夜空のおよそ4分の3を、40億個近い天体ごとまるごと写し取った地図が公開されました。史上最大の「2次元の宇宙地図」です。作ったのは、DESI(デジ)レガシー・イメージング・サーベイという国際チーム。13年分の観測を合成したもので、2026年8月10日に第11回データリリース(DR11)として公開されました。しかもこの地図、研究者専用ではありません。無料のウェブページから、誰でもそのまま探索できます。

13年がかりの巨大な空の写真
まず、規模を数字で見ておきます。地図の総画素数は5.6兆ピクセル。スマートフォンのカメラ(1,200万画素)で撮った写真に換算すると、およそ47万枚分に相当します。収められた天体は40億個近くで、大部分は恒星と銀河ですが、ブラックホールや小惑星、超新星、重力レンズなども含まれます。肉眼で見える星は、空の条件がよくても全天で8,000個ほどと言われるので、その50万倍の天体が1枚の地図に載っている計算です。
これだけのものを一度に撮れる望遠鏡はないため、地図は263,407枚の露光をつなぎ合わせて作られています。観測を担ったのは、3つの地上観測計画です。チリのビクター・M・ブランコ4m望遠鏡に載ったダークエネルギーカメラ(DECam)によるDECaLS、アメリカ・アリゾナ州キットピーク国立天文台のニコラス・U・メイヨール4m望遠鏡によるMzLS、同じくキットピークにあるアリゾナ大学のボック2.3m望遠鏡によるBASS。ここにNASAの広視野赤外線探査衛星WISEのデータを重ね、可視光から近赤外までをカバーしています。観測には160人を超える科学者が関わり、最終的なデータセットは20人の天文学者のチームがまとめ上げました。
過去の版もすでに天文学の現場で広く使われていて、レガシー・サーベイのデータを参照した論文は1,800本を超えるとのこと。共同代表のひとりで、バークレー研究所のデイヴィッド・シュレーゲル氏は、いまや天文学の研究の下地の一部になっていて、天体を調べるときはまずこのビューアを開いて対象を確かめることが多い、と述べています。
「2次元」の地図が意味するもの
ここでひとつ、はっきりさせておきたい言葉があります。この地図は「2次元」の地図です。つまり、空の写真と同じで、どの方向にどんな天体がどれくらいの明るさで見えるか、を記録したものです。奥行き、つまり地球からの距離の情報は含まれていません。
星空を見上げたとき、隣り合って見える2つの星が、実際には何千光年も離れていることがあります。写真に撮っても、その前後関係は写りません。この地図も同じで、いわば宇宙をぺたんと1枚の面に押しつぶした「深い深い記念写真」です。40億個の天体の位置と明るさと色は分かるけれど、どれが手前でどれが奥かは、この地図だけでは分かりません。
それなら3次元の地図のほうが上等では、と思うかもしれません。ところが、この「平面であること」こそが、この地図の存在意義に直結しています。
完成品ではなく、次の観測の土台
この地図は、もともとDESI(暗黒エネルギー分光装置)という別の観測計画の準備として作られ始めたものです。DESIは、天体の光を波長ごとに細かく分ける「分光」という方法で個々の天体までの距離を測り、宇宙の3次元地図を作るプロジェクトです。ただし分光には時間がかかるため、空のどこに向けて、どの天体を測るかを、あらかじめ決めておく必要があります。その「狙う先のリスト」を提供するのが、この2次元地図の役割でした。まず平面の地図で40億個の候補を洗い出し、そこから選んだ天体の距離をDESIが1つずつ測って、地図を立体に起こしていく。2次元地図は、3次元地図の下書きだったわけです。
そしてこの下書きの上に建った建物が、すでに大きな成果を出しつつあります。DESIの最初の5年間の観測は2026年4月に完了し、その初期の解析からは、宇宙の膨張を加速させている暗黒エネルギーが、時間とともに弱まっている可能性が示されています。もし確定すれば、暗黒エネルギーは一定の強さを保つとしてきた標準的な宇宙モデルの見直しにつながる話で、物理学の大きな論点になっています。改良された解析結果は来年の公表が見込まれ、DESIの観測自体も2028年まで続く予定です。
地図の役目はDESIだけにとどまりません。NOIRLabの発表によれば、この地図は稼働が本格化するベラ・C・ルービン天文台や、打ち上げが予定されるナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡といった次世代の観測計画でも、基礎資料として使われる見込みです。発表文では、重力レンズのような珍しい現象を探したり、超新星のような一時的な現象をとらえたり、暗黒物質と暗黒エネルギーという物理学の二大ミステリーを調べたりする土台になる、と説明されています。つまりこの地図は、13年かけて完成した「作品」というより、これからの天文学が上に乗っていく「地面」に近いものです。
誰でも無料で探索できる地図
そして、この地図のいちばんうれしいところは、私たちも同じものに触れられることです。データはすべて公開されていて、Legacy Survey Sky Viewerという無料のウェブページから、ブラウザだけで探索できます。アカウント登録も不要です。
開くと空の一部が表示されるので、地図アプリと同じ感覚でドラッグして動かし、スクロールで拡大・縮小できます。ズームインしていくと、点にしか見えなかった光が渦巻銀河や銀河の群れとして姿を現します。天体をクリックすればカタログの情報も呼び出せます。共同代表のアージュン・デイ氏(NOIRLab)は、このデータはチームにとって宇宙の膨張の歴史や銀河の形成を調べる基盤だとしたうえで、空はすべての人のものであり、このサーベイは誰もが空を探索してその驚異に見入る機会を与えてくれる、と述べています。研究者と市民が同じ地図を眺められるというのは、なかなかない体験です。ぜひ一度、実際に開いてみてください。
解釈上の留意点
いくつか、正確に押さえておきたい点があります。まず、これは「最大の2次元地図」であって、3次元の地図ではありません。距離の情報を持つ3次元の宇宙地図としては、DESIなどが別に作っているものがあります。また、暗黒エネルギーが弱まっている可能性というのは、DESIの分光観測から出てきた初期の解析結果であって、この2次元地図そのものが示したものではありません。その解析もまだ途中経過で、確定した結論ではない点には注意が必要です。
天体数の「40億個」も、正確には「40億個近く」です。数の内訳(銀河が何個、恒星が何個か)は、今回の発表資料には示されていません。地図がカバーするのは夜空の約75%で、残りは主に天の川の塵やガスで遮られる領域などです。夜空のすべてが写っているわけではありません。
出典
この記事は、以下の発表・報道をもとに書いています。
NSF NOIRLabのプレスリリース:Scientists Release Biggest 2D Map of the Universe(2026年8月10日)
ローレンス・バークレー国立研究所の発表:Scientists Release Biggest 2D Map of the Universe
Live Scienceの記事:Astronomers created the largest-ever 2D map of the universe, charting 4 billion objects in the night sky(2026年8月11日、Elizabeth Howell)
地図の探索はこちらから:Legacy Survey Sky Viewer


コメント