iPhoneやiMacのデザインで知られる元アップルのデザイン責任者、ジョニー・アイブ氏。この人がOpenAIと組んで何かを作っている——という話は1年以上前から出ていましたが、その中身がようやく見えてきました。米Bloombergが2026年8月、事情を知る複数の関係者の話として、OpenAI初の消費者向けデバイスの姿を報じています。
報じられた姿は、真ん中に穴のあいた金属製の小さな円盤。大きさはホッケーのパックほどで、要するに「金属のドーナツ」です。発売は2027年、価格は300〜400ドル(約4万5千〜6万円)が検討されているとのこと。ただし、これはあくまで報道ベースの話で、OpenAIは製品計画についてコメントを拒否しています。公式発表はまだ何もありません。

1年以上続いた憶測の経緯
まず、ここまでの流れを整理しておきます。アイブ氏は2019年にアップルを離れ、自身のデザイン会社LoveFromを立ち上げました。その後、AIハードウェアのスタートアップ「io」を共同創業し、OpenAIが2025年5月にこのioを約64億ドルで買収。ここから「iPhoneを生んだデザイナーとChatGPTの会社が、一緒にハードウェアを作る」という構図が固まり、どんな製品が出てくるのかの憶測が続いてきました。
憶測が膨らんだのには理由があります。スマートフォンが登場してから20年近く、「次に来るデバイスは何か」という問いに、はっきりした答えを出せた会社はまだありません。スマートウォッチもスマートグラスも、スマホを置き換えるには至っていない。その問いに、iPhoneそのものをデザインした本人がどう答えるのか——注目されないほうがおかしい組み合わせでした。
一方で、家庭に置くAI機器という市場自体は、すでに埋まっているように見えます。AmazonのEchoやGoogleのスピーカーは何年も前から世界中のリビングにあり、数千円で買えるものも珍しくありません。近年はむしろ画面付きのスマートディスプレイへと進化して、天気やレシピを表示する方向に向かっていました。「音声だけでは不便だから、画面を足す」というのが、この分野の自然な流れだったわけです。
画面の代わりに置かれた光と動き
ところが、報じられているOpenAIのデバイスは、その流れと逆を行きます。画面がないのです。
スマホの次を問われ続けたデザイナーが出した答えが、画面を足すことではなく、画面を無くすことだった——ここがこの話のいちばん面白いところだと思います。しかも単に画面を省いたのではなく、代わりのものを用意しています。報道によれば、本体には状態を示す灯りと、応答するときに機械的に動くパーツが組み込まれていて、この光と動きが「いま聞いている」「考えている」「応答している」を伝えるインターフェースになるそうです。呼びかけるまで黒い箱として黙っているのではなく、装置そのものの振る舞いで状態を示す設計です。
中身も、これまでのスマートスピーカーとは違う構成が報じられています。マイクとスピーカーに加えて、カメラと環境センサーを搭載。バッテリーを内蔵していて、充電台から外して片手で持ち歩ける大きさです。寝室のサイドテーブルからキッチンのカウンターへ、その日の生活に合わせて連れて歩く使い方が想定されているようです。つまり、家のあちこちに安いスピーカーを置いてまわる従来のやり方ではなく、1台が部屋を見て、聞いて、ユーザーについて学んでいく。位置づけとしては「音声で操作するAIコンピューター」に近く、ChatGPTの会話能力を家庭に常駐させる装置、と言ったほうが実態に合いそうです。
Bloombergの報道には、もう一つ興味深い話があります。OpenAIは約5つの製品案を検討していて、その中にはスマートグラスのような身につけるタイプもあったものの、最初の製品にこの持ち運べるスピーカーを選んだ理由の一つが「常時カメラを身につける機器よりプライバシーの懸念が少ないから」だったというのです。そして、このスピーカーは単発の製品ではなく、将来的にはスマートフォンの置き換えまで視野に入れた製品ファミリーの第1弾と位置づけられているとのことです。
分かっていないことと留意点
ここまで書いておいてなんですが、この話は分かっていないことのほうが多い段階です。
まず、音声や映像の処理を本体で行うのか、クラウドに送るのかが不明です。カメラと環境センサーを備えた装置を家の中に置くわけですから、「何を見ていて、そのデータがどこへ行くのか」はこの製品のいちばん大事な論点になるはずですが、現時点では何の情報もありません。センサーを具体的にどう使うのか、既存のスマートホーム規格とつながるのかも分かっていません。日本での発売についても情報はありません。
発売時期や価格も、確定ではなく「検討されている」段階の数字です。もともとOpenAIは2026年中の発表を目指していたとも報じられており、計画が今後動く可能性は十分あります。また、AI専用デバイスというジャンルには、鳴り物入りで登場して短期間で姿を消したHumane AI Pinのような先例もあります。ChatGPTという強力なソフトウェアを持っているとはいえ、ハードウェアで成功できるかは別の話です。
それでも、iPhoneを作った本人が「その次」として画面のない機械を選んだ、という一点は記録しておく価値があると思います。答え合わせは2027年、報道どおりに製品が出てくれば、です。
出典
・New Atlas「OpenAI’s Jony Ive-designed AI device targets home use」(2026年8月15日)
・Decrypt「OpenAI’s First Device Is a $300-Plus Doughnut-Shaped Speaker: Report」(Bloomberg報道の内容を参照)
※本記事の内容は、Bloombergが匿名の関係者の話として報じたものをもとにしています。OpenAIによる公式発表ではなく、仕様・価格・発売時期はすべて今後変わる可能性があります。


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