宇宙人を探すため、コンピュータの中で「もっともらしい微生物」を育てた研究

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宇宙のどこかにいるかもしれない生命を探すために、まずコンピュータの中で微生物を育ててみた——そんな研究が発表されました。イギリス・エクセター大学の天体物理学者アーウェン・ニコルソン氏とネイサン・メイン氏が、単純化した微生物の細胞モデルを作り、それを仮想の惑星に住まわせて、大気がどう変わるかを計算したのです。論文は英国王立天文学会の学術誌 Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(MNRAS)に2026年7月に掲載されました。査読を経た正式な論文で、誰でも無料で読めます。

「宇宙人を探すのに、なぜ架空の微生物を作るのか」。順番が逆に聞こえるかもしれませんが、実はこの逆向きの発想にこそ、この研究の面白さがあります。

手本が地球の生命しかないという問題

遠くの惑星に生命がいるかどうかを調べる方法として、いま最も現実的なのは、惑星の大気を分析することです。惑星の大気を通り抜けてきた星の光を調べると、そこにどんな気体が含まれているかが読み取れます。生命の存在を示す手がかりになりうる気体は「バイオシグネチャー」と呼ばれ、酸素やメタンなどが候補に挙げられています。

ところが、ここに根本的な問題があります。私たちが知っている生命は、地球の生命だけ。何を探せば「生命の証拠」になるのか、本当のところは誰にも分からないのです。

しかも、これまでに見つかっている「生命がいるかもしれない惑星」の多くは、地球とはかなり様子が違います。地球より大きく重い惑星が多く、回っている星も太陽より小さく暗い星だったりします。つまり、最初に見つかる地球外生命は、地球のどこにもない環境で生きている可能性が高い。地球の生命だけを手本にしていては、見逃してしまうかもしれません。

そこで2人が取った道が、冒頭の逆向きのアプローチでした。特定の惑星を決めてから「ここにはどんな生命がいそうか」を考えるのではなく、先に「地球の条件に縛られない、もっともらしい生命のモデル」を作ってしまう。それをいろいろな環境に置いてみて、周囲にどんな影響を与えるかを計算するのです。

球形の細胞モデルと初期地球風の惑星

モデルにしたのは、メタン生成菌(メタノジェン)と呼ばれるタイプの微生物です。二酸化炭素と水素からエネルギーを取り出し、メタンを吐き出して生きています。選んだ理由ははっきりしていて、まず、地球の初期の生物圏で大きな役割を果たしていたと考えられていること。約40億年前、酸素がほとんどなかった時代の地球で、最初に現れた生命はメタン生成菌だった可能性があります。そしてもうひとつ、光合成と違って日光がいらないこと。化学反応だけでエネルギーを得られるので、星の光が届かない場所でも生きられます。地球でうまくいっていると分かっている仕組みで、しかも地球とかけ離れた環境でも通用しそう——出発点にはうってつけというわけです。

2人は、球形をしたメタン生成菌の細胞モデルを作りました。完全な空想ではなく、実在するメタン生成菌(メタノサルシナ・バーケリという種)を実験室で測ったデータを初期値にしています。細胞が栄養(この場合は水素)を取り込む速さは、細胞膜を通る分子の拡散で決まり、得られるエネルギーは熱力学の式で計算する。生物の細かい事情をそぎ落として、物理と化学だけで動く「一般化された細胞」です。

この細胞を住まわせたのは、太陽に似た星を回る、地球サイズで表面がまるごと海に覆われた惑星。初期の地球を単純化した設定です。そのうえで、細胞の大きさ、細胞が死ぬ速さ、体を作るのに必要なエネルギーの量といった条件を一つずつ変えながら、大気の組成がどうなるかを繰り返し計算しました。

シミュレーションで見えた3つの傾向

計算から見えてきたことは、大きく3つあります。

1つめは、大気中のメタンと水素の量が、微生物の性質に敏感に反応することです。細胞の大きさや寿命をほんの少し変えるだけで、大気に残るメタンの量が変わりました。つまり、遠くから大気を観測したときに見える「信号の強さ」は、そこに住む生物の細かい性質しだいで大きく変わりうる、ということです。

2つめは、生命が環境の「素顔」を消してしまうこと。論文の表現を借りれば、生命は環境の非生物的な側面を消し去るように働きます。たとえばこのモデルの惑星では、火山活動で水素が大気にどんどん供給されているのに、微生物がそれを食べ尽くしてしまうため、大気中の水素はごくわずかしか残りません。外から観測すると「水素の少ない惑星」に見えますが、それは惑星本来の姿ではなく、生命が書き換えた姿なのです。

3つめは、生存競争の行方です。細胞が小さいほど、そして長生きなほど、少ない栄養で人口(といっても微生物ですが)を維持できるため、海の中の水素をより低い濃度まで使い尽くせます。すると、より多くの栄養がないと生きられない大型・短命のタイプは食べる分が残らず、押しのけられてしまう。省エネで体を作れるタイプも同じ理由で有利です。つまり、資源の奪い合いがある限り、小さくて長生きな微生物が優勢になりやすい。そして都合のよいことに、そういう微生物の生物圏ほど大気に多くのメタンを残すので、遠くからの観測でも見つけやすいという予測になりました。

見つけても正体は分からないという現実

ここまで読むと、生命探しの見通しが明るくなる話に聞こえます。ところがニコルソン氏自身が、404 Mediaの取材に対して、身も蓋もないことを語っています。まったく違う生き物が、まったく同じバイオシグネチャーを出しうる、というのです。

海全体を薄く覆う藻のような膜かもしれないし、小さなアメーバのような生き物かもしれない。あるいは私たちが想像もしない何かかもしれない。それでも、大気に残る「信号」だけを見れば、区別がつかない。球形の細胞というモデルはあくまで計算のための代役であって、たとえバイオシグネチャーが見つかり、すべてのつじつまが合い、生命がいると確信できたとしても、その姿かたちは分からないままだろう——ニコルソン氏はそう述べています。

同氏は、SFでは宇宙人が地球にやって来たり、明らかに人工的なメッセージを送ってきたりするけれど、私たちはSFの世界に住んでいるわけではない、とも語っています。現実に起こりそうなのは、遠い惑星の大気に生命の気配らしき気体を見つけて、それ以上のことは何も分からないまま受け入れる、という展開です。生命発見の瞬間は、宇宙船の飛来ではなく、スペクトルのグラフに現れた小さな凹凸として訪れるのかもしれません。ただ同氏は、それを悲観するのではなく、宇宙人の姿について余計な思い込みをしなくて済む、と前向きに捉えているのが印象的です。

今回の計算の範囲とこれから

注意しておきたいのは、これがすべてコンピュータの中の話だという点です。実際の観測で確かめられたことは、まだ何もありません。今回シミュレーションしたのも、初期地球を模した海洋惑星という1種類の設定だけです。

研究チームが視野に入れている応用先のひとつに、「ハイシーン惑星」があります。惑星全体が海に覆われ、水素の豊富な大気を持つとされる仮説上の惑星のタイプで、大気が分厚いぶん観測しやすく、生命探しの有力な狙い先として注目されています。ただしハイシーン惑星は実在が確定したものではなく、今回の論文でも「今後このモデルを組み込みたい対象」として挙げられている段階です。水素だらけの環境では、微生物の成長を制限するのは水素ではなく二酸化炭素になるため、同じ考え方を当てはめ直す必要があるとのことです。

チームは今後、光合成をする生物の細胞モデルにも同じアプローチを広げ、さまざまな惑星環境でのバイオシグネチャー予測につなげていく計画です。将来、望遠鏡が遠い惑星の大気に怪しい気体を捉えたとき、それが本物の生命の証拠なのか、それとも火山活動などが生んだ紛らわしい化学反応なのか。その判断を支える道具として、コンピュータの中の小さな球形細胞が働くことになりそうです。

出典・もっと知りたい人へ

この記事は、404 Mediaの解説記事と、研究チームがMNRASに発表した論文をもとにしています。論文は査読済みで、オープンアクセスのため無料で全文を読めます。シミュレーションのコードも公開されています。

404 Media による解説記事(ニコルソン氏のインタビューを含む)
論文:Nicholson & Mayne (2026) “A generalized microbial cell model for methane biosignature predictions”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 550(3). https://doi.org/10.1093/mnras/stag1300

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