ファミコンのネット機能、2026年に復活——消えたNTTの通信網ごと再現

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1988年、ファミコンを電話回線につないで株の売買や情報のやりとりができる周辺機器が日本で売られていました。「通信アダプタ」——英語圏では「ファミリーコンピュータ ネットワークシステム(FCNS)」と呼ばれている機器です。この古い仕組みを、海外の技術者が2026年に実際に動かしてみせました。手がけたのはYouTubeで活動するThroaty Mumbo氏。中古で手に入れた実機を通信できる状態まで持っていくのに、5か月かかったそうです。その顛末がHackadayで紹介されています。

1988年のファミコンに存在した通信機能

ファミコンといえばカセットを差してテレビで遊ぶゲーム機ですが、1988年に任天堂が発売した通信アダプタを取り付けると、電話回線経由で外部のサーバーとやりとりできるようになりました。本体の上に合体させる箱型の機器で、これ単体では動かず、用途ごとの専用カードを差して使います。

用途はゲームではなく、むしろ実用寄りでした。野村證券の「ファミコントレード」に代表される株式売買、ホームバンキング、のちにはJRAの馬券の在宅投票にも使われています。ファミコントレード用の通信アダプタだけで約13万台が出荷されたという記録が残っており、当時の家庭用ゲーム機としてはかなり本格的な「オンライン端末」への転用でした。

専用カードの中には「スーパーマリオクラブ」というものもありました。名前の響きからゲームサービスを想像しますが、実際は小売店やソフト会社向けのサービスで、発売予定表や売上チャート、ソフトのレビュー情報などを電話回線越しに閲覧できるものだったようです。ここでの経験は、のちのスーパーファミコンのサテラビューを経て、今の任天堂のオンラインサービスへつながっていきます。

消えたサーバーと日本語だけの資料

この通信アダプタを2026年に動かそうとすると、壁がいくつもあります。まず、接続先のサーバーはとうの昔に停止しています。電話をかける相手がいないのだから、そのままでは何もできません。

次に資料の壁です。この機器は日本国内でしか展開されなかったため、まとまった情報はほぼ日本語でしか残っていません。Throaty Mumbo氏は日本語が読めず、仕様の細部を拾い出すだけでも時間がかかったといいます。

それでも手がかりはありました。NESの開発コミュニティ「NESDev」には、この通信アダプタを解析してきた愛好家たちの蓄積があったのです。中でもBen Boldt氏は、通信カード——アダプタに差して使う「つうしんカード」——を自作できるようにした互換設計を公開しています。書き換え可能なロジックIC(CPLD)を使った基板で、接続先などの設定を自分で書き込めるものです。今回のプロジェクトは、こうした先行するリバースエンジニアリング(既製品の動作を解析して仕組みを解き明かす作業)の成果の上に成り立っています。

復活を阻んだNTT独自プロトコル

サーバーがないなら自分で用意すればいい——そう考えて、Throaty Mumbo氏は電話回線シミュレータ(家の中に小さな電話網を作る装置)を用意し、PC側にモデムをつないで、ファミコンからダイヤルさせてみました。ところが、これだけではエラーが出て通信が始まりません。

原因を追っていくと、行き着いたのはNTTの独自仕様でした。この通信アダプタは、ただ音声用モデムで話すのではなく、NTTがかつて提供していたパケット通信サービス「DDX-TP」のプロトコル(通信の手順の取り決め)に乗って動くよう作られていたのです。DDX-TPは一般の電話回線からNTTのパケット網に入るためのサービスで、2010年に終了しています。その手順は日本語の資料にしか残っておらず、ここでもNESDevコミュニティの解析が頼りになりました。

さらに細かい落とし穴もありました。通信カードは、相手が電話に出たことを回線の「極性反転」——NTTの交換機が応答の合図として電圧の向きを反転させる挙動——で判断します。市販の回線シミュレータはこの挙動までは再現しないため、リレー基板を組んで極性反転を自前で起こす必要があったそうです。つまり、蘇らせる対象はファミコン側の機器だけではなく、その向こうにあったNTTの網の振る舞いそのものでした。プロトコルの手順から交換機の合図の出し方まで、消えた電話網を一式まねてはじめて、カードは「つながった」と認識してくれたわけです。

よみがえった画面と自作の対戦パッチ

こうしてそろえた環境で、Throaty Mumbo氏はPC上に「スーパーマリオクラブ」のサーバーを自作しました。カード側のプログラムを解析して通信の中身を突き止め、カードが受け付ける形式でメニューや発売カレンダー、レビュー画面などを返すサーバーです。実機のファミコンがダイヤルし、当時の画面構成でページが表示されるところまで動いています。ソースコードはGitHubで公開されています。

ひとつ添えておくと、このサーバーが返すデータは当時の配信内容の復元ではありません。本人がREADMEで明言しているとおり、中身は雰囲気を再現するために作った架空のデータで、歴史的な記録として引用できるものではないとのこと。復元されたのは「中身」ではなく「仕組み」です。

さらにおまけとして、『スーパーマリオブラザーズ』に通信対戦機能を足すパッチも作られました。タイトル画面に「ダイヤルする」「応答する」の選択肢が加わり、2台のファミコンを電話回線(シミュレータ)越しにつないで2人プレイができるというものです。当時こんな遊び方は存在しなかったので、これは復元ではなく新作ですが、任天堂のネット対戦の源流にあたる機器で実際に対戦が動く光景には、時代が一周したような趣があります。

日本で生まれて日本で静かに消えていった通信規格が、日本語の読めない海外の技術者の手で、日本の資料と海外コミュニティの解析を橋渡しにして動き直した——そんな話でした。公式の記録が乏しい領域だけに、こうして動く形で残されること自体に、保存としての意味がありそうです。

出典

Hackadayの記事(Maya Posch氏、2026年8月16日):Using The Famicom Network System In 2026

Throaty Mumbo氏の動画:YouTube

自作サーバーのソースコード:SMC-Server(GitHub)/対戦パッチ:SMB-FCNS(GitHub)

Ben Boldt氏の通信カード互換設計:flash-fns(GitHub)/NESDevコミュニティの解析:NESDev Wiki

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