雷を待つのをやめて、ロケットで落としに行く——個人が自作で再現した「誘雷」の顛末

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雷の研究には、根本的な困りごとがあります。いつ、どこに落ちるかが分からないことです。測定器をずらりと並べて待っても、そこに落ちてくれる保証はどこにもありません。高い塔には落ちやすいものの、塔を嵐の進路に動かすわけにもいきません。

そこで研究者が編み出したのが、待つのをやめて、雷のほうを呼び寄せるという方法でした。やり方は意外なほど素朴です。小さなロケットに細い金属線をつないで、雷雲の下から打ち上げる。それだけで、雷が線をつたって決めた場所に落ちてきます。この「ロケット誘雷」と呼ばれる手法を、最近ある個人の実験者が自作の装置で再現し、海外のものづくり系メディアHackadayで紹介されました。成功の代償として何が起きたかも含めて、順に見ていきます。

雷雲の下で起きていること

なぜ細い線1本で雷を誘導できるのか。前提になっているのは、大気がもともと帯電しているという事実です。よく晴れた日でも、地表付近の大気には1メートルあたりおよそ100ボルトの電場があります。これが雷雲の下では、1メートルあたり数キロボルトまで跳ね上がります。

電荷を分けている主役は、雲の中の氷です。上昇気流が過冷却の水滴、氷晶、そして「あられ」(雪の結晶に過冷却水滴が凍りついてできる氷の粒)を運び上げると、重いあられは氷晶に対して相対的に落ちていきます。このとき両者がぶつかり合うことで、あられは負に、氷晶は正に帯電する。軽い氷晶は上へ運ばれるので、雲の上部に正、下部に負の電荷がたまっていきます。この偏りを一気に解消するのが雷です。

地面まで届く雷では、雲側から降りてくる放電の通り道(リーダー)と、地面側から立ち上がるリーダーの両方が伸びて、つながった瞬間に本放電が走ります。ロケットが引き上げる金属線は、この地面側のリーダーを人工的に用意する仕掛けです。導電路が先にできているので、雷はそこに落ちる。落ちる場所と時刻を、こちらの都合で決められるわけです。

ただし、いつ打ち上げてもいいわけではありません。研究では、地上の電場が1メートルあたり5キロボルトを超えたあたりが打ち上げの目安とされてきました。電場が強すぎると自然の雷が先に落ちてしまうので、狙えるのは「自然に落ちる寸前」の狭い範囲です。その頃合いを判断するために使われるのが、フィールドミルという、その場の電場の強さを測る装置です。

軍の実演から始まった60年の歴史

この手法の歴史は意外と長く、1960年代にさかのぼります。最初に実演したのは Morris Newman という人物で、軍の契約のもと、船の上から金属線をつないだ小型ロケットを打ち上げてみせました。当時は科学測定というより軍向けのデモンストレーションだったようですが、1970年代に入るとフランスの研究グループがこの手法を陸上向けに発展させ、1973年から74年にかけて中央高地で計20回の誘雷に成功したことをNature誌に報告しています。

以来、ロケット誘雷は雷の物理を調べたり、避雷設備の性能を試験したりするための標準的な手法として世界中で使われてきました。フロリダ大学の国際雷研究試験センター(ICLRT)をはじめ、現在も各国の研究機関で続けられている現役の手法です。決めた場所に、決めたタイミングで、本物の雷を落とせる。測定器の真上に落雷を用意できるのですから、雷研究にとってこれほどありがたい道具はありません。

個人が自作装置で再現、そして成功

ここからがこの話の本題です。Electron Impressions という名前で活動する個人の実験者が、この国家規模の研究手法を、自作の装置一式で再現してしまいました。

ロケットは3Dプリンタ製で、嵐の中でもまっすぐ飛ぶよう設計されたもの。引き上げる細い銅線は、摩擦で切れないよう工夫したスプールに巻かれています。点火装置は雨に耐えるよう防水され、安全のためトランシーバー経由で離れた場所から作動させる仕組みです。打ち上げの頃合いを見るフィールドミルは通常かなり高価な装置ですが、これも自作しています。

何度も失敗を重ねたすえに、ついに雷が落ちました。最初の一撃がプラズマの通り道を作り、その同じ道を通って、続けざまに複数回の放電が走ったといいます。複数回の放電が続くのは雲が負に帯電していた場合に典型的なパターンで、フィールドミルの測定とも一致していました。自作の測定装置が、ちゃんと仕事をしていたことになります。

成功と引き換えに装置が全滅

ただし、無傷では済みませんでした。風でプラズマの通り道がわずかに横へ流され、地上に置いてあった予備のロケットに引火して爆発。点火システムは2系統とも破壊され、打ち上げたロケット本体は、残骸すら見つからなかったそうです。

地面には、雷が土中の水分を一瞬で沸騰させた勢いで、亀裂が走りました。雷が砂を溶かして固めた「フルグライト(雷管石)」ができていないかも探したようですが、こちらは見つからなかったとのこと。決めた場所に雷を落とすことには成功したものの、その場にあった装置はほぼ全滅という結末です。本物の雷のエネルギーがどれほど桁外れか、これ以上ない形で示した実験でもありました。

言うまでもないことですが、これは絶対に真似をしてはいけない類いの実験です。雷雲の下で導電体を扱う行為は、手順のわずかなミスがそのまま死に直結します。研究機関のロケット誘雷が専用の施設と厳重な管理のもとで行われているのは、それだけの理由があってのことです。この記事も、仕組みと顛末を紹介するものであって、再現をすすめるものではありません。

雷には、まだ分かっていないことがある

装置を全滅させてまで雷を呼ぶ研究が続いているのは、雷にまだ未解明の部分が残っているからです。あられと氷晶の衝突で電荷が分かれるという枠組みは定説になっているものの、雷の最初の一撃がどうやって始まるのか——雲の中の電場は、空気の絶縁を破るには足りないはずなのに、なぜ放電が起きるのか——という根本の問いには、いまも決着がついていません。

手法のほうも進化を続けていて、使い捨てのロケットの代わりにドローンで雷を誘導する実験も報告されています。待つのではなく呼びに行く、という60年前の発想の転換は、姿を変えながらいまも雷研究の最前線を支えています。

出典

この記事は以下の情報をもとに作成しました。

Triggering Lightning With A Rocket(Hackaday)
Artificially triggered lightning above land(Nature, 1975)
Martin Uman 氏インタビュー(フロリダ大学)

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