【地球年表03-1】先カンブリア時代 原生代 – 大気に酸素が満ちるまで

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原生代は、25億年前から約5億3900万年前まで続いた時代です。長さは約19億6000万年。地球の46億年の歴史のうち、4割あまりをこの一つの区分が占めています。

先カンブリア時代は冥王代・太古代・原生代の3つに分かれ、原生代はその最後にあたります。厳密にはこの3つは「紀」ではなく、代と同じ階層の区分(累代/るいだい)ですが、この年表では並びをそろえるために紀の位置に置いています。

この長い時代の前半に起きたのが、大気の中身が入れ替わる出来事です。それまで地球の空気には、私たちが吸える酸素がほとんど含まれていませんでした。ここでは、その酸素がいつ、どうやって大気に入ったのかを追います。

水を分解する微生物の登場

酸素を作ったのはシアノバクテリア(藍色細菌/らんしょくさいきん)です。光合成をする細菌で、夏の池を緑に濁らせるアオコも、この仲間が増えたものです。

光合成といっても、いくつも種類があります。太陽の光で二酸化炭素から糖を作るには、電子を渡してくれる相手が必要で、古いタイプの光合成は硫化水素や水に溶けた鉄を使っていました。ところがシアノバクテリアは、水そのものを分解して電子を取り出すしくみを手に入れます。地球のどこにでもある水が材料になったので、光の当たる場所ならいくらでも増えられる。そして水を割ると、使わない側の原子が余ります。それが酸素です。

大気の酸素はもともと廃棄物でした。捨てられた副産物が、はるか後の時代に動物の呼吸を支えることになります。

問題は、シアノバクテリアがいつ現れたのかです。微生物は骨も殻も持たないので化石として残りにくく、直接たどるのは難しい。そこで手がかりになるのが「分子時計」です。現在生きている生物のゲノムを比べ、遺伝子の変化がおおよそ一定の速さで積み重なると仮定して、系統が分かれた時期を逆算する方法です。

この方法による推定では、水を分解する光合成のしくみは太古代のうちに——おそくとも30億年前ごろには——できあがっていた可能性が高いとされています。大気に酸素がたまり始めるより、数億年前です。

2025年には、さらに踏み込んだ結果が科学誌サイエンスに報告されました。沖縄科学技術大学院大学(OIST)などの国際チームが、細菌のゲノムから「その系統は酸素を使う生活をしていたか」を機械学習で推定し、時間軸に載せたものです。少なくとも3つの系統が、大気に酸素がたまり始めるより前から酸素を利用していた。もっとも早いものは、およそ9億年もさかのぼるという結果でした。

酸素は、局所的にはずっと前から存在していたことになります。浅い海の一角で微生物のマットが酸素を出し、その周りの水だけに溶けている——「酸素のオアシス」と呼ばれる状態です。

岩石に残された大気の記録

24億年前の空気そのものは、どこにも保存されていません。当時の大気に酸素があったかどうかの判定は、岩石に残った化学的な痕跡から間接的におこなわれます。

いちばん効くのが硫黄です。硫黄には質量のちがう同位体が複数あり、化学反応で分かれるときは、ふつう質量の差に比例した割合になります。ところが酸素もオゾン層もない大気では、太陽の紫外線が二酸化硫黄の分子を直接壊してしまい、この比例関係から外れた偏りが生まれます。壊れた硫黄はいくつもの別々の形で地表に落ち、それぞれ違う偏りを抱えたまま地層に取り込まれます。

大気に酸素が入ると、この偏りは消えます。オゾン層が紫外線を遮るようになり、硫黄はいったん海の硫酸イオンにまとめて溶けてから沈殿するので、偏りが平均されてしまうからです。

実際の岩石を調べると、この偏りは24億5000万年前より古い地層には世界中で見つかり、23億年前より新しい地層からは完全に消えています。2000年にサイエンス誌で報告されて以来、大気の酸素がいつ立ち上がったのかを示す、もっとも確かな証拠とされてきました。偏りが消える境目にあたる酸素の量は、現在の大気の10万分の1程度と見積もられています。ごく薄いのですが、それ以前とは決定的に違う水準です。

ほかの証拠も同じ時期を指しています。風や水で運ばれた黄鉄鉱(おうてっこう)やウラン鉱の粒——酸素があれば運ばれる途中で溶けてしまう鉱物——が、この時期を境に地層から姿を消します。逆に、鉄が酸化して赤くなった地層(赤色層)が現れはじめ、古い土壌からは鉄が抜けた跡が見つかるようになります。

ひとつ、ややこしい点があります。原生代の始まりは25億年前とされていますが、これは何かの出来事に合わせた数字ではありません。この古さの時代には境界を示す基準の地層がまだ決められておらず、切りのよい数値でそのまま区切られているのです。大気の酸素が立ち上がったのは約24億3000万年前とされるので、時代の区切りとは7000万年ほどずれています。

酸素を飲み込んでいた鉄と火山ガス

ここで、引っかかることが出てきます。酸素を作る微生物は30億年前ごろにはいた。それなのに、大気に酸素がたまり始めたのは24億年前です。数億年ぶんの酸素が、大気には残らなかったことになります。

大気に酸素が残るかどうかは、作られる量ではなく、作られる量と消される量の差で決まります。そして当時の地球には、酸素を消す相手がふんだんにありました。

最大の相手は、海に溶けた鉄です。鉄は酸素のない水にはよく溶けます(二価鉄と呼ばれる形です)。当時の海には、海底の熱水噴出孔から供給された鉄がたっぷり溶け込んでいました。そこへ酸素が加わると、鉄は酸化して水に溶けない形(三価鉄)に変わり、細かい粒になって沈みます。酸素は鉄と組んで海底へ運び去られ、大気には届きません。

その沈殿物が、地層として残っています。縞状鉄鉱層(しまじょうてっこうそう)です。鉄に富む黒っぽい層と、シリカ(ケイ酸)に富む赤茶や灰色の層が、ミリからセンチ単位で交互に、ときに何百メートルも積み重なった岩石で、26億5000万年前から18億5000万年前ごろに集中して作られました。西オーストラリアのハマスレー地域にあるものは約24億5000万年前で、単体として世界最大級です。

この岩は現代の暮らしに直結しています。世界の鉄鉱石の大半は縞状鉄鉱層を掘り出したもので、鉄骨も鉄道のレールも、この時代の海に沈んだ鉄からできています。ただし、鉄を沈めた酸化の担い手については議論が続いています。光合成で出た酸素によるものと、鉄そのものを電子源に使う古いタイプの光合成によるものの両方が考えられていて、どちらがどれだけ効いたのかは決着していません。

もうひとつの相手は、火山から出るガスです。水素、硫化水素、一酸化炭素、メタン——いずれも酸素と反応して消えます。地表に露出した還元的な鉱物も、風化のときに酸素を使います。

供給された酸素は、出た先で次々に片づけられていました。

収支が傾いた転換点

ここから、大酸化イベントの見え方が変わります。

酸素が大気にたまり始めた時期を決めたのは、酸素が作られ始めた時期ではありません。消される量が、作られる量に追いつかなくなった時期です。

2022年にネイチャー・ジオサイエンス誌に載った英リーズ大学のルイス・オルコットさんらの論文は、大酸化イベントをはっきり「転換点(tipping point)」と位置づけています。光合成による生産と酸素の産出が、酸素を消費する物質の流入量を上回った瞬間だ、という捉え方です。そしてその時期を決めたのは生物の発明ではなく、栄養であるリンの供給量と、固体地球の側の動きだとしています。

チームが注目したのは、そのリンです。リンは海の微生物やプランクトンの増え方を左右する栄養で、これが足りなければ光合成は増えません。南アフリカのトランスバール累層群から掘り出した26億5000万〜24億3000万年前のボーリング試料を分析したところ、堆積物の中でリンが放出されやすくなっていた痕跡が見つかりました。陸の岩石がわずかに酸化して硫酸イオンが海に流れ込み、海底で硫化物ができるようになると、それまで鉄と結びついて沈んでいたリンが解放される。使えるリンが増えれば光合成が増え、酸素も増える。増えた酸素はさらに陸を酸化させ、硫酸イオンをまた増やす——正のフィードバックです。

ただし、収支を傾けた要因がこれひとつと決まったわけではありません。有力な候補が並んでいます。海底の火山から陸上の火山へと活動の場が移り、酸素を消すガスの供給が減ったという説(2007年、ネイチャー誌)。メタンとして大気に出た水素が宇宙へ逃げ続け、地球全体がじわじわ酸化していったという説(2001年、サイエンス誌)。大陸が成長して陸の面積が増え、リンの供給そのものが増えたという説。どれがどれだけ効いたのかは、まだ決まっていません。

つまり大酸化イベントは、酸素が生まれた出来事ではありません。酸素を飲み込んでいた側が飽和した出来事です。時期を決めたのは微生物の発明ではなく、地球全体の物質の出入りだったことになります。

凍りついた地球と、行きすぎた反動

収支が傾いた結果は、大気の成分が変わるだけでは終わりませんでした。

大酸化イベントとほぼ同時に、地球は繰り返し氷に覆われます。24億5000万年前から22億2000万年前にかけて、少なくとも3回、南アフリカの記録を含めれば4回。カナダ・オンタリオ州のヒューロン湖北岸に露出する地層(ヒューロニアン累層群)にちなんで、ヒューロニアン氷期と呼ばれています。氷は低緯度まで達し、海面の高さまで届いていたと考えられています。

原因として有力なのが、酸素そのものです。それまでの大気には、メタンがかなり含まれていたと考えられています。メタンは二酸化炭素より強い温室効果ガスで、当時の太陽が今より暗かったぶんを補って地表を暖めていました。ところが酸素が増えると、メタンは酸素と反応して二酸化炭素と水に変わってしまう。温室効果の主力が弱いものに置き換わり、地表の温度が下がった——という筋書きです。

生き物の側の代償もありました。酸素は、それに対処するしくみを持たない微生物にとっては毒です。当時広がっていた嫌気性(けんきせい=酸素を必要としない)の微生物の多くが失われたとされ、地球最初の大量絶滅と呼ばれることもあります。ただし微生物は化石として残りにくく、この絶滅がどれほどの規模だったのかを確かめる手立ては限られています。

そして酸素の増え方そのものも、一直線ではありませんでした。2021年にネイチャー誌に載ったリーズ大学のサイモン・ポールトンさんらの研究は、南アフリカ・東トランスバール盆地の海成堆積物を細かく調べ、酸素の量が例の「10万分の1」の水準をまたいで何度も上下していたことを示しました。上がって、また下がる。それが約2億年続き、酸素が戻らなくなったのは約22億2000万年前——それまでの見積もりより1億年ほど遅い時期だとしています。共著者の米カリフォルニア大学リバーサイド校のアンドレイ・ベッカーさんは、この不安定さが大酸化イベントに重なる4回の氷期を説明する助けになると述べています。

安定したあとは、逆に振りすぎました。22億2000万年前から20億6000万年前にかけて、地層の炭素同位体に、地球史で最も長く続く正の偏りが記録されています。ロマグンディ・イベントと呼ばれるこの時期、酸素は現在に近い水準、あるいはそれを超えるところまで上がった(オーバーシュートした)とする解釈が広く議論されてきました。ただし当時の濃度を直接測る手立てはなく、どこまで上がったのかは研究者のあいだで一致していません。

そのあと酸素は下がり、10億年以上にわたって低い水準にとどまります。

20億年かかった移り変わり

大気に酸素が満ちる、というと一度の出来事のように聞こえますが、実際にはもっと長い話でした。

2025年8月にネイチャー誌に載った研究は、堆積した硫酸塩の酸素同位体を使って、25億年ぶんの記録を細かい時間解像度で組み直したものです。中国の成都理工大学を中心に、米カリフォルニア大学リバーサイド校やオーストラリアの研究者も加わった国際チームによるものです。描き出されたのは、3段階の階段状の上昇でした。酸素はまず海の表層に、次に大気に、最後に深い海へと広がっていった。そして深海まで持続的に酸素が行き渡り、大気の酸素が現在に近い水準に達したのは約4億1000万年前——古生代の半ば、魚が繁栄していた時代だという結論です。

この見方に立つと、原生代の初めに起きたことは「大気が酸素で満たされた瞬間」ではなく、20億年かかった移り変わりの最初の段だったことになります。原生代が終わるころでも、深い海はまだ酸素の乏しい状態でした。

残っている問いは、そのまま残っています。収支を最終的に傾けたのは何だったのか。上下の振れ幅はどれくらいだったのか。ロマグンディ・イベントで酸素はどこまで上がったのか。手がかりは、南アフリカやオーストラリア、カナダの古い地層から掘り出されるボーリング試料と、そこに含まれる同位体の比だけです。24億年前の空気そのものは、もう手に入りません。

出典

地質年代の区分と境界年代は、国際層序委員会(ICS)の国際年代層序表によります:International Chronostratigraphic Chart(ICS)

大酸化イベントを「転換点」と位置づけ、リンの再循環に注目した研究:Alcott et al., “Earth’s Great Oxidation Event facilitated by the rise of sedimentary phosphorus recycling”(Nature Geoscience, 2022)

酸素が約2億年にわたって上下し、永続的な酸素化が22億2000万年前だったことを示した研究:Poulton et al., “A 200-million-year delay in permanent atmospheric oxygenation”(Nature, 2021)/リーズ大学のプレスリリース:Extra 100 million years before Earth saw permanent oxygen rise

酸素化が3段階で進み、完成が約4億1000万年前だとした研究:Wang et al., “Two-billion-year transitional oxygenation of the Earth’s surface”(Nature, 2025)/解説記事:Two-billion-year oxygen transformation on Earth unveiled(Phys.org)

大酸化イベント以前から酸素を使う細菌がいたことを示した研究(沖縄科学技術大学院大学のプレスリリース):Molecular clock analysis shows bacteria used oxygen long before widespread photosynthesis

硫黄同位体の偏りが示す無酸素大気について:Pavlov & Kasting, “Mass-independent fractionation of sulfur isotopes in Archean sediments”(Astrobiology, 2002)

大酸化イベントの開始年代と初期の氷期の対応について:Gumsley et al., “Timing and tempo of the Great Oxidation Event”(PNAS, 2017)

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