遠くにある星が、自分の惑星を一つ「食べて」しまったらしい——そんな痕跡が見つかりました。地球から約1,357光年(およそ1,300光年先)にある恒星TOI-5882で、星に残された化学的な手がかりから、過去に惑星を一つ飲み込んだ可能性が高いとわかった、という研究です。米国とチリの研究者14人によるチームがまとめ、天文学の専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に発表されました。

準巨星TOI-5882という星
TOI-5882は、見た目には太陽によく似たG型星です。ただし年齢でいうと、一生の盛り(主系列)を過ぎて、少しずつふくらみ始めた段階にあります。こうした星を準巨星(じゅんきょせい)と呼びます。質量は太陽の約1.3倍、直径は太陽のおよそ2倍。まだ老齢の赤色巨星ほど太ってはいない、中年に差しかかったばかりの星です。
この星は以前から、重い連れを持つことで知られていました。木星の20倍を超える重さのガスの天体が、すぐそばを回っているのです。後で出てくるこの連れが、今回の話のカギになります。
リチウムという手がかり
決め手になったのは、星の表面にあった「多すぎるリチウム」でした。リチウムは熱に弱く、星の内部に運ばれると壊れてしまう元素です。だから年を取った星ほど、表面のリチウムは減っていくのが普通で、TOI-5882ほどの星に多く残っているのは本来おかしい。
ところが惑星のほうは、リチウムをたっぷり抱えています。もし星が自分の惑星を飲み込めば、その惑星に含まれていたリチウムが星の外層に混ざり込み、本来あるはずのない量のリチウムが残る——。研究を率いたミシガン大学の大学院生ブルック・コッテンさんは、これを「食べたものが、その人をつくる(You are what you eat)」という言い回しで説明しています。星の中身を読めば、何を食べたかがわかる、というわけです。
チームは、星の光を波長ごとに分けて含まれる元素を読み取る「分光」という手法で、TOI-5882のリチウム量を測りました。そのうえで、年齢・質量・温度などが近い62個の星と比べたところ、TOI-5882のリチウムの多さは上位2%ほどに入る、飛び抜けた値でした。星の外から何かがリチウムを持ち込んだ、と考えるのが自然な多さです。
ふくらむ前に起きた飲み込み
星が惑星を飲み込むこと自体は、珍しい考えではありません。星は一生の終わりに大きくふくらむので、そのときに近くの惑星をのみ込んでしまう。たとえば私たちの太陽も、約50億年後には赤色巨星にふくらんで、水星・金星、そしておそらく地球までのみ込むと考えられています。
ただしTOI-5882は、まだそこまでふくらんでいません。「大きくなったから惑星に届いた」では説明がつかないのです。ではなぜ、この星は惑星を一つ食べてしまったのか。ここからが、この研究の面白いところです。
共犯者とみられる褐色矮星
先ほど触れた、TOI-5882のそばを回る重い連れ。これは木星の20倍を超える重さを持つガスの天体で、星になりかけたものの、燃え上がるには軽すぎた中途半端な存在です。こうした天体を褐色矮星(かっしょくわいせい)と呼びます。この褐色矮星はTOI-5882 bと名づけられており、星のすぐそば、わずか7.1日で一周するほど近い軌道を回っています。

研究チームは、この重い連れが「押し出し役」になった可能性を挙げています。すぐ近くを重い天体が回っていると、その重力でほかの小さな惑星の軌道がかき乱されます。長い時間をかけて軌道が乱されるうちに、惑星はだんだん星へ近づき、最後はらせんを描いて星へ落ちていった——という筋書きです。落ちた惑星は星の強い重力に引き裂かれ、その成分が星の外層へまき散らされた、と考えられます。ただし、この「共犯説」が本当かどうかは、別の研究で確かめる必要があるとしています。
飲み込まれた惑星の正体
星に残ったリチウムの量から、飲み込まれた惑星の重さも見積もられました。地球の数倍から、海王星(地球の約18倍)くらいまでの間。地球より重く海王星より軽い、いわゆるスーパーアースだったとみられます。
発見の意義と今後の研究
面白いのは、飲み込みが「終わったあと」でも痕跡を読み取れる、と示した点です。飲み込み自体は数日から数週間で終わってしまうほど速く、その瞬間を望遠鏡でとらえるのはまず無理です。だからこそ、星に残った化学的な痕跡から後追いで「何が起きたか」を再構成する手法が役に立ちます。コッテンさんは自分たちの仕事を、その場を目撃できない事件を手がかりから解く探偵にたとえています。
こうした「飲み込みの痕跡」を一つずつ見つけていくと、惑星が星にのみ込まれる現象がどれくらいありふれていて、どんなきっかけで起きるのかが見えてきます。今回の褐色矮星のように、星のふくらみとは別の理由で惑星が落とされる道筋があるかもしれない、というのもその一つです。
解釈上の留意点
この研究は、TOI-5882が惑星を飲み込んだ「候補」を示したものです。リチウムが多いことは強い手がかりですが、それだけで飲み込みが確定するわけではありません。実際、比較に使った星の中にも、別の理由でリチウムが多いとみられるものがいくつかあり、リチウムを増やす仕組みがほかにもある可能性が残っています。褐色矮星が惑星を落とした「共犯者」かどうかも、これから検証される段階です。
出典
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