蒸気を一気に抜くと、皮が一枚で剥がれる——工場のジャガイモはこう剥かれていた

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果物やジャガイモの皮は、刃物で削って剥く。ほとんどの人が疑ったこともない前提だと思いますが、工場ではそうしていないことがあります。刃物の代わりに使うのは、高温高圧の蒸気。この方式を個人の工房で再現してみせたのが、複雑な機械の自作で知られるYouTubeチャンネル「Stuff Made Here」のShane Wightonさんです。2026年8月15日にHackadayが紹介しました。

リンゴ、ジャガイモ、ブドウ、レモン、イチゴ、ブラックベリー、さらには芯についたままのポップコーン用トウモロコシまで。装置に入れたもののほぼすべてで、皮がきれいに剥がれたそうです。

圧力鍋と同じ前提

仕組みを理解する入り口は、家庭にある圧力鍋です。密閉した容器に蒸気を閉じ込めて圧力を上げると、水の沸点は100度より高くなります。つまり、圧力が高いあいだは、100度を超えていても水は沸騰しません。圧力鍋が短時間で食材に火を通せるのは、この性質のおかげです。

ジャガイモを高温高圧の蒸気にさらすと、熱は皮のすぐ下まで素早く伝わります。皮の下の水分は熱くなっていますが、周囲の圧力が高いので、沸騰はできない。ここまでは圧力鍋の中で起きていることと変わりません。圧力鍋と違うのは、そのあとです。

一気に圧を抜くと起きること

圧力鍋は、調理が終わったら蒸気を少しずつ逃がして、ゆっくり減圧します。ところが工場の皮むき機は、その逆をやります。バルブを開けて、圧力を一気に抜くのです。

すると、皮の下で「沸騰したくてもできなかった」水分が、押さえつけていた圧力を失って一瞬で沸騰します。急な減圧で水が瞬間的に蒸気へ変わるこの現象は、フラッシュ沸騰と呼ばれます。水が蒸気になると体積は一気に膨らむので、皮は内側から持ち上げられ、吹き飛ばされる。刃物で削るのではなく、皮が一枚の膜としてはがれるわけです。削りかすも出ません。

意外なのは、これがWightonさんの発明ではないという点です。蒸気で皮を吹き飛ばす方式は、ジャガイモなどの加工工場で以前から使われてきた実用技術。私たちが知らなかっただけで、ポテトチップスやフライドポテトになるジャガイモは、こうやって剥かれていたかもしれないのです。ところがWightonさんが調べたところ、その瞬間を映した動画がネット上に見当たらなかった。ないなら自分で作って撮る、というのが今回の動機だったようです。

自作した装置の構成

装置の構成そのものはシンプルで、蒸気を作るボイラーと、果物を入れるチャンバー(容器)をバルブでつなぎ、チャンバー側にはもうひとつ、蒸気を一気に逃がすためのバルブが付いています。ただし、扱う圧力は1,000kPa超。大気圧のおよそ10倍です。これに耐える容器を、しかも撮影用の窓付きで作るのは簡単ではなかったようです。

ボイラーは、2枚のステンレス板で円筒を挟んだ構造。板と円筒の接する面同士をぴったり密着させて蒸気を封じる方式(フェイスシール)を採っていて、密着させるために管の端面を平らに削る専用の治具まで自作しています。全体はねじ切りした棒で締め付けてありますが、棒と容器本体では熱による伸び方が違うため、皿ばねと呼ばれる皿状の金属ばねを挟んで、その差を吸収させています。

一方の果物チャンバーは、ボイラーより低い圧力しかかからないので溶接で組まれています。扉にはガラス窓が入っていて、中で皮が吹き飛ぶ瞬間を外から見られる作り。窓のガラスは圧力と3Dプリントした部品で押さえられていて、チャンバー内には果物を窓の正面に固定する台まで用意されています。見せるための装置として、ちゃんと設計されているのが伝わってきます。

ブドウもイチゴも一枚で

結果は冒頭に書いたとおりです。ジャガイモやリンゴのような硬めのものだけでなく、ブドウやイチゴ、ブラックベリーといった柔らかい果実まで、ほぼすべてで皮がきれいに剥がれたとHackadayは伝えています。指でブドウの皮を剥こうとすると実がつぶれがちなことを思うと、蒸気のほうが手先より器用だった、という妙な結論になります。芯についたままのポップコーン用トウモロコシまで試しているあたりは、実験というより遊びの領域ですが、そこも含めて動画の見どころだと思います。

ただし一度に剥けるのは1個だけで、操作も複雑。Hackadayも「運用は複雑で危険」と明記しています。工場の機械のように大量処理するためのものではなく、あくまで原理を見せるためのデモンストレーションです。

真似はできない装置

念のため強調しておくと、これは家庭で再現できる類のものではありません。1,000kPa超の蒸気をためた圧力容器は、設計や工作をひとつ誤れば爆発的に破裂し、人命に関わります。作った本人も工学のプロで、それでも密閉や熱膨張の対策に相当な手間をかけています。また日本では、一定の規模を超えるボイラーや圧力容器の製造・使用は法律の規制対象で、個人が気軽に作ってよいものではありません。この記事も、面白い工作の紹介であって、製作を勧めるものではない点はご承知おきください。

皮を剥くというありふれた作業の裏に、水と圧力の物理がそのまま使われている。知ってしまうと、袋入りのポテトチップスの見え方が少しだけ変わる話でした。

出典

元記事:Peeling Fruit With The Power Of Steam(Hackaday・2026年8月15日・Fenix Guthrie)

動画:Stuff Made Here(YouTube)

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