく計画です。

また、黒点の出現が予測できても、その黒点が必ず大きなフレアを起こすとは限りません。「黒点が出そうだ」という予測は、あくまで警戒を始めるきっかけであって、フレアの予知そのものではない点にも注意が必要です。

9時間の先行が意味するもの

それでも、平均9時間の先行には十分な価値があります。人工衛星の運用者なら、観測機器を保護モードに切り替えたり、姿勢制御の計画を見直したりする時間になります。極域を飛ぶ航空機は、放射線量の増える経路を避ける判断ができます。国際宇宙ステーションや、今後の月・火星ミッションでは、宇宙飛行士が船外活動を控えたり、遮蔽の厚い区画に退避したりする備えの時間になります。宇宙天気の対応は「起きてから」では間に合わないものが多いだけに、リードタイムが数時間延びることの意味は小さくありません。

NASAで宇宙天気の監視を担う部署の担当者も、フレアが起きそうな場所を前もって把握できる可能性に期待を寄せています。将来的には、地球から見えない太陽の裏側での黒点出現の予測にも応用できるかもしれないとされており、そうなれば現在の予報モデルを補う新しい情報源になります。

太陽の音に耳を澄ませて、まだ見えない嵐の種を先読みする。検証はこれからですが、AIと日震学の組み合わせが宇宙天気予報の形を変えていくのか、続報を追いたいテーマです。

出典

NASA公式発表:NASA’s COFFIES Uses AI to Predict Storm-Causing Active Regions on Sun(NASA Science・2026年8月14日)

論文:Forecasting Continuum Intensity for Solar Active Region Emergence Prediction Using Transformers(Journal of Geophysical Research: Machine Learning and Computation)

紹介記事:Machine Learning COFFIES “Hears” Sunspots Before We Can See Them(Hackaday・2026年8月15日)

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