半導体チップの部品をAIに設計させたら、人間の設計より桁違いに小さくなった——そんな研究が、Nature Communicationsに掲載されました。マックス・プランク光科学研究所やハーバード大学などのチームが、光チップに使う3種類の部品を計算機の最適化で設計し、実際に作って動かしてみせたのです。部品の面積は、従来の設計と比べて最大でおよそ500分の1。いちばん小さいものは、差し渡し約5マイクロメートル——細菌1個ぶんの大きさしかありません。
ただ、この研究でいちばん興味深いのは、小ささの数字ではないかもしれません。順を追って見ていきます。
光で情報を運ぶチップ
まず、舞台になる「光チップ」の話から。正式にはフォトニック集積回路と呼ばれるもので、ふつうの半導体チップが電子で信号をやり取りするのに対し、こちらは光の粒(光子)そのもので情報を運びます。光は文字どおり光速で進み、発熱によるロスも少なく、しかも色(波長)の違う光にそれぞれ別のデータを載せられるので、一度に運べる情報量も稼げます。こうした性質から、光ファイバー通信やデータセンター、自動運転車のLiDAR(レーザーで距離を測るセンサー)、量子コンピューターなど、速さと大容量が命の分野で使われています。
光チップの中では、金属の配線の代わりに「導波路」という幅数マイクロメートルの細い通り道が光を導きます。そして通り道だけでは回路になりません。色ごとに光を分ける波長分離器、光の断面パターン(空間モード)ごとに仕分けるモード分別器、光を跳ね返すミラー。こうした部品が組み合わさって、はじめて光を自在にあやつれます。
手作業の設計が抱えていた限界
問題は、これらの部品がかさばることでした。たとえば従来型の波長分離器には、光を分けるために数百マイクロメートルもの長さの結合部が必要なものがあります。モード分別器にいたっては、1平方ミリメートル級の面積を占める実装もあるほどです。チップの上は土地の限られた一等地なので、部品が大きいと載せられる機能がそれだけ減ってしまいます。
では、なぜ小さくできなかったのか。これまでの部品設計は、人間の技術者が実績のある形を出発点に、パラメータを少しずつ調整して詰めていくやり方でした。この方法は手堅い反面、時間がかかるうえ、試せる形が「人間が思いつく範囲」に縛られます。直線、ゆるやかな曲線、規則的な繰り返し——人間が図面に描く形には、どうしても人間の発想のクセが出るのです。
性能から逆算する「逆設計」
今回のチームがとったのは、逆設計(インバース・デザイン)と呼ばれるアプローチです。形を先に決めるのではなく、「この部品にはこういう性能を出してほしい」というゴールと、「構造の曲がり方はここまで」「加工できる最小サイズはこれ以上」といった製造上の制約だけを計算機に与える。すると計算機が、光のふるまいをシミュレーションしながら形を少しずつ変えては試す、を延々と繰り返し、ゴールにたどり着く構造を自力で探し当てます。今回の部品は、およそ200回の反復計算で最適な形に到達したといいます。報道ではこの手法が「AIによる設計」と紹介されていますが、実体はこうした勾配法と呼ばれる数学的な最適化の積み重ねです。
そうして出てきた形が、尋常ではありませんでした。電子顕微鏡で見ると、部品の内部は規則性の読めない、入り組んだ迷路のような模様で埋め尽くされています。直線もなければ、対称性もほとんどない。筆頭著者の一人であるマックス・プランク光科学研究所のトビー・ビー氏は「逆設計では、光に何をさせたいかをこちらが定義すると、最適化がそれを実現する構造を見つけてくる。多くの場合、人間なら誰も描かなかったであろう構造だ」と説明しています。Live Scienceの記事の見出しは、これを「人間の直感を超えて」と表現しました。

肝心なのは、この意味不明に見える形が、実際に作ってみるとちゃんと動いたことです。チームはシミュレーションで終わらせず、窒化ケイ素という材料で部品を実際に製造し、光を通して性能を測りました。波長分離器は5×5マイクロメートル〜8×8マイクロメートルの面積で光を色ごとに振り分け、従来型のおよそ50〜300分の1に。モード分別器は光の断面パターンを仕分けて、代表的な従来実装と比べおよそ500分の1に収まりました。長さ約11マイクロメートルのミラーは入ってきた光の最大98.5%を跳ね返し、2枚で導波路を挟むと、光は逃げ出すまでに鏡のあいだを100回以上往復したといいます。それだけ光を漏らさず閉じ込められている、ということです。
材料選びも効いています。チームは窒化ケイ素の層を400〜800ナノメートルと厚めに作り込みました。層が厚いと光を導波路の中に強く閉じ込められ、漏れによるロスが減ります。人間離れした形と、光を逃がさない材料。この組み合わせが、桁違いの小型化を成立させました。
部品単体の実証という現在地
とはいえ、話を先取りしすぎないほうがよさそうです。今回実証されたのは、あくまで3種類の部品それぞれが単体で動くこと。これらを組み合わせてひとつの光回路として統合する作業は、これからの課題として残っています。チーム自身も、統合が次のステップだと明言しています。「実用化された」と言える段階ではありません。
それでも、この研究が示したことの意味は小さくないと思います。計算機が見つけた前例のない形は、見た目が奇抜なだけでなく、製造誤差にも強く、実際の工場プロセスで作れることまで確かめられました。設計図の上の絵空事ではないわけです。そして空いたチップ上のスペースには、そのぶん多くの部品を詰め込めます。チームは、この設計の枠組みが量子光学や非線形光学の回路にもそのまま応用できるとしています。
人間の技術者が数十年かけて磨いてきた形の引き出しの外側に、まだ誰も開けていない設計の空間が広がっていた。計算機は人間より賢いから見つけたのではなく、人間と違って「思いつく範囲」に縛られずに探せたから見つけた。道具としてのAIの使いどころを、きれいに切り出した研究と言えそうです。

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