オルドビス紀は、約4億8700万年前から約4億4300万年前まで、およそ4400万年続いた時代です。カンブリア紀の次、シルル紀のひとつ前にあたり、古生代を構成する6つの紀のうち2番目に置かれています。
当時の世界地図は、いまとはまるで違います。陸地の大半は南半球にかたまり、北半球はほとんどが海でした。大気中の二酸化炭素は現在の3〜16倍あったと見積もられていて、赤道付近の海は温かい。しかも海面は、硬い殻や骨をもつ生き物の化石が豊富に残る5億3900万年前以降——顕生代(けんせいだい)——を通じて最も高い部類にありました。海が大陸の内側にまで入り込み、広くて浅い海があちこちに広がっていたのです。
生き物にとっては条件のよい時代でした。海にすむ生き物の種類は、この4400万年のあいだに劇的に増えています。ところが最後の100万年ほどで、その多くが姿を消しました。顕生代に5回あった大量絶滅——五大絶滅——の1回目が、この紀の終わりに起きています。
大陸が南に寄っていた世界
この時代、いまのアフリカ・南アメリカ・南極・オーストラリア・インドは、ゴンドワナというひとつの巨大な大陸としてつながっていました。ゴンドワナはオルドビス紀を通じてゆっくり南へ動き続け、紀の終わりごろには、現在の北アフリカにあたる部分が南極点の上に来ています。大陸が極の上に居座ると、そこに雪が積もって氷が育ちやすくなる。この配置が、のちの展開に効いてきます。
ほかの陸地は、いまの北アメリカにあたるローレンシア、北ヨーロッパのバルティカ、そしてシベリアが、それぞれ独立した大陸として熱帯付近に浮かんでいました。どれも赤道をまたぐ位置にあり、まわりの浅い海では石灰質の泥がさかんに堆積しています。北米中西部やスカンジナビアで、オルドビス紀の石灰岩が広く見つかるのはそのためです。
そして陸の上は、ほぼ裸でした。木も草もなく、土もほとんどない。雨が降れば岩がそのまま削られ、川が砂と泥を海へ運んでいく。生き物の世界は、まだ海の中だけで完結していたと言っていい状態です。

礁をつくった、いまとは別の顔ぶれ
広くて浅くて温かい海には、礁ができます。オルドビス紀の前半、礁の主役はまだ微生物でした。石灰分を巻き込みながら層状に育つ微生物マットが、盛り上がった構造を作っていたのです。それが紀の半ばから後半にかけて、動物が作る礁に置き換わっていきました。
ただし、その動物というのが現在とは別の顔ぶれです。骨組みを作っていたのは、層孔虫(そうこうちゅう)と呼ばれる海綿のなかま、床板(しょうばん)サンゴ、四射(ししゃ)サンゴ、それに石灰質の骨格をもつコケムシと紅藻でした。層孔虫や床板サンゴは直径数メートルの塊状の群体になり、コケムシがそのすき間を埋めて全体を固める。役割分担まで含めて、いまのサンゴ礁とよく似た仕組みが動いていたことになります。
けれども、現在の造礁サンゴ——六放サンゴ(イシサンゴ)——は、このメンバーに入っていません。六放サンゴが化石記録に現れるのは中生代三畳紀、およそ2億4000万年前からです。オルドビス紀の礁を作った床板サンゴと四射サンゴは、ペルム紀末の大絶滅で完全に絶えました。つまり「オルドビス紀にサンゴ礁が広がった」と言うとき、そこにいたのは現在のサンゴの祖先ではなく、いったん途絶えた別の系統だということになります。
もっとも、当時の礁はいまのものほど頑丈ではありませんでした。波を受け止めて外洋との境目を作る、あの分厚い堤防のような構造にはなっていない。それができるようになるのは次のシルル紀からで、オルドビス紀の礁は、比較的おだやかな浅瀬に点在するパッチ状のものでした。
なお、礁を作る動物が「中期に突然そろった」ように見える点については、2025年にPNASで異論が出ています。中期オルドビス紀のダピンギアン期(約4億7100万〜4億6900万年前)は海面が大きく下がった時期で、そのぶん石灰岩そのものが堆積しておらず、記録に穴があいている。海面が戻ったときに、すでに多様化していた生き物が一斉に浅瀬へ戻ってきたため、突然増えたように見えているだけではないか——という指摘です。地層の抜けが進化のグラフを歪める、という話は、化石記録を読むときにいつもついてまわります。

1000万年で三倍になった種類
オルドビス紀の生き物の増え方には、「オルドビス紀大放散事変(GOBE)」という名前がついています。増加は紀の初めから終わりまでだらだらと続きましたが、なかでも中期のダーリウィリアン期を中心とする1000万年ほどのあいだに、世界の海の種数がおよそ三倍になったと見積もられています。
数字が増えた、というだけの話ではありません。増え方に順番がありました。まず水中を漂う生き物、次に海底に暮らす生き物、最後に礁を作る生き物、という順です。この順番には理由があって、最初に植物プランクトンの種類が増え、それを食べる動物プランクトンがそろい、さらに海底の動物の幼生までが水中で漂って暮らすようになった。水の中に食べ物が浮いている状態が作られたことで、中層に居場所ができ、そこから下の海底にも餌が降りるようになったのです。
この時代の水中の主役のひとつが、筆石(ふでいし)です。細長い管がいくつも並んだ群体をつくり、海面近くを漂って暮らしていた動物で、種類の入れ替わりがとにかく速い。おかげでオルドビス紀の地層は、どこの国のものでも筆石の顔ぶれで年代を突き合わせられます。この時代の研究がここまで細かく進んでいるのは、この化石の時計があるからです。
海底には腕足類(わんそくるい/二枚貝に似た殻をもつ別のグループ)とコケムシがびっしり並び、ウミユリが林のように立ち、三葉虫が泥の上を歩いていました。三葉虫はカンブリア紀の主役として有名ですが、種類の数でいえばオルドビス紀のほうが多い。ただし海の中での存在感は、もう相対的に下がっています。
その上に立っていたのが、まっすぐな円錐形の殻をもつオウムガイのなかまでした。殻の中を仕切って浮力を調整し、水を噴き出して泳ぎ、くちばしで獲物を割る。確実な標本から復元された最大の殻は6メートル近くあります(9メートル、11メートルという数字も昔から言われますが、根拠のはっきりしない伝聞にもとづくものです)。それでも、当時の海でいちばん大きな動物だったことは間違いありません。
脊椎動物のほうは、まだ端役です。骨をもつ最初の魚——といっても顎はなく、頭を骨の板で覆っただけの、体長数十センチの生き物が、ボリビアやオーストラリア、北米の地層から見つかっています。この時代の海では、彼らは食べる側ではなく、食べられる側でした。

氷が広がった100万年
そして紀の最後、ヒルナンシアン期に入ります。期間はおよそ100万年。地質年代の単位としてはごく短い区切りです。
南極点の上に来ていたゴンドワナに、氷床が育ちました。氷の跡ははっきり残っていて、サハラ砂漠の地下には、氷河が岩を削った溝や氷河が運んだ堆積物がそのまま埋まっています。しかもポーランドでは、南緯30度あたりまで氷山が流れ着いて落とした岩くずが見つかっている。3000キロ以上を漂ってきた計算になります。
陸に氷が積み上がるぶん、海の水は減ります。海面はこの時期に70〜100メートル下がりました。大陸の内側まで入り込んでいたあの広くて浅い海が、そっくり干上がったということです。生き物が最も密集していた場所が、まるごと消えました。
絶滅は二段構えで進みました。1回目はヒルナンシアン期の始まり、寒冷化と海面低下が起きたとき。2回目はその約100万年後、期の終わり近くで、今度は氷が解けて海面が戻り、海が温まっていく局面です。合わせて、海の生物種のおよそ85パーセントが失われました。五大絶滅のなかでは1番目に起きたもので、規模ではペルム紀末に次ぐ2番目に置かれることが多い出来事です。
教科書的な説明は、ここで終わります。氷河時代が来て、寒くなって、浅い海が消えて、生き物が死んだ。ただ、この説明にはずっと引っかかりがありました。五大絶滅の残り4回は、いずれも大規模な火山活動と温暖化に結びついています。オルドビス紀末だけが「寒さで絶滅した回」として、ひとつだけ浮いているのです。

酸素が上下に振れた記録
この浮き方に別の説明を与えたのが、海底の泥に残った金属の同位体でした。
2022年、フロリダ州立大学を中心とする国際チームが、中国南部の2か所と、スコットランドのドブズ・リン——オルドビス紀とシルル紀の境界を定義する国際標準の露頭です——から採った黒色頁岩(けつがん)を分析し、タリウムという金属の同位体比を測りました。タリウムはマンガンの酸化物にくっついて海底に埋まる性質があり、そのマンガン酸化物は、海底の水に酸素があるときにしかできません。つまりタリウムの同位体比を追えば、世界の海の底にどれだけ酸素があったかがわかる。
この手法の強みは速さです。同じ目的でよく使われるウランやモリブデンは、海の中に平均45万年ほどとどまってから沈むため、それより短い変動はならされて消えてしまいます。タリウムがとどまるのは約1万8500年。数十万年スケールの上下動を、そのまま拾えます。
出てきた記録は、予想と違いました。海の酸素は、減って、戻って、また減って、また戻って、最後にもう一度減っていたのです。
しかも1回目の減少は、氷河時代が始まる前に起きていました。ヒルナンシアン期に入るより手前のカティアン期後半、およそ90万年をかけて、酸素の乏しい水の層が世界規模で広がっている。この時期は、深い海にすんでいた腕足類や三葉虫のなかまが姿を消し、筆石のいくつもの系統が減りはじめた時期と重なります。つまり、氷が広がる前から生き物はもう減りはじめていた。
次に、ヒルナンシアン期の初めごろ、約37万年かけて酸素は戻ります。海が冷えたからです。冷たい水は酸素をよく溶かしますし、海面が下がって海底の面積が減れば、酸素の乏しい水がたまる場所も減る。寒冷化はこの意味では、海に酸素を戻す方向にはたらいていました。
そのあと期の半ばで酸素はまた減り、最後の氷床拡大に合わせて約34.5万年かけてもう一度戻り、そして氷が解けて海面が上がる局面で、およそ15万年のうちに一気に失われます。硫化水素まで発生する状態になった海が、そのままシルル紀初めまで続きました。2回目の絶滅は、ここで起きています。
研究チームの結論はこうです。この絶滅を引き起こしたのは、酸素が乏しかったこと自体というより、その量が短い間隔で行ったり来たりしたことではないか。実際、酸素が戻る局面も生き物にとっては負担でした。酸素の少ない環境に適応していた種にとって、水が急に「きれいになる」ことは、そのまま住みかを失うことを意味します。冷えたことも、酸素が減ったことも、単独の犯人ではなかった。環境が落ち着かなかったこと自体が効いていた、という読み方です。
ただし、この揺れの大もとが何だったのかについては、意見が割れています。2020年には、水銀の濃度異常を根拠に「巨大な火山活動が温暖化と無酸素状態を引き起こし、それが両方の絶滅を招いた」とする説がGeology誌に出て、これならオルドビス紀末も他の4回と同じ型に収まります。一方、タリウムを測ったチームはこの解釈を採っていません。カティアン期からヒルナンシアン期の境目に大規模な火山活動があったという地質学的な証拠が乏しいうえ、水銀の異常は火山ではなく、その場の海底の状態や硫化鉄のたまり方を反映しているだけではないか、という指摘があるためです。同じ地層を見ながら、まだ答えが一本にまとまっていません。

氷河時代の引き金という難問
そもそも、なぜ氷河時代が始まったのか。ここがいちばん解けていません。
冒頭に書いたとおり、当時の二酸化炭素は現在の3〜16倍と見積もられています。温室効果ガスがこれだけ濃い状態で大陸氷床が育ったのは、顕生代を通じてこのときだけです。何かが二酸化炭素を急激に引き下げたか、あるいは二酸化炭素以外の要因が効いたか、どちらかということになります。
候補のひとつが、陸に上がりはじめた植物です。植物のものと考えられる胞子は、アルゼンチンの約4億7300万〜4億7100万年前の地層から見つかっています(この年代については異論もあり、確実なところではサウジアラビアの約4億6500万年前の記録があります)。いずれもゼニゴケに近い、根も茎もない小さな植物のものです。それでも、岩の表面に薄く広がるだけで、岩の風化は速くなります。風化が進めば大気の二酸化炭素は岩に取り込まれて減っていく。小さな植物が地球を冷やした、という筋書きです。
ほかにも、海に沈む有機物の量が増えて炭素が埋め立てられたとする説、火山活動が関わったとする説、大陸そのものが極に対して大きく傾いたとする説が出ています。ただし有機物の埋没については、2025年に「氷河期のあいだむしろ減っていた」というデータが出ており、単純な話ではなくなりました。
わかっているのは、この絶滅が「寒くなったから死んだ」の一行では片づかない、ということです。生き物が減りはじめたのは氷が来る前で、氷が解けたあとにもう一度大きく減った。そのあいだ、海の酸素は何度も上下していました。原因を一つに絞れないまま、記録だけが細かくなっていく——いまのオルドビス紀研究は、そういう段階にあります。
なお、タリウムを測った研究チームは論文の最後で、現在の海の酸素がこの50年ほどで少なくとも2パーセント減っていることに触れ、変化の速さという点でこの時代が参考になりうる、と書いています。4億4000万年前と現在では、規模も速さも背景もまるで違うので、そのまま重ねられる話ではありません。ただ、海の酸素が生き物にとってどれだけ効く要素なのかを、この時代の地層が具体的な数字で示していることは確かです。
出典
タリウム同位体による酸素変動の復元:Kozik et al., “Rapid marine oxygen variability: Driver of the Late Ordovician mass extinction”(Science Advances, 2022・全文が無料で読めます)
ウラン同位体による海洋無酸素状態の検出:Bartlett et al., “Abrupt global-ocean anoxia during the Late Ordovician–Early Silurian detected using uranium isotopes of marine carbonates”(PNAS, 2018)
シルル紀初期まで続いた硫化物質の海:Stockey et al., “Persistent global marine euxinia in the early Silurian”(Nature Communications, 2020・全文が無料で読めます)
オルドビス紀大放散事変の定義と経過:Servais & Harper, “The Great Ordovician Biodiversification Event (GOBE): definition, concept and duration”(Lethaia, 2018)
礁の「突然の出現」は地層の抜けによる見かけとする指摘:Preservation bias obscures gradual Ordovician reef evolution(PNAS, 2025)


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