街を巡回して犯罪を抑止する警備ロボット。数年前まで「未来の警備」の象徴のように扱われていたこの機械が、アメリカで次々と現場から姿を消しています。非営利の調査報道機関Proof Newsと404 Mediaが共同で調べたところ、2015年以降に確認できた警備ロボットの導入は少なくとも21件。そのうち少なくとも13件が、すでに打ち切られていました。
「少なくとも」というのがポイントで、これは全米の導入をもれなく数えた統計ではなく、契約先への取材と報道の突き合わせで確認できた範囲の数字です。それでも、確認できた導入の半分以上が終わっているという事実は重いものがあります。何が起きているのか、順に見ていきます。

各地で相次ぐ契約の打ち切り
導入契約を最も多く獲得していたのは、シリコンバレーのKnightscope(ナイトスコープ)社です。円錐形の白いボディで自律巡回する同社のロボットは、この分野の顔ともいえる存在でした。ところが打ち切りが最も多かったのも同社でした。
ニューヨーク市では、当時のアダムス市長がタイムズスクエアの地下鉄駅に夜間シフトでKnightscopeのロボットを配置しましたが、試験期間が2024年に切れると更新されず、任期の終わりごろには空き店舗でほこりをかぶっていたと報じられています。市が更新しなかった理由について、Proof Newsの質問に市側は回答していません。
オハイオ州ダブリン市は、ダウンタウンの公園を巡回させる2年間の試験プログラムを、10か月足らずで打ち切りました。市の広報担当Robyn Gray氏によれば、ロボットは「我々の運用上の必要を十分に満たさなかった」とのこと。犯罪を1件も検知せず、摘発にも逮捕にも一度もつながらなかったといいます。
サンアントニオ国際空港は2024年に1か月の試験を行ったあと、年2万1,000ドル(約330万円)のリース契約を見送りました。空港広報のAna Flores氏が挙げた理由は具体的です。バッジの読み取りに手こずる、意思疎通がうまくいかない、自分がどこにいるか把握できない。ドアの警報が鳴っても、ロボットは的確に対応できなかったそうです。
Knightscope以外も同様です。オレゴン州セーラム市は、駐車場ビルの不法侵入対策として地元企業のDaxbot(ダックスボット)3台を導入しましたが、3か月の試験を終えた今年4月に電源を落としました。市側が挙げた理由は追加予算がないこと。アリゾナ州テンピでもDaxbotは撤去されています。テンピでは、通行人に「敷地から出なさい」と警告したロボットがあっさり出し抜かれる映像が拡散し、テレビ番組『America’s Funniest Home Videos』に届くほど話題になりました。
積み重なっていた事故と珍事
警備ロボットをめぐるトラブルは、今に始まった話ではありません。2016年には、シリコンバレーのショッピングセンターに配備されたKnightscopeのロボットが、生後16か月の男児の足の上を通過する事故を起こしました。同社はこれを「奇怪な事故」と表現して謝罪し、ロボットは子どもを避けようとしたが、後ろ向きに走ってきた子どもがぶつかったと説明しています。翌2017年には、ワシントンD.C.のオフィスビルで巡回中のロボットが噴水に転落。同社はユーモアで切り抜けようとしましたが、「警備ロボットは頼りない」という印象は、こうした出来事のたびに少しずつ積み重なっていきました。
それでも業界の売り文句は一貫していました。ロボットには帰りを待つ家族がいない、夜勤も週末も文句を言わない、カメラやナンバープレート読み取り機を積めば「もう一組の目」になる——。では、その約束は果たされたのか。確認できた導入の半分以上が打ち切られたという今回の数字が、ひとつの答えになっています。
ロボット企業が出した答えは「人間」だった
ここからが今回の話でいちばん意外なところです。打ち切りが続いたKnightscopeが選んだ次の一手は、ロボットの改良ではなく、人間の警備員会社の買収でした。同社は2026年に入って、全国規模の警備員派遣会社Event Risk LLCを買収したと発表。ロボットとAIソフトウェアに人間の警備員を組み合わせる、というモデルへ舵を切ったのです。
同社は2013年の創業以来ずっと赤字が続いており、直近の四半期報告書によれば負債は2億7,300万ドル(約430億円)にのぼります。William Santana Li CEOは打ち切られた各プログラムについての質問には答えませんでしたが、メールでこう述べています。「技術に全部はできない。人間にもできない。だが組み合わせれば、とても強力になりうる」。
無人化を売りにしてきた会社が、人間を雇う側に回る。皮肉に見えますが、数字を見ると現実的な判断でもあります。米労働統計局によれば、アメリカの警備員の平均年収は約4万ドル(約630万円)で、警察官のおよそ半分。人間の警備は、ロボットが置き換えを狙うには意外なほど安いのです。
「狭い条件なら働くが、外に出ると悲惨」
なぜ警備という仕事はロボットに向かなかったのでしょうか。ジョージメイソン大学でロボット工学を教えるMissy Cummings教授の説明は明快です。AIの判断システムは狭い条件の中ではよく働くが、アルゴリズムが訓練データの外に出たとたん「悲惨に」振る舞うことがある。警備員や警察官が日々直面するあいまいな状況は、AIには手に負えないというのです。教授は「警備のためのAIとロボットには、長く問題含みの歴史がある。すぐに変わるとは思えない」とも述べています。
より辛辣な見方もあります。ジョージワシントン大学の法学教授Andrew Ferguson氏は、警備ロボットを「サービスとしての監視」と呼び、目に見えるカメラが多少の抑止にはなっても、犯罪の防止や解決で人間に勝る証拠はないと指摘。「誰かが犯罪対策をやっているという象徴として存在している。ロボットは警備の演劇であり、結果より見た目だ」と評しています。実際、監視への反発が打ち切りにつながった例もあります。ニューヨーク市警は2021年、Boston Dynamicsの四足ロボットのリースを、市民からの強い批判を受けて打ち切って返却しました。
生き残りの道はタスクの絞り込みか
この夏、米連邦通信委員会(FCC)が外国製の人型・四足型ロボットの新規輸入を安全保障上の理由で事実上禁止したことで、アメリカのロボット企業は海外勢との競争からは守られる形になりました。ただ、今回の調査が示しているのは、競争以前の問題です。街頭や駅のような、何が起きるか分からない環境そのものが、いまのAIには荷が重いのです。
興味深いのはDaxbotのその後です。同社は警備から撤退気味になる一方で、歩道が障害者差別禁止法(ADA)の基準を満たしているかをロボットが走って点検する事業に転換し、昨年9月以降、少なくとも9つの市と契約しています。何が起きるか分からない警備と違って、歩道の点検は条件がはっきり決まった仕事です。「狭い条件ならよく働く」というAIの性質を逆手に取った転身といえます。
警備ロボットが完全に消えるかどうかは、まだ分かりません。ただ、ロボットの旗手が人間の警備員会社を買い、別のロボット企業が測量のような仕事に移ったという事実は、いまのAIとロボットに何ができて何ができないかを、どんな宣伝文句よりも正直に語っているように思います。なお、今回の調査はアメリカの話で、日本国内の警備ロボットの状況は別に見る必要があります。
出典
この記事は以下の報道をもとに執筆しました。
The Roboguard Revolution is Short-Circuiting(404 Media・2026年8月10日)
Proof News版の記事
FCCによる外国製ロボット機器の輸入規制に関する公示(PDF)
※本文中の円換算は1ドル=157円で計算したおおよその金額です。


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