太陽が荒れた日、飛行機の中では放射線が跳ね上がり、コンピュータのビットが反転する

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飛行機に乗ると、地上より多くの宇宙線(うちゅうせん)——宇宙から降り注ぐ高エネルギーの粒子——を浴びる。この話自体は、聞いたことがある人も多いと思います。では、太陽が大きく荒れた日に飛行機の中で何が起きるのかというと、こちらは意外と知られていません。英サリー大学のサリー宇宙センターの研究チームがこの問いに正面から取り組み、その結果を学術誌『Journal of Space Weather and Space Climate』に発表しました(2026年8月11日掲載、査読済み)。極端な宇宙天気のもとでは、乗客の被ばく量が跳ね上がるだけでなく、飛行機のコンピュータにも不具合が起こりうる——そして場合によっては、航路の変更や欠航の判断まで必要になる、という内容です。

巡航高度の放射線環境

まず前提から。旅客機が飛ぶ高度8〜14kmでは、地上よりも大気の層が薄いぶん、宇宙線の遮蔽(しゃへい)が効きにくくなります。それでも大気と地球の磁場がかなりの部分を防いでくれるので、ふだんのフライトで浴びる放射線量は、国際的な放射線防護の枠組みで想定されている範囲に収まっています。長距離路線を頻繁に飛ぶ乗務員の年間被ばく量は2〜5ミリシーベルト程度とされていて、これも職業被ばくの管理基準の内側です。ここは押さえておきたいところで、今回の研究も「ふだんの飛行機が危ない」という話ではありません。

問題は、太陽が荒れたときです。太陽の表面で大きな爆発が起きると、高エネルギーの陽子などの粒子が大量に飛んでくることがあります。特に強いものは、地上の観測装置にまで信号が届くことから「地上レベル増加(GLE)」と呼ばれます。2025年11月11日にもこのGLEが発生していて、研究チームの観測では、航空高度の放射線量率は典型的な値のおよそ4倍まで上がりました。サリー大学の発表によれば、高い高度では一時的に、通常の飛行条件の10倍近くに達した場面もあったといいます。

そして効いてくるのが、飛ぶ場所です。地球の磁場によるシールドは極地方でいちばん弱くなるため、ロンドン・ヒースローとカナダのバンクーバーを結ぶような「極回り」の路線が、最も影響を受けやすいと研究は指摘しています。

1956年級の太陽嵐がもたらす被ばく量

では、観測史上最強クラスの太陽嵐が今日起きたら、どうなるのか。研究チームが基準にしたのは、1956年2月に記録された、近代の観測史上最も強い太陽高エネルギー粒子イベントです。大気中の放射線を計算するモデル(MAIRE+)にこのイベントの粒子データを入力して計算したところ、極域を高度約12kmで巡航していた場合、この1回のイベントで浴びる線量は約4.7ミリシーベルトに達するという結果が出ました。これは、その空域で宇宙線を浴び続けた場合の23日ぶん、そして先ほどの乗務員の年間被ばく量と比べると、「飛行機に関係する宇宙線被ばくのおよそ1年ぶん」に相当します。1回の飛行で1年ぶん、という見積もりです。

ただし、この数字は極域・高高度という条件がそろった場合の話です。地磁気の遮蔽が効く中緯度では、同じイベントでも線量は約0.26ミリシーベルトと、10分の1以下にとどまります。また、これだけの被ばくでも、急性の放射線障害が出るレベル(およそ500ミリシーベルトの吸収線量)にはまだ遠く、研究チームも「致死的な水準に達するとは想定されない」と明記しています。問題になるのは、積み重なっていく被ばくをどう管理するか、という点です。

機体のコンピュータで起きるビット反転

ここからが、この研究のもうひとつの柱です。太陽嵐で影響を受けるのは、人の体だけではありません。高エネルギーの粒子が飛行機の電子回路に飛び込むと、メモリに記録された情報が勝手に書き換わることがあります。0が1に、1が0に反転してしまう現象で、「シングルイベントアップセット(SEU)」と呼ばれます。粒子が半導体にぶつかった拍子に、ビットが弾かれてひっくり返る——ざっくり言えばそういうことが、実際に起きるのです。

ふだんの宇宙線環境でも、この現象は起きています。研究チームの計算では、極域の高度約12kmを飛ぶ機体の場合、1GBのメモリあたり1時間に4件ほど。この程度なら、エラーを検出・訂正する仕組みで十分に対処できます。ところが1956年級のイベントのピーク時には、同じ条件でこの数字が1時間あたり約4,000件——およそ1,000倍に跳ね上がるという計算になりました。さらに、樹木の年輪などの記録から存在が推定されている紀元前7176年の超巨大イベント級になると、1時間あたり7万5,000件に達する可能性があるといいます。

件数がここまで増えると、エラー訂正の仕組みそのものが追いつかなくなるおそれがあります。しかも論文は、近年の半導体は微細化が進んだぶん、少ないエネルギーでもビットが反転しやすくなっていると指摘しています。つまり飛行機の電子化が進むほど、この問題への感受性は上がっていく方向にある、というわけです。研究チームは、極端な宇宙天気のもとでは、こうした電子機器の誤作動のほうが、乗客・乗員の被ばくよりも運用上は大きな課題になりうるとまで書いています。パイロットの作業負荷が急増し、通信や航法の障害と重なる可能性があるからです。

エアバスA320の一斉対応との関係

これは机上の話ではありません。2025年、エアバスは主力機A320ファミリーの飛行制御コンピュータに「強い太陽放射線」への脆弱性(ぜいじゃくせい)が見つかったとして、世界の約6,000機を対象にした一斉対応に踏み切りました。きっかけは同年10月、カンクンからニューアークへ向かっていたジェットブルー航空のA320が、意図しない高度低下を起こしてフロリダに緊急着陸した件です。欧州の航空安全当局も耐空性指令を出しており、この一件は宇宙線が引き起こしたSEUに結びつけられています。

論文の筆頭著者であるサリー宇宙センターのファン・レイ上級研究員は、このA320の件を挙げて、宇宙天気はもはや理論上のリスクではなく、すでに航空に影響を与えていると述べています。なお、SEUは痕跡を残さず消えることも多いため、過去の太陽イベントで避けられた事例が少ないのは「たまたま強いイベントに当たっていないだけ」という側面もある、と論文は注意を促しています。

磁気嵐との複合と危険域の南下

もうひとつ、見落とせない要素があります。強い太陽イベントは、地球の磁場を大きく乱す磁気嵐(じきあらし)を伴うことが多い、という点です。磁気嵐が起きると、地磁気によるシールドが弱まり、「極域なみに粒子が降り注ぐ帯」が赤道方向へ広がります。研究チームが1859年のキャリントン・イベント級——記録に残る中で最大級の磁気嵐——を想定して計算したところ、この帯はおよそ15度も南下し、英国の大部分から、北米ではフロリダのあたりまで達するという結果になりました。

つまり最悪の組み合わせは、超巨大な粒子イベントと激しい磁気嵐が同時に起きるケースです。この場合、ふだんは地磁気に守られている中緯度の空域まで、太陽からの粒子をほぼ素通しで浴びることになります。極回りの路線だけの問題ではなくなる、ということです。

航空専用の放射線スケールという提案

ではどう備えるか。研究チームの答えが、航空専用の「大気放射線スケール(ARスケール)」の新設です。

実は現行の警報の仕組みには、よく知られた弱点があります。米国の宇宙天気予報で使われているSスケールは、比較的エネルギーの低い(1,000万電子ボルト超の)陽子の観測量をもとにしていますが、航空高度まで実際に影響が届くのは、それよりずっと高い(5億電子ボルト超の)エネルギーの粒子です。このずれのせいで、共著者のクライブ・ダイヤー客員教授によれば、現行の警報は「本当の警報1件につき、少なくとも10件の誤警報」を出してしまうといいます。オオカミ少年状態では、いざというとき運航判断に使えません。

新しいARスケールは、高緯度に置かれた地上の中性子モニター(宇宙線が大気とぶつかって生じる中性子を数える観測装置。英国ではサリー、レルウィック、キャンボーンに設置)と、衛星による高エネルギー陽子の観測を組み合わせ、1956年のイベントの解析結果で目盛りを較正(こうせい)したものです。段階ごとに「監視を強める」「航路を変える・高度を下げる」「飛行を見合わせる」といった対応の目安を対応づけることで、航空会社が状況に応じた判断をしやすくする狙いがあります。研究チームは、この対応の目安はあくまで提案であり、パイロットを含む航空業界の関係者との詳細な議論が必要だとも述べています。

解釈上の留意点

いくつか注意点を添えておきます。まず、本文中の被ばく量やビット反転の件数は、過去のイベントの粒子データをモデルに入力して計算した推定値で、高度・緯度・太陽活動の状況によって大きく変わります。「1回の飛行で1年ぶん」も、極域を高度約12kmで巡航するという条件付きの数字です。また、SEUの件数は平均的なメモリ素子を仮定した例で、実際の耐性は機器によって桁違いに異なります。

A320の件についても、太陽放射線起因のSEUに結びつけられているというのが現時点での位置づけで、この論文が原因を新たに特定したわけではありません。そしてARスケールはあくまで研究チームからの提案の段階で、国際的な運用の枠組みに採用されると決まったものではありません。ふだんのフライトの被ばくが管理された範囲内にあることは、繰り返しになりますが、この研究でも前提とされています。

出典

この記事は、サリー大学のプレスリリースと、査読済みの原論文(オープンアクセスで全文を読めます)をもとに書いています。

Extreme space weather could disrupt flights and expose passengers to high radiation, study warns(サリー大学プレスリリース・2026年8月11日)

Lei F, Dyer C & Ryden K (2026). Assessment of impacts to aviation radiation by extreme space weather events and new atmospheric radiation scales. Journal of Space Weather and Space Climate, 16, 29

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