2026年の夏、フランスで原子力発電所が次々と出力を落としたり、止まったりしました。6月下旬の熱波では、セーヌ川沿いのノジャン原発が出力を下げ、ガロンヌ川沿いのゴルフェッシュ原発では原子炉が1基停止。7月に入っても暑さは続き、ゴルフェッシュ・ビュジェ・ショーの3か所で原子炉が止まり、ほかに8基が出力を落として運転しました。理由は故障でも燃料切れでもなく、「川の水が熱すぎたから」です。
この「猛暑で原発が止まる」というニュース、毎年夏になるとどこかで目にします。ただ、なぜ川の水温ごときで巨大な発電所が止まるのか、その理屈まで説明した記事はあまり見かけません。技術系メディアのHackadayに、Maya Posch氏によるていねいな解説記事が載っていたので、今回はこれをもとに、発電所と川の切っても切れない関係を追いかけてみます。
蒸気でタービンを回す発電所の共通点
まず前提として、この話は原子力発電所だけの問題ではありません。石炭火力もガス火力も、鏡で太陽光を集めて熱をつくる集光型太陽熱発電も、仕組みの根っこは同じです。何かしらの熱源でお湯を沸かして蒸気をつくり、その蒸気でタービン(羽根車)を回して発電する。熱源がボイラーか、原子炉か、太陽かの違いだけで、どれも「熱で発電する仲間」です。
そして蒸気でタービンを回す方式には、避けて通れない工程があります。タービンを回し終えた蒸気を、水に戻す工程です。蒸気を冷やして水に戻し、また沸かして蒸気にする——このループをぐるぐる回すのが発電所の基本動作で、「冷やして水に戻す」ところで大量の冷却が必要になります。ここで登場するのが、川や湖の水というわけです。
川から取って川へ返す冷却方式
いちばん安上がりな冷却方法は、近くの川・湖・貯水池から水を取り込み、蒸気を冷やすのに使って、温まった水をそのまま返す方式です。「貫流冷却(ワンススルー冷却)」と呼ばれます。設備がシンプルで建設費も安く、1950年代から1990年代にかけて世界中で発電所が建てられた時期には、ごく当たり前の選択でした。
ただしこの方式には弱点があります。取り込む水の温度を、発電所側では選べないことです。川が冷たければ問題なく冷やせますが、川そのものが熱くなってしまうと、冷却の能力が落ちます。さらに、温まった水を川に返す側にも制約があります。熱い水をそのまま戻すと川の生き物に深刻なダメージを与えるため、多くの国では「放流後の川の水温が何度を超えてはいけない」という環境規制が敷かれています。フランスの場合、対象の川ではおおむね28℃前後が上限です。猛暑で川がもともと熱いと、発電所が捨てられる熱の「枠」がなくなり、出力を落とすか止めるしかなくなる——これが冒頭のニュースの正体です。
発電所が建てられた当時、これは大きな問題ではありませんでした。Hackadayの記事が指摘するように、建設ラッシュだった時代のヨーロッパは川の流量が豊かで、夏も比較的穏やかだったからです。1979年の技術者に「50年後には川が熱くなりすぎて冷却に使えなくなる」と見通せというのは、酷な話でしょう。
ヨーロッパの川に起きている変化
では、実際に川はどれくらい変わってきているのか。記事が引いているのが、Jiang Sun氏ら国際チームによる2024年の研究です。学術誌Geoscience Frontiersに掲載された査読済みの論文で、中央ヨーロッパを流れるオドラ川(オーデル川)流域の27地点について、1985年から2022年までの日ごとの水温を、機械学習と物理モデルを組み合わせた手法で復元・分析しています。長期の連続した水温記録が残っている川は世界的にも少ないため、気温などのデータから水温を推定して補った、という研究です。
その結果によると、流域の水温には明確な上昇傾向がみられ、上昇のペースは地点によって10年あたり0.229℃から0.720℃と幅がありました。あわせて、川の「熱波」——水温が異常に高い状態が続く現象——の頻度と強さも増していたと報告されています。水温は気温とほぼ連動して動くので、気温が上がれば川も温まる。当たり前のようですが、それが数十年分のデータで裏づけられた形です。
水温だけではありません。ドナウ川の流量の記録を長期でみると、ここ数十年は水が豊かな時期が減り、渇水が増え、水位が低いところまで下がる場面が多くなっています。冷やす相手の川が、熱くなり、そして細くなっている。発電所を取り巻く環境は、建設当時とは静かに、しかし確実に変わってきました。

原発ばかりが止まる理由
ここで一つ、疑問が出てきます。蒸気で発電する仲間は石炭火力もガス火力も同じはずなのに、ニュースで「止まった」と報じられるのは、なぜか原発ばかりです。Hackadayの記事のいちばん面白いところは、この疑問に正面から答えている点で、鍵になるのは「効率」でした。
現在の主流である軽水炉というタイプの原子炉は、熱を電気に変える効率がおよそ30〜35%にとどまります。記事が例に挙げるロシア設計のVVER-1200という比較的新しい炉で約35%、ハンガリーのパクシュ原発で1982年から動いている旧型のVVER-440にいたっては30%を切ります。炉の型式や運転条件で数字は変わるものの、軽水炉である限り、だいたいこのあたりです。
効率3割ということは、裏を返せば、原子炉が生み出した熱の3分の2ほどは電気にならず、そっくりそのまま捨てなければならないということです。この捨てるべき熱の行き先が、川なのです。つまり原発とは、「電気をつくる施設」であると同時に、「巨大な熱を川に捨て続ける施設」でもある。川という捨て場所がふさがれば動けなくなるのは、暑さに弱いからではなく、そういう設計だからでした。
では、なぜ効率を上げられないのか。蒸気で発電する仕組みの効率は、熱力学の法則により、蒸気の温度と圧力で上限が決まります。温度と圧力が高いほど効率は上がる。実際、石炭火力はこの理屈に沿って蒸気の温度と圧力を極限まで高める改良を重ね、「超臨界圧」「超々臨界圧」と呼ばれる高効率の方式に到達しました。ところが軽水炉は、水で炉を冷やし水で熱を運ぶという構造上、炉の温度をそこまで上げられません。効率の低さは手抜きではなく、いまの炉の設計に組み込まれた制約なのです。
冷却塔への改修という選択肢
川に頼らない方法は、昔からあります。代表格が、原発の写真でおなじみの、あの巨大な塔——冷却塔です。温まった水を塔の中で細かく散らし、下から上へ抜ける空気の流れで冷やして、再び冷却に使う。水は蒸発する分だけ補給すればよいので、川から取る水の量は貫流冷却より大幅に減ります。煙突と同じ原理で自然に空気が流れる自然通風式のほか、ファンで強制的に風を送る背の低いタイプ、水を浅い池に噴き上げて冷やすスプレーポンドという素朴な方式もあります。
すでに動いている発電所を、あとから冷却塔方式に改修した前例もあります。米ニューヨーク州のナインマイルポイント原発2号機は、もともと1号機と同じくオンタリオ湖からの貫流冷却で計画されていましたが、建設途中の1976年に自然通風冷却塔への設計変更が申請され、認められました。事業者の見積もりでは、冷却塔の建設に32か月。配管まわりの工事も含む大がかりな改修です。つまり、対策は技術的には可能だが、時間もお金も相応にかかる、ということです。実際、既存の発電所での改修は、これまでほとんど進んでいません。
そして冷却塔にも限界はあります。まず、水を蒸発させて冷やす以上、水そのものは失われ続けます。渇水が問題の地域では、これも痛い。蒸発分すら惜しい場合は、水を密閉して巨大なラジエーターで空気に熱を渡す「乾式冷却」という方式があり、水をほぼ失わない代わりに、冷却の効きが落ちて発電効率が下がるというトレードオフを抱えます。さらに根本的な問題として、空気で冷やす方式は、熱波のときには空気も熱いという壁にぶつかります。川が熱いときは気温も高いので、冷却能力はやはり落ちるのです。万能の解決策は、いまのところありません。
次世代炉への期待と日本の事情
記事の締めくくりは、少し先の未来の話です。第4世代と呼ばれる次世代の原子炉——中国で運転が始まっているヘリウム冷却のペブルベッド炉や、開発中の溶融塩炉——は、炉の出口温度が約750℃と、軽水炉よりはるかに高温で運転できます。高温の熱源があれば、石炭火力で実績のある超臨界圧の高効率タービンが使え、捨てる熱が減り、効きの悪い乾式冷却でも成立しやすくなる。効率を上げることが、そのまま水問題の解決につながる、という筋書きです。ただし、これらの炉が世界の発電の主役になるのはまだ先の話で、現時点では「そういう道筋がありうる」という段階だと受け止めておくのがよさそうです。
最後に、日本の読者として押さえておきたい違いをひとつ。日本の原子力発電所は、すべて海沿いに建っていて、冷却には川ではなく海水を使っています。海は川に比べて水温の変動が小さく、水が涸れる心配もないため、「川が熱くて止まる」というヨーロッパ型の問題は、日本ではそのままの形では起きません。一方で、温まった水(温排水)を海に返すことによる周辺環境への影響は日本でも古くから議論されてきたテーマで、「発電所は熱の3分の2を環境に捨てている」という構図そのものは、海でも川でも変わりません。
猛暑で原発が止まるというニュースの背後には、効率3割という設計上の制約と、その前提だった「冷たく豊かな川」が変わりつつあるという、数十年がかりのすれ違いがありました。フランスでは2026年7月、電力網を守るために川の水温規制を一時的に緩める措置まで取られています。発電を取るか、川の生き物を取るか——気候が変わるほど、この選択は際どくなっていきます。設備の寿命は数十年、気候の変化も数十年。この二つの時間の重なりは、これからも夏のニュースにたびたび顔を出すことになりそうです。
出典
もとになった解説記事:The Physics Of Keeping Thermal Power Stations Cool(Hackaday、2026年8月10日、Maya Posch)
オドラ川流域の水温研究(査読済み・オープンアクセス):Jiang Sun et al., “Long-term daily water temperatures unveil escalating water warming and intensifying heatwaves in the Odra river Basin, Central Europe”, Geoscience Frontiers, 2024
2026年夏のフランス原発の出力低下・停止:Euronews(2026年6月25日)、AFP報道(2026年7月12日)


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