20年前の火星探査データを32か所ぶん重ねたら、消えていた鉱物が現れた

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NASAの火星探査車スピリットが2004年から送り続けたデータのなかに、当時は「見つからなかった」とされた鉱物が、実はちゃんと写り込んでいた——。エディス・コーワン大学(オーストラリア)のパウロ・デ・ソウザ教授が、20年以上前の観測記録を32か所ぶんまとめて解析し直し、そう報告しました。

火星を新しく観測したわけではありません。すでに公開されているデータを、別の足し方で読み直しただけです。それでも結論は変わりました。

火星の土を調べた装置と当時の制約

スピリットが積んでいた装置のひとつに、MIMOS II(ミモス・ツー)という小型のメスバウアー分光計があります。メスバウアー分光は、鉄の原子核がガンマ線をどのエネルギーでやりとりするかを調べる手法で、鉄がどんな鉱物の形で存在しているかを見分けられます。「鉄が何%あるか」ではなく「鉄がどの鉱物に入っているか」が分かる、というのがこの装置の役どころです。

ただ、この測り方には時間がかかります。装置を土に押し当て、跳ね返ってくるガンマ線を何時間もためて、ようやく一枚のグラフ(スペクトル)ができあがる。探査車の時間も電力もメモリも限られていて、しかも装置に入っている放射線源(コバルト57)は日ごとに弱くなっていきます。火星で最初に測ったスペクトルは、3時間25分かけたものでした。

その結果、量の少ない鉄鉱物——全体の5%に届かないようなもの——は、ノイズに埋もれて判別できませんでした。2004年に発表された当時の解析でも、グセフ・クレーターの土から結晶質の赤鉄鉱(ヘマタイト)は検出されていない、とされています。

32か所ぶんを一枚に束ねる手法

デ・ソウザ教授が今回やったのは、この「1回ぶんでは足りない」を回数で埋めるという方法です。

スピリットは2062火星日(ソル)に及ぶ運用のあいだに、手つかずの土——探査車が掘ったり踏んだりしていない、そのままの地表——を32か所で測っていました。この32か所ぶんのスペクトルを、まず測定時の温度帯ごとにまとめ、最終的にすべてを一枚に足し合わせます。

合算した量は、線源の強さを揃えて換算すると、およそ150時間ぶんの測定に相当します。地球の時間で6日あまり。最初の1回が3時間25分だったことを思えば、40倍以上です。

弱い信号でも、同じ位置に現れるものは足すほど山が高くなります。逆に、でたらめなノイズは足し合わせると打ち消し合って平らになっていく。そうやって、埋もれていた小さな山が見えるところまで持ち上げた、というわけです。

浮かび上がった赤鉄鉱と磁鉄鉱

一枚に束ねたスペクトルからは、かんらん石(オリビン)と輝石(きせき)という火成岩でおなじみの鉱物に加えて、結晶質の赤鉄鉱と、組成のずれた磁鉄鉱(マグネタイト)が読み取れました。あわせて、ナノサイズの三価鉄を含む成分も検出されています。

磁鉄鉱の「ずれ」というのは、本来そこに入っているはずの二価の鉄の一部が、酸化して三価に変わっている状態を指します。完全に赤鉄鉱になりきる手前で止まった、途中経過のような姿です。

論文の結論ははっきりしています。この手法によって、グセフ・クレーターの手つかずの土に磁鉄鉱と結晶質赤鉄鉱が存在することが明確に示された。したがって、これらの土に結晶質赤鉄鉱がないとした2004年の結論は見直されるべきである——と書かれています。デ・ソウザ教授はもともとMIMOS IIに関わっていた当事者なので、自分たちが当時出した答えを、自分で書き換えたことになります。

合算を成り立たせる前提の検証

とはいえ、場所のちがう32か所を足してよいのかどうかは、それ自体が問われるところです。性質のちがう土を混ぜて平均してしまえば、出てきた山が何を意味するのか分からなくなります。

そこで論文では、足す前に前提を確かめています。スピリットが走破した7.7kmほどの範囲で測った土は、別の装置(APXS=アルファ粒子X線分光計)で調べた酸化鉄の量が12〜18重量%の幅に収まっていました。スペクトルの形も、場所ごとに大きくは変わりません。この範囲の表土は、火星全体をおおう砂じんの層の一部としてだいたい似たものと見なせる——だから足してよい、という筋道です。

ただし、温度帯ごとに分けて見ると、赤鉄鉱の割合が一段高く出る区間もありました。これはエンダビーランドと呼ばれる、赤鉄鉱を多く含む岩が集まった場所での測定が偏って入っているためで、場所による濃淡がまったくないわけではないことも、同時に示されています。

水の関与をめぐる解釈上の留意点

ここから先は、読み取れる範囲がわりと狭いところにあります。

赤鉄鉱も磁鉄鉱も、たしかに水と岩が反応した場所でできる鉱物です。ただし、それだけでできるわけではありません。赤鉄鉱は火山活動の場でも生じますし、磁鉄鉱についてはもともと火成鉱物として結晶したものが、あとから酸化して今の姿になったと論文では説明されています。その酸化は「水を伴う、あるいは酸化的な作用」と整合する、という書き方で、水だけが原因だと特定されているわけではありません。

デ・ソウザ教授は大学の発表で、ありふれた火星の土から結晶質赤鉄鉱が見つかったことについて、水が存在したことに加えて、火星のかなりの範囲がかつて水におおわれていた可能性を示すものだ、と述べています。ただしこれは氏の解釈で、論文本文にそこまでの結論は書かれていません。論文が言い切っているのは「磁鉄鉱と結晶質赤鉄鉱がグセフの土に存在する」ところまでです。海があったと確定したわけでも、水の証拠がここで初めて見つかったわけでもありません。

火星に液体の水があった時期があること自体は、これまでの複数の探査から示されてきました。今回の貢献は、ありふれた土のなかに水と関わる鉱物が広く含まれていることを、既存データの読み直しという手つきで示した点にあります。

宿題も残りました。スペクトルのなかで最も目立つ三価鉄の成分が、具体的に何なのかは決着していません。細かい酸化物や水酸化物のほかに、硫酸塩や亜硫酸塩の可能性も排除できないと書かれています。これをはっきりさせるには、火星の土を地球に持ち帰って、もっと低い温度で測り直す必要があるとされています。

過去データの再利用という視点

デ・ソウザ教授は次に、双子の探査車オポチュニティがメリディアニ平原で測ったデータに、同じ手法をあてる予定だとしています。そちらでも同じように鉱物が浮かび上がれば、火星の表土が惑星規模で似たものだという見方を確かめる材料になります。

論文の締めくくりには、将来のミッションへの注文も書かれています。メスバウアー分光計を積むなら、ミッションの初期から一つの対象に長く時間をかけて測ったほうがよい。あるいは逆に、複数の場所のデータをまとめて地域全体の鉱物像をつかむ手法として使う道もある——と。

スピリットの通信が途絶えたのは2010年3月22日、NASAが正式に運用終了を告げたのは2011年5月25日のことです。それから15年たって、探査車が残したデータからまだ新しい読み取りが出てくる。今回の話でいちばん効いているのは、たぶんそこです。

なお、この研究は2026年6月26日付で学術誌 Interactions(シュプリンガー)にオープンアクセス論文として公開されています。国際会議での発表をもとにしたプロシーディング論文で、査読を経ています。

出典

論文(オープンアクセス):Paulo de Souza, “A consolidated Mössbauer spectrum for undisturbed soils from Gusev Crater, Mars”, Interactions 247, 278 (2026).
https://doi.org/10.1007/s10751-026-02625-4

エディス・コーワン大学 プレスリリース(2026年7月28日)
New ECU discovery adds to evidence Mars once had water

Universe Today(2026年8月5日)
Scientist Constructs “Big Picture” of Mars Water from Rover Data

NASA 火星探査車スピリット ミッションページ
https://science.nasa.gov/mission/mer-spirit/

解析に使われたデータの公開先(NASA Planetary Data System)
https://pds-geosciences.wustl.edu/missions/mer/geo_mer_datasets.htm

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