スイスのCERN(セルン)にある巨大加速器で、新しい素粒子が見つかった、という発表があった。陽子(ようし)によく似た構造を持ちながら、重さは陽子のおよそ4倍。しかもこの観測は、20年あまりくすぶっていた物理の「食い違い」にも決着をつけた。
主役は「Ξcc⁺(グザイ・シーシー・プラス)」という粒子だ。名前はいかついが、中身をたどると意外とイメージしやすい。順を追って見ていく。

陽子に似た重い粒子
話を分かりやすくするために、まず身近な陽子から始めたい。陽子は、原子の中心(原子核)にいる、おなじみの粒子だ。その正体は「クォーク」という物質の最小単位が3つ集まったもので、内訳はアップクォーク2つとダウンクォーク1つ。こうしてクォークが3つで一組になった粒子を、まとめて「バリオン」と呼ぶ。
今回見つかったΞcc⁺は、この陽子の“クォークを入れ替えた親戚”にあたる。陽子のアップクォーク2つを、ずっと重い「チャームクォーク」2つに置き換えた構成(チャーム2つ+ダウン1つ)になっている。チャームクォークはアップクォークの重い兄貴分のような存在で、これが2つも入っているおかげで、Ξcc⁺は陽子のおよそ4倍の重さになる。「二重チャーム」という呼び名は、この“チャームが2つ”からきている。
イメージとしては、重いチャームクォーク2つが中心でくっついて回り、その周りを軽いダウンクォークがぐるりと回っている——小さな惑星系のような姿だと考えられている。ふつうのバリオンでは3つのクォークが対等に動き回るが、重いクォークが2つ入った粒子は、こういう“連星と惑星”のような構造になると予想されてきた。
20年来の食い違い
実はこの粒子には、長い前史がある。
2017年、同じLHCbの実験チームは、Ξcc⁺とそっくりの兄弟分を発見している。「Ξcc⁺⁺(ダブルプラス)」で、こちらはチャーム2つ+アップ1つという構成だった。今回のΞcc⁺との違いは、最後の1つがダウンかアップかだけだ。質量はおよそ3621 MeV(メガ電子ボルト=粒子の重さを表す単位。陽子はおよそ938 MeV相当なので、その約4倍にあたる)。
ここで効いてくるのが、アップクォークとダウンクォークが「ほとんど同じようにふるまう」という物理の性質だ。両者の違いはこの1点だけなので、理屈のうえでは、Ξcc⁺とΞcc⁺⁺の重さはほぼ同じ——せいぜい数MeVしか変わらないはず、と予想されていた。
ところが話をややこしくしていたのが、20年あまり前の報告だ。米国のSELEX(セレックス)という実験が、Ξcc⁺らしき粒子をはるかに軽い約3519 MeVの位置で見たと報告していた。寿命が異様に短く、できる量も理論の予想よりずっと多い、という不思議な特徴つきだった。しかもこの結果は、その後のFOCUS・BaBar・Belle、そして初期のLHCbの探索でも確認できなかった。兄弟分のはずのΞcc⁺⁺と100 MeVも食い違うのは、先ほどの“ほぼ同じ重さ”の予想と合わない。本当にそんな軽い粒子があるのか——この宙ぶらりんが、長らく残っていた。
観測の中身
今回LHCbは、陽子どうしの衝突データから、Ξcc⁺をはっきりとらえた。測られた質量は約3620 MeV。これは兄弟分のΞcc⁺⁺のすぐ隣で、理論が「このあたりにいるはず」と見込んでいた位置とぴたりと重なる。
つまり、本物のΞcc⁺は兄弟分から予想されたとおりの重さのところにいて、20年前に報告された“やけに軽い粒子”の話は支持されなかった、ということだ。長く宙に浮いていた食い違いに、ようやく筋の通った答えが出たことになる。
検出の確かさを示す数字も十分だった。物理では、偶然ではない確からしさを「シグマ(σ)」という尺度で表し、発見と認めるには5σを超えることが目安とされる。今回の信号はそれを上回る7σで、データの中には約915個ぶんの崩壊の痕跡が山(ピーク)として現れた。
検出のしくみ
こうした重い粒子は、生まれた次の瞬間にはもう壊れてしまう。Ξcc⁺の寿命は、兄弟分のΞcc⁺⁺よりさらに最大6倍ほど短いと見られていて、それが観測を難しくしていた。直接つかまえるのは無理なので、物理学者は“壊れたあとの破片”から逆算する。
具体的には、Ξcc⁺はラムダc⁺(Λc⁺)という粒子と、K中間子・π中間子という2つの軽い粒子へと崩れる。その破片の重さを足し合わせて「もとは何の重さだったか」を計算し直すと、約3620 MeVのところにきれいな山が立ち上がる。この山こそが、Ξcc⁺がそこにいた証拠になる。
もう一つ見逃せないのは、これが2023年に改良を終えた新しいLHCb検出器で見つかった“最初の新粒子”だという点だ。装置の性能が上がったことで、これまで埋もれていた短命な粒子の信号を拾い上げられた、という流れになっている。
発見の意義
地味に見えるかもしれないが、この種の粒子は物理にとって貴重な“実験台”になる。クォークどうしを結びつけている「強い力」を説明する理論(量子色力学)を確かめるには、重いクォークが2つ入った粒子のように、構造が比較的シンプルで予測と突き合わせやすい対象が役に立つ。先ほどの“惑星系のような姿”は、見た目の話であると同時に、理論で計算しやすい素直な構造でもある。
今回の発見で、LHCの実験群がこれまでに見つけたハドロン(クォークでできた粒子の総称)の数は80に達した。重いクォークを2つ持つバリオンが観測されたのは、2017年に続いてこれが2例目になる。長年の食い違いを片づけ、粒子の“目録”を一つ確かなものにした、という意味でも節目の一歩だ。
とはいえ、この粒子がすぐに何かの役に立つ装置になるわけではない。あくまで、物質がどう組み立てられているかという基礎の理解を、また一段深める成果だと受け止めるのがちょうどいい。
解釈上の留意点
この結果は国際会議(モリオン会議)で発表されたもので、詳しい内容をまとめた論文はこれから公表される段階にある。存在そのものは発見の基準を超える確かさで示されているが、寿命などの細かな性質は、今後のデータや正式な論文でさらに詰められていく。数値は現時点での測定値として読んでおくとよい。
また、これは物理の最前線の基礎研究であって、暮らしへの直接の応用を約束するものではない。派手な言葉で語るより、「20年来の宿題に静かにケリがついた」くらいの距離感で眺めるのが、いちばん実像に近い。
出典
研究の一次情報・解説は、以下で確認できる(いずれも新しいタブで開く)。


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