超大質量ブラックホールの周りで惑星が生まれるかもしれない、数千万個規模で

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ブラックホールといえば、近づいたものを何でも飲み込む天体、というイメージが強いと思います。ところが、そのブラックホールの周りで惑星が生まれるかもしれない——そんな理論計算の結果が発表されました。ニューメキシコ州立大学のWladimir Lyra(ウラジミール・リラ)准教授らのチームによる研究で、論文は天文学の専門誌The Astrophysical Journalに掲載されています(筆頭著者はポーランド・ニコラウス・コペルニクス天文センターのBhupendra Mishra氏)。しかも計算上は、生まれうる惑星の数が数千万個という桁外れのスケールになるといいます。

惑星が生まれる場所の常識

これまで「惑星が生まれる場所」といえば、若い恒星の周りと決まっていました。生まれたばかりの星の周りには、ガスと塵(ちり)でできた円盤が広がっています。これを原始惑星系円盤といいます。いわば恒星の周りの「惑星工場」で、私たちの地球も、約46億年前に若い太陽を取り巻いていたこうした円盤の中で生まれました。

この工場が動くための大事な条件のひとつが温度です。塵が集まって固まり、小さな天体へと育っていくには、材料が蒸発してしまわない程度に冷えている必要があります。逆にいえば、温度の条件さえ合えば、塵はくっつき合って育ち始める。これがあとで効いてくるポイントです。

超大質量ブラックホールを取り巻く円盤

一方、今回の舞台は銀河の中心です。多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍もの重さを持つ超大質量ブラックホールが潜んでいます。私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の約400万倍の重さのものがひとつあります。

活発なブラックホールの周りでは、引き寄せられたガスと塵が、渦を巻きながら落ち込んでいきます。この渦巻く円盤を降着円盤(こうちゃくえんばん)といいます。落ち込む物質は摩擦で猛烈に熱せられ、まばゆく輝く。こうして銀河の中心が明るく光っている状態を、活動銀河核(AGN)と呼びます。中心部は何万度にもなる灼熱の世界で、惑星の材料が固まるどころではありません。

ただし、この円盤はとてつもなく大きいのです。研究チームによれば、円盤の定義にもよりますが、半径は最大で2万天文単位ほどに達します。1天文単位は太陽と地球の距離(約1億5000万km)で、2万天文単位は太陽系の惑星がすべて収まる範囲の数百倍。光の速さでも4か月近くかかる距離です。

恒星の周りとよく似た円盤の外縁

これだけ大きいと、中心から遠く離れた円盤のいちばん外側は、すっかり冷えています。そして研究チームの計算によると、この外縁部の温度は、恒星の周りの原始惑星系円盤とよく似た範囲に収まるのです。つまり、塵が蒸発せずに固まれる。惑星工場が動くための温度条件が、ブラックホールの円盤の外側でも成り立ってしまう、というわけです。

チームは、恒星の周りで惑星のもとができる仕組みとして有力視されている「ストリーミング不安定性」という現象が、この外縁部でも働くかどうかを計算しました。塵の粒がある程度の濃さで集まると、周りのガスを引き連れて動くようになり、粒どうしがさらに寄り集まって、雪だるま式に濃い塊へ育っていく——ざっくりいえばそういう仕組みです。計算の結果、外縁部の塵は必要なサイズまで問題なく成長でき、太陽ほどの質量を含む塵のフィラメント(細長い濃い筋)が形成され、それが崩れて、地球サイズから木星を超えるサイズまでの天体が数千万個規模で生まれうる、という結果になりました。ただしこれには、円盤が強い磁場で安定していて、乱流が抑え込まれているという条件がつきます。

塵だけでできた奇妙な天体

ここで生まれる「惑星」は、地球のような惑星とはだいぶ様子が違うようです。地球は誕生の過程で内部が融け、重い金属が中心に沈んで核となり、岩石のマントルと分かれました。ところが計算が示す天体は、そうした分化を経ておらず、ほぼ塵だけの寄せ集めでできています。

論文によれば、その表層は、円盤の中で寿命を終えていく大質量星がまき散らした放射性物質(アルミニウム26や鉄60)の崩壊熱で熱せられ、岩石が融けてマグマの海に覆われている可能性があるといいます。研究チームはこれを「縮退した溶岩の滴」と表現しています。木星より重いのに中身は塵、表面は溶岩——こんな天体は、恒星の周りの惑星形成では想定されてこなかったものです。

ブラックホールの種になる可能性

話はさらに続きます。この環境では材料が桁違いに豊富なため、生まれた天体はどんどんガスと塵を集めて成長できます。計算上は、惑星の域を超えて恒星の質量に達するものも出てくる。つまり、これは星の生まれ方の新しいルートにもなりうるということです。そして、集めた質量が太陽の300倍を超えるような場合には、そのまま潰れて中間質量ブラックホール——太陽の数百〜数万倍という、観測例が少なく正体がよく分かっていない「中くらいの」ブラックホール——の種になる可能性がある、と論文は指摘しています。

理論が示す範囲と残る宿題

大事な注意点をひとつ。これは理論計算の研究であって、ブラックホールの周りで惑星が観測で見つかったわけではありません。「生まれうることが理論的に示された」段階です。数千万個という数も、2万天文単位という円盤の大きさも、モデル計算のうえでの見積もりです。

しかも、実際に見つけるのは相当難しそうです。論文によれば、重い天体ほど円盤の内側へと沈んでいく傾向があり、観測しやすい場所にとどまってくれるとは限りません。それでも、「惑星が生まれる場所」の候補が、恒星の周りからブラックホールの周りへと広がったこと自体が、この研究の面白さだと思います。惑星の作り方とブラックホールの育ち方という、これまで別々に研究されてきた分野をつなぐ計算結果が、今後の観測でどう検証されていくのか。続報を待ちたいところです。

出典

Bhupendra Mishra, Wladimir Lyra ほか「Active Galactic Nucleus Tori: Potential Birthplace to Millions of Planets」The Astrophysical Journal, 1005, 99(2026年)、DOI: 10.3847/1538-4357/ae6f0b

Evan Gough「Massive Exoplanets Could Form Around Supermassive Black Holes」Universe Today(2026年8月17日)

ニューメキシコ州立大学のプレスリリース「NMSU researcher’s team finds supermassive black holes may create massive planets」EurekAlert!(2026年8月)

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