壁の向こうの呼吸をWi-Fiの乱れで検知する自作プロジェクトが公開

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部屋の中には、いつもWi-Fiの電波が飛んでいます。その電波、実は人の体があると乱れます。人間の体はおよそ6割が水分で、水は2.4GHzの電波をよく反射するからです。この「体が電波を乱す」という現象だけを頼りに、カメラも人感センサーも使わずに部屋の中の人を検知する自作プロジェクト「wifisense-pi」が、最近オープンソースとして公開されました。電子工作系メディアのHackadayが2026年8月15日に紹介しています。

作者は [The Masked Bear] というハンドルネームの開発者。使う部品は、マイコンのESP32-S3とRaspberry Pi 4、それをつなぐUSBケーブル、そして家にすでにある2.4GHz対応のWi-Fiルーターだけです。Piを持っている人なら、追加で買うのはESP32のボード1枚くらい。それだけで、壁の向こうにいる人の存在を——それも、じっと座って動かない人を、呼吸による胸のわずかな動きで——検知できるといいます。

電波の乱れから人を読む原理

仕組みの土台になっているのは、Wi-Fiの電波が受信機に届くまでの「通り道」です。電波は送信機から一直線に届くだけでなく、壁や家具、そして人の体に反射したコピーが、少しずつ遅れて何本も同時に届きます。この重なり方のパターンは、Wi-Fiチップが「チャネル状態情報(CSI)」という形で読み取れます。ざっくり言えば、電波の通り道の状態を映すデータです。

部屋の中で何かが動くと、反射の通り道の長さが変わり、このパターンも変わります。wifisense-piは、ESP32-S3でこのパターンを毎秒100回読み取り、Raspberry Pi 4で信号処理して、「動きがあるか」「動いていない人がいるか」を判定します。結果はブラウザーのダッシュボードにリアルタイムで表示されます。

驚くのは感度です。2.4GHzの電波の波長は12.5cm。呼吸で胸はおよそ6mm動きます。波長の20分の1ほどの動きですが、反射の通り道の変化としては十分に測れる量なのだそうです。だから、身動きひとつしない人でも、息をしている限り「そこにいる」と分かる。作者の報告では、毎分8〜36回の範囲の呼吸数を、正解データとの比較で0.1回きざみの精度まで読み取れたとしています(あくまで作者の自己検証による数値で、環境によって変わる可能性はあります)。

そして電波を使うので、壁を通します。ただしこれも素材次第で、石膏ボード・木・ガラスは通る一方、レンガやコンクリートでは大きく弱まり、アルミ箔付きの断熱材ではほぼ遮断されるとのこと。日本の一般的な木造住宅の間仕切り壁なら、通るケースが多そうです。

できることと、できないこと

このプロジェクトの好感が持てるところは、READMEの中で「できないこと」の説明に、できることと同じくらいの分量を割いている点です。作者いわく、ネットで見かけるWi-Fiセンシングの派手な主張の多くは、実は別の装置の話なのだそうです。

まず、人の輪郭や骨格を「透視」することはできません。Wi-Fiの帯域幅では距離の分解能が7.5mにしかならず、部屋より粗いからです。有名なMITのデモ(壁越しに人の姿勢を映すもの)は、Wi-Fiではなく専用のレーダーとアンテナアレイを使っています。部屋のどこにいるかの特定もできません。送信機と受信機が1組だと、測れるのは「通り道が1本、何かで変わった」ことだけで、場所の情報は含まれないためです。人数を数えることも、確実にはできません。2人いれば乱れは大きくなりますが、数として切り分けられる形にはならないと作者は報告しています。

そして、検知を逃れる方法もはっきりしています。完全に静止したうえで息を止めれば、測るものが何もなくなる。つまり「息を止めていられるあいだは、逃れられる」わけです。逆に言えば、扇風機やカーテン、ペットの動きは普通に検知します。これは誤検知ではなく、実際に何かが動いているのだから当然、という整理です。

もうひとつ大事な前置きとして、これは医療機器ではありません。数百円のマイコンで作った寝室向けの計測器だと、作者自身が明言しています。

静かな電波からはデータが生まれない

ここまで読むと、「家に飛んでいるWi-Fiの電波を拾って解析しているんだな」と思うかもしれません。実は、それではセンサーになりません。今回のプロジェクトでいちばん意外だったのは、この点でした。

CSIというデータは、パケットを「受信した瞬間」にしか生まれません。誰も通信していない静かなWi-Fiチャネルをいくら聞いていても、データはほとんど出てこない。作者の測定では、飛んでいる電波を受動的に聞くだけだと毎秒1回程度、しかも間隔はバラバラで、呼吸のようなゆっくりした周期を解析するにはまったく足りなかったそうです。

ではどうしたか。Raspberry Piが、ESP32宛てに毎秒100発のパケットをわざと送り続けるのです。つまりこの装置は、飛んでいる電波を待つのではなく、自分で電波を起こして、その乱れ方を測っています。ESP32が家のWi-Fiネットワークに参加する必要があるのはこのためで、送る回数を自分で決められるから、計測の間隔もきれいに揃う。「家のWi-Fiがそのままセンサーになる」は間違いではないのですが、正確には「家のWi-Fiネットワーク上で、自分専用の測定用の電波を流す」装置なのでした。

センサーの配置にも、この仕組みがそのまま表れています。測っているのはルーターとESP32の「あいだの空間」なので、調べたい部屋を挟んで両者を反対側に置き、人がその間に入る形にするのが基本とのこと。電波は強ければいいわけでもなく、近すぎると直進する電波が強すぎて、人からの反射が埋もれてしまうそうです。

プライバシーの二面性と利用上の注意

この仕掛けには、もうひとつの顔があります。壁越しに人の在・不在が分かるということは、裏を返せば、Wi-Fiの電波はもともとそういう情報を運んでいる、ということです。CSIからは、部屋に人がいるか、いつ動いたか、いつ寝たかが読み取れる。作者もこの点を明確に意識していて、センサーのデータを無線で飛ばす構成では、通信をAES-128という方式で暗号化しています。電波の届く範囲にいる第三者が、生活パターンをそのまま読めてしまう事態を防ぐためです。

だからこそ、この種の装置は「自分の家に、自分のために置く」ものです。一人暮らしの親の見守り(カメラを置くのは抵抗がある、という場面)や、在室に合わせた家電の自動化などが、作者の想定する使い方に近いでしょう。他人の空間に向けて使うことは、技術的な限界以前に、やってはいけない使い方です。

日本で試す場合の実務的な注意もひとつ。ESP32はWi-Fiの電波を出す機器なので、技適マークの付いたボードを選んでください。国内で流通しているESP32-S3の開発ボードの多くは技適取得済みのモジュールを載せていますが、海外通販で買う場合は要確認です。また、どこまで検知できるかは部屋の広さ・壁の素材・機器の配置に大きく左右されるはずなので、「必ず壁越しに呼吸が分かる」と期待して作るより、まずは同じ部屋で動かして感触をつかむのがよさそうです。

コードはGitHubでApache-2.0ライセンスのもと公開されていて、配線図から手順書、トラブルシューティングまで一式そろっています。ハードウェアなしでダッシュボードの動きを試せるシミュレーターまで用意されているので、興味が湧いたら、まずPiの上でソフトだけ動かしてみるところから始められます。

出典

Hackadayの紹介記事:Scanning For Lifesigns With ESP32 And Raspberry Pi, Now Open Source(2026年8月15日、Tyler August)

プロジェクトのリポジトリ:The-Masked-Bear/wifisense-pi(GitHub、Apache-2.0ライセンス)

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