広島の砂浜のガラス粒から、記録にない合金が見つかった

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広島湾の砂浜には、小さなガラスの粒が大量に混じっています。1945年8月6日の朝、街ごと蒸発した建物や金属や土が、上空の火の玉のなかで溶け合い、冷えて丸くなって降ってきたものです。フィレンツェ大学を中心とする国際チームが、この粒を34個集めて中身を調べたところ、そのうちの1個から、これまで報告されたことのない金属の混ざりもの——合金が見つかりました。鉄・クロム・ニッケル・マンガン・モリブデン・ケイ素・アルミニウムという、7つの元素からできた粒です。論文は2026年7月29日付で『Science Advances』に掲載されました。

先に、この記事で扱っている出来事の重さについて書いておきます。広島市の記録によれば、被爆当時の市の人口は約35万人で、1945年12月末までに約14万人が亡くなったと推計されています。建物のおよそ7割が失われました。以下で扱うのは、その朝に生まれた物質の話であって、出来事そのものを説明し尽くすものではありません。論文の著者たちも、こうした爆発由来の物質は慎重かつ倫理的に扱われるべきだと、論文のなかで明記しています。

砂浜に残る都市の残骸

この粒には、すでに名前がついています。「ヒロシマアイト(hiroshimaite)」です。ここは誤解されやすいところなので、はっきり書いておきます。今回見つかった新しい合金の名前ではなく、それを閉じ込めていたガラス粒のほうの呼び名で、しかも今回つけられたものではありません。

もとをたどると、2019年に学術誌『Anthropocene』で報告された研究に行き着きます。引退した地質学者マリオ・ワニエ氏が、海の環境を調べるつもりで広島湾の砂を顕微鏡でのぞいていたところ、生き物の殻に混じって、見覚えのない丸いガラス玉がいくつも出てきました。空気の流れを受けて整形されたような形をしていて、隕石の衝突跡で見つかる粒によく似ている。調べていくと、それが原爆の落下物(フォールアウト)だと分かった、という経緯です。都市が原爆で破壊されたときに生じたフォールアウトを、記載として報告した最初の例でした。

量も相当なものです。2019年の見積もりでは、砂浜1平方キロメートルぶんの砂を深さ10センチほどまですくったとして、そこに含まれるヒロシマアイトは2,200〜3,100トンにのぼるとされました。街だったものが、砂粒に姿を変えて浜に堆積している。ワニエ氏は当時、街が一分後には消えていたとして、その材料はどこへ行ったのかという問いが自分の出発点だったと語っています。

なお、ヒロシマアイトという名前は研究者のあいだで使われている通称で、国際鉱物学連合が認定した鉱物名ではありません。人の営みが生んだ物質は、そもそも鉱物としての承認手続きの対象になりにくいという事情もあります。

多元素合金をめぐる前提

今回の合金の話に入る前に、材料の世界の前提をひとつ。

ふつうの合金は、主役の金属が1種類あって、そこに少量の別の金属を混ぜて性質を調整します。鉄が主役で、そこにクロムやニッケルを少し加えたのがステンレスです。これに対して、5種類以上の金属をどれも同じくらいの割合でまとめて混ぜてしまう、という設計思想があります。多成分合金、あるいは高エントロピー合金と呼ばれるもので、摩耗や腐食に強い、高温でも性能が落ちにくい、といった性質を同時に成立させやすいことから、近年よく研究されています。

ただ、この手の合金には知られた傾向があります。これだけ性格の違う原子を大量に混ぜ込むと、原子は種類ごとにきちんと並ぶことをあきらめて、決められた形の格子のなかにランダムに座る、という配置に落ち着きやすい。席は整然としているけれど、誰がどこに座るかは行き当たりばったり、という状態です。ステンレスもこの仲間で、単純な立方格子に原子が無秩序に入っています。混ぜれば混ぜるほど、構造としては単純で乱雑なほうへ向かう——というのが、常識的な予想でした。

34個の粒と、ひとつの例外

研究チームは、集めた34個のヒロシマアイトを片っ端から調べました。大きさは数百マイクロメートルから数ミリメートルほど。電子顕微鏡で表面と内部の様子を見て、電子線マイクロプローブで元素の分布を測り、これはという粒については単結晶X線回折——結晶に細いX線を当て、跳ね返り方から原子の三次元的な並びを割り出す手法——にかけました。

そのうちの1個に、鉄とクロムでできた微小なかけらがいくつも入っていました。さらにその中に、ケイ素をやけに多く含む粒がひとつだけ紛れていた。大きさは数マイクロメートル、髪の毛の太さの十分の一にも満たない粒です。研究チームはこれを取り出して、X線をあてました。

ちなみに、この合金が見つかったのは34個中この1個だけです。ビンディ氏自身、そう頻繁に見つかるものではなさそうだ、と述べています。

原子配列に現れた秩序

X線が返してきた答えは、予想の逆でした。

7種類もの元素がでたらめに混ざり合って、しかも一瞬で固まったはずのこの粒は、原子がランダムに座った乱雑な構造ではなく、どの元素がどの位置に入るかまで決まった、きちんと秩序立った構造をとっていました。空間群P213という対称性を持つ立方構造で、専門的にはAlAu4型と呼ばれる並び方にあたります。これはβマンガンという構造を、さらに整理して規則正しくした形で、原子はゆがんだ正二十面体のかたまりを作りながら並んでいます。この組成とこの構造の組み合わせは、これまでどこにも記録がありませんでした。

どうしてそうなったのか。研究チームの説明はこうです。上空580メートルで炸裂した爆弾は、7,000℃を超える火の玉を作りました。太陽の表面が約5,500℃ですから、その上をいく温度です。建物の鉄骨、アルミの部品、銅を含む配線、土、水——街を構成していたあらゆるものが蒸発して、金属の蒸気が入りまじったプラズマの雲になります。その雲が広がりながら冷えていく途中で、いろいろな出どころの金属原子とケイ素が一緒くたに集まった小さな液滴ができ、次の瞬間には固まった。

ここで効いたのが、冷える速さです。ゆっくり冷えれば、原子には並び替える時間があり、その組成にとって一番落ち着く安定な形——つまり平凡な構造——に落ち着きます。ところが今回は、その時間がなかった。凝固した瞬間の、本来なら通り過ぎていくはずの配置が、そのまま凍りついて81年間残った。つまり、街が消えるほどの混沌が、原子のスケールではむしろきれいな秩序を作り、しかもそれを固定してしまったわけです。

材料探索と核鑑識への接続

この構造が注目されるのは、鉄・クロム・ニッケル・ケイ素系の合金というのが、工学の現場でごく普通に使われている材料群だからです。そのファミリーのなかに、まだ誰も踏み込んでいなかった構造の領域が残っていた、ということになります。急速凝固や粉末冶金、金属3Dプリンターのように、材料を一気に冷やす製法は現実にあるので、この原子配置が新しい合金を設計するときの手がかりになるかもしれない、と論文は述べています。

ただし、ここは慎重に読む必要があります。広島の粒とまったく同じ組成が工学的に使い勝手がいいという話ではなく、その結晶の骨組みが、硬さや熱への強さ、耐食性、磁気的な性質などで面白い組み合わせを持つ材料への道しるべになりうる、という段階の話です。実際に作って試したという報告ではありません。

もうひとつの用途として挙げられているのが、核鑑識(かくかんしき)です。爆発でできたガラスや微小な合金は、その場に何があったのか、火の玉の中がどれくらいの温度で、どんな酸化状態だったのか、どれくらいの速さで冷えたのかを、化学組成と結晶構造のかたちで抱え込んでいます。ビンディ氏はこの粒を、爆発の物理的な記録保管庫だと表現しています。

核爆発の跡から新しい物質が出てきたのは、これが初めてではありません。1945年7月16日のトリニティ実験でできたガラス質の残骸「トリニタイト」からは、2021年に準結晶——原子が規則的なのに、通常の結晶のように同じ模様の繰り返しにはなっていない、変わった配列——が報告されています。これもビンディ氏らのチームでした。極端な高温と急冷という条件は、普通の自然現象や工業プロセスでは通らない領域を、系統的に探ってしまうらしい。今回の合金は、その事例をもうひとつ増やしたことになります。

名称と解釈をめぐる留意点

いくつか、書き添えておきたいことがあります。

まず名前について。今回見つかった合金には、まだ固有の名前がついていません。「ヒロシマアイト」は前述のとおり2019年から使われているガラス粒の呼び名で、新鉱物として認定されたものでもありません。海外の報道でもここが混ざりがちなので、注意して読む必要があります。

次に、見つかったのが1粒だけだという点。同じものが他にもあるのか、条件がそろえば再現するのか、それとも本当に一度きりの偶然だったのかは、これから他の粒を調べていくしかありません。

採取についても、公表されている範囲でははっきりしないところが残ります。2019年の報告では、広島湾の元宇品(もとうじな)半島の砂浜などから採取されたとされていますが、今回分析された34個それぞれがいつどこで拾われたものかまでは、一般に読める情報からは追えません。放射線量や取り扱いの安全性についても、今回の論文では扱われていません。

そして、この研究が何をしていないかについて。ここで分かったのは、あの朝の温度と冷却速度が、地球上のどこにもなかった原子の並びをひとつ作った、ということです。それ以上でも以下でもありません。街と、そこにいた人たちが失われたという事実は、この結晶構造をどれだけ精密に測っても説明されないし、埋め合わされもしません。物質のほうは、ただ、そこにあった条件を記録しているだけです。

出典

L. Bindi et al., “Discovery of a multicomponent alloy forged by the Hiroshima atomic blast”, Science Advances, Vol.12, eaeg8299, 2026年7月29日(DOI: 10.1126/sciadv.aeg8299

The Hiroshima Atomic Bombing Birthed a Strange, Never-Before-Seen Material, According to a New Study(Smithsonian Magazine・2026年8月10日)

New material was created in Hiroshima nuclear explosion(Physics World・2026年8月6日)

Study: Glassy Particles Found Near Hiroshima are Fallout from A-Bomb(ローレンス・バークレー国立研究所・2019年5月13日)/M. M. A. Wannier et al., Anthropocene 25, 100196 (2019), DOI: 10.1016/j.ancene.2019.100196

フィレンツェ大学によるリリース(イタリア語)

被害の数値は広島市の公開資料(英語ページ)によります。

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