中国北西部、甘粛省の乾いた大地に、白亜紀前期の湖の底がそのまま残っている場所があります。昌馬(しょうま)盆地。ここからは、これまでに100体を超える鳥の化石が掘り出されてきました。羽毛や皮膚、かぎ爪の鞘まで残った、保存状態のいいものばかりです。
ところが2026年6月、この産地から初めて「鳥ではない恐竜」が報告されました。カーネギー自然史博物館の紀要『Annals of Carnegie Museum』に載った論文で、甘粛地質博物館の周凌棋(Ling-Qi Zhou)氏やフィールド博物館のジンマイ・オコナー氏らが記載した新種です。学名はジアン・チャンマエンシス(Jian changmaensis)。ヴェロキラプトルと同じドロマエオサウルス科に属する、羽毛の生えた小型の肉食恐竜です。
そして研究チームは、この一体が、昌馬盆地で長年謎になっていたあるものの「犯人」かもしれないと考えています。
鳥だけが出てくる化石産地
昌馬盆地の話は1981年に始まります。魚の化石を探していた研究者が、たまたま鳥の後ろあしの化石を見つけました。これが中国で最初に見つかった中生代の鳥、ガンスス・ユメネンシス(Gansus yumenensis)です。
2002年から本格的な発掘が再開され、そこから出てくる出てくる。100体以上の鳥の部分骨格が掘り出され、その大半がガンススでした。ハトくらいの大きさで、足の指のあいだに水かきがあり、潜って魚を捕っていたと考えられています。見た目はかなり現代の水鳥に近い。実際ガンススは、いまの鳥たちの祖先にかなり近い位置にいる仲間です。
年代は白亜紀前期のアプチアン期前期、およそ1億2400万〜1億2000万年前。当時ここは湖でした。同じ地層から得られた同位体分析によると、年平均気温はおよそ20.2℃で、季節ごとに乾く暖かい気候だったと推定されています。
不思議だったのは、出てくるのが鳥ばかりだったことです。竜脚類や鳥脚類の足跡は見つかっていましたが、骨として出てくる脊椎動物は、40年以上ずっと鳥だけでした。

ペレット状に砕かれた骨という謎
鳥の化石を掘り続けるうちに、研究者たちは妙なものに気づきます。骨が細かく砕かれ、押し固められて、かたまり状になっているものがいくつも出てくるのです。
これは現生のフクロウが吐き出すペレットによく似ています。フクロウはネズミや小鳥を丸のみにして、消化できない骨や毛を胃でまとめ、口から吐き戻します。地面に落ちたペレットをほぐすと、砕けた骨が出てくる。昌馬のかたまりは、まさにそういう見た目をしていました。
つまり、この湖のほとりには、鳥をまるごと食べてしまう捕食者がいた可能性が高い。オコナー氏は「この産地では鳥の骨が変な形で砕けたかたまりがいくつも見つかっていて、何がそれを作ったのか分かっていなかった」と説明しています。
手がかりはありました。ミクロラプトルという別の恐竜の化石からは、胃の中に鳥が入っていた標本が2011年に報告されています。同じ仲間はトカゲを食べていた個体、魚を食べていた個体も見つかっていて、小さな獲物なら何でも口にする雑食寄りの捕食者だったようです。ただし、それは中国の反対側、東北部の熱河(ジェホール)層群での話でした。昌馬からは、鳥を襲えるサイズの動物の骨が一片も出ていなかったのです。
一本の左前肢が示した捕食者
2008年、昌馬の発掘チームが泥岩の岩板から、それまでとは明らかに違う化石を取り出しました。関節がつながったままの、左の肩帯と前あし。肩甲骨と烏口骨(うこうこつ、肩の下側の骨)が癒合した一続きの骨、上腕骨、橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)。手首から先はありません。それだけです。
この標本の記載に、じつに18年かかりました。CTではなくコンピュータ・ラミノグラフィという、平たく潰れた化石に向いた手法で内部まで撮影し、他のドロマエオサウルス類170種近くと骨の形を比べ直した結果、これが新種であることが確定します。
決め手のひとつが、烏口骨に開いた大きな楕円形の穴でした。「上烏口骨窓(じょううこうこつそう)」と呼ばれるこの構造は、ミクロラプトル類というグループにほぼ限られて見られるものです。系統解析でも、ジアンはミクロラプトル類の内部、ミクロラプトル属のすぐ近くに落ち着きました。
そして大きさです。上腕骨の長さは101.6ミリ。ミクロラプトル類としては中くらいの体格ですが、いちばん有名なミクロラプトル属──カラスくらいの大きさ──よりはっきり大きい。プレスリリースでオコナー氏は、翼を広げれば1.2メートルほど、メンフクロウくらいのサイズになると見積もっています。
骨の表面はなめらかで、肩甲骨と烏口骨は完全にくっついています。これは成長が止まった個体の特徴で、まだ育ちきっていない子どもではありません。
ここで話がつながります。昌馬盆地から出た、ただ一体の鳥ではない恐竜。肉食で、その場所にいた他のどの動物よりも大きい。砕けた骨のかたまりを作った捕食者として、現時点でいちばん条件の合う候補がこれだった、というわけです。オコナー氏の言い方を借りれば、「今のところの最有力候補」。
四枚の翼と滑空という推定
ジアンが属するミクロラプトル類は、恐竜のなかでもかなり変わったグループです。前あしだけでなく、後ろあしにも風切羽のような長い羽毛が生えていました。前後で合わせて四枚の翼を持っていたことになります。
この形で羽ばたいて飛べたかというと、そこまでは無理だったと考えられています。オコナー氏は、ムササビのように木から木へ滑空していたのだろうと述べています。高い枝から飛び出して、水辺で休む鳥のところへ滑り降りる。そういう狩りをしていたのかもしれません。
ただし注意が必要で、ジアンの化石そのものには羽毛は残っていません。後ろあしも見つかっていません。四枚の翼というのは、近縁のミクロラプトル類がそうだったからジアンもそうだろう、という推定です。
属名のジアンは、中国神話に出てくる鹣(けん)という鳥にちなみます。翼を片方しか持たず、もう一羽と体を寄せ合わなければ飛べない鳥です。鳥に近い姿の恐竜であること、そして化石として残っていたのが文字どおり片翼だけであることの、二重の掛けことばになっています。種小名のチャンマエンシスは、産地の昌馬から取られました。

熱河層群との類似が示す古環境
この発見には、捕食者探し以外にもうひとつの意味があります。
これまで、確実なミクロラプトル類はすべて中国東北部の熱河層群から出ていました。羽毛恐竜のニュースでおなじみの、あの遼寧省の地層です。昌馬盆地はそこから約2000キロ西。今回の発見で、このグループの分布は中国北西部まで広がりました。内モンゴルからも断片的な標本が報告されていて、東北部と北西部のあいだをつなぐ位置にあります。
さらに研究チームは、昌馬と熱河層群のなかの四合当(しごうとう)という産地がよく似ていることに注目しています。どちらもミクロラプトル類がいて、どちらも一種類の進んだ鳥が圧倒的に多く、原始的な鳥のグループは少ない。熱河層群のほかの産地では、原始的な鳥のほうが多いのが普通です。
以前はこれを「昌馬のほうが少し新しい時代だから」と説明していました。進んだ鳥が原始的な鳥を押しのけていく過程を捉えたものだ、と。ですが年代の測定が進んで、昌馬と熱河層群の主要な産地はほぼ同時代だと分かってきました。そうなると、時代の差では説明がつきません。
論文が有力視しているのは、環境の違いという説明です。昌馬と四合当は、熱河層群のほかの場所にはあまり残っていないタイプの環境──おそらく特定の湖のあり方──を記録していて、そこに適応した鳥たちが集まっていた。だとすれば、この二つの産地の鳥の顔ぶれは「進化の途中経過」ではなく「その場所の生きものリスト」ということになります。ジアンの発見は、二つの産地が似ているという証拠をもう一つ増やしました。
解釈上の留意点
おもしろい話ではありますが、確かめられていないことも多く残っています。
まず、ジアンが砕けた骨のかたまりを作ったという直接の証拠はありません。胃の内容物も、骨に残った歯型も見つかっていません。論文の本文はこの点にほとんど触れておらず、捕食者説はプレスリリースでの研究者の見解として語られたものです。「その産地で唯一の、鳥より大きい肉食恐竜だから」という消去法に近い推論だという点は押さえておいたほうがよさそうです。
標本が左の前あし一本だけ、というのも大きな制約です。頭も歯も、後ろあしも尾も分かっていません。体全体の大きさも、上腕骨から近縁種の比率を当てはめた推定値です。
四枚の翼と滑空も、あくまで系統からの推定にとどまります。ミクロラプトル類の滑空能力そのものについても、どの程度飛べたのかは研究者のあいだで議論が続いています。
とはいえ、100体以上の鳥しか出てこなかった場所から、ようやく鳥以外の一体が出た。その一体が、その場所の食物連鎖の上のほうにいたらしい動物だった。昌馬盆地の発掘はまだ始まったばかりで、頭やあしを含むもっと完全な標本が出てくれば、この推測は確かめられるかもしれません。
出典
Zhou, L.-Q., Lamanna, M.C., Poust, A.W., Li, D.-Q., You, H.-L., O’Connor, J.K. (2026). First Non-Avian Theropod (Dromaeosauridae, Microraptorinae) from the Bird-bearing Lower Cretaceous Xiagou Formation of the Changma Basin, Gansu Province, Northwestern China. Annals of Carnegie Museum, 92(2), 89–110.
論文PDF(Carnegie Museum of Natural History)


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