宇宙人を探した星の数を数え直したら、21倍あった

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宇宙人を探すために、これまで何個の星に耳を澄ませてきたのか。その答えが、いきなり21倍になりました。新しく望遠鏡を向けたわけではありません。すでに終わっている観測を、数え方だけ変えて数え直した結果です。

やったのは、マンチェスター大学ジョドレルバンク宇宙物理学センターの博士課程の学生、ルイーザ・メイソン氏。7月24日、バーミンガムで開かれた英国王立天文学会の国内天文会議(NAM2026)で発表されました。

電波SETIにおける星の数え方

SETI(地球外知的生命探査)の電波観測は、望遠鏡を特定の星に向けて、そこから狭帯域の電波——周波数の幅がごく狭い、鋭いスパイク状の信号——が来ていないかを調べます。自然の天体が出す電波は広い周波数に散らばるので、一点に電力が集中した電波が見つかれば、技術で作られたものである可能性が出てくる。そういう理屈です。

ここで見落とされやすいのが、望遠鏡のビームには幅がある、という単純な事実です。1個の星に狙いを定めても、視野の中には他の星がいくつも入り込みます。天文学者はこれを「stellar bycatch」と呼びます。bycatch は漁で狙った魚以外が網に入ってしまう「混獲」のこと。狙っていない星も、結果的には同じ時間、同じ周波数で一緒に「聞いて」いることになります。

上の図のように、望遠鏡から伸びる細い円錐の中には、狙った1個の星のほかに、その奥に並ぶ暗い星が大量に含まれています。だから「何個の星を調べたか」を集計するときは、狙った星だけでなく、視野に入ったぶんも足すのが筋になります。

ガイアのカタログが抱える限界

この混獲を数え上げるのに、これまで使われてきたのがESA(欧州宇宙機関)のガイア衛星のカタログです。10億個を超える星について、位置と距離を測ったデータがそろっています。2020年に発表された研究では、グリーンバンク望遠鏡とパークス望遠鏡による1327回の観測について、ビームの中に入っていた星をガイアで数え上げ、28万8315個という数字が出されました。この数はその後、SETIの成果を評価するときの基準として使われてきました。

ただ、ガイアには届かない領域があります。暗すぎる星はそもそも写りません。遠い星は距離の測定誤差が大きくなり、信頼できる距離が出るのはおよそ1万パーセク(約3万3千光年)まで。星が密集した方向では隣り合う星の光が混ざり、種類の判別も怪しくなります。実際、ガイアのデータ公開第2弾で推奨される品質基準を通すと、残るのは全体の3割ほどでした。

つまり28万8315という数字は、ビームに実際に入っていた星の「下限」だったわけです。

銀河モデルによる再計算

そこでメイソン氏が持ち込んだのが、ベサンソン銀河モデル(BGM)です。天の川銀河を薄い円盤・厚い円盤・バルジ(中心の膨らみ)・ハローという4つの成分に分けて、そこにどんな星が何個、どう分布しているかを計算で再現するモデル。銀河の構造研究や重力マイクロレンズの予測などに使われてきた、天文学では定番の道具です。

このモデルの強みは、実際に見えている星を数えるのではなく、「この方向のこの視野には、統計的にどういう星が何個あるはずか」を出せる点にあります。暗すぎる、遠すぎる、混みすぎている——ガイアが苦手とする条件が、そのまま弱点にならない。

1327回ぶんの観測のうち、シミュレーションを走らせられた1229の視線方向について、明るさの制限なしで距離2万5千パーセク(約8万光年)まで星を生成したところ、合計は618万2364個になりました。ガイアで数えた28万8315個に対して、21倍あまり。ちなみに銀河中心方向の2視野は星が密すぎて計算が終わらず、この集計からは外されています。

同じ観測、同じデータです。変わったのは、そこに何がいたと見積もるかだけ。SETIは自分たちが思っていたより、はるかに広い範囲へ耳を傾けていた——それが今回の答えでした。

含まれていた天体の多様性

変わったのは数だけではありません。中身も、狙いとはかなり違うものでした。

もとになったグリーンバンクとパークスの観測は、近くの太陽に似た星を中心に選んだリストに沿って進められたものです。ところがBGMで視野の中身を再現すると、10キロパーセク以内だけで、M型の主系列星(赤色矮星)が約270万個、K型が約50万個、白色矮星のうち水素を多く含むDA型が約44万個といった具合に、意図していなかった顔ぶれが大量に入っていました。狙って選んだG型の主系列星は約21万個で、全体から見れば少数派です。

これは、SETIに長くつきまとってきた批判への反論にもなります。「太陽に似た星ばかり選んでいる時点で、人間中心の思い込みに縛られているのではないか」という指摘です。実際には、単一の皿型望遠鏡で撮った観測は、意図とは関係なく幅広い種類の星を同時に含んでいた。論文はここから、電波SETIは言われているほど偏っていない、と結論づけています。

星の種類ごとに整理できたことで、別の使い道も出てきました。「白色矮星のまわりに強力な送信機がある割合は何%以下か」といった制限を、種類別に付けられるようになったのです。研究チームは他の研究者が同じ計算をできるように、視線方向と視野を入れれば混獲の中身を出せる計算ツールを公開しています。

周波数帯の偏り

もう一本の論文が扱っているのは、探す場所ではなく探す周波数のほうです。

これまでの電波SETIは、1.42〜1.66GHzという狭い帯域に集中してきました。「ウォーターホール(水の穴)」と呼ばれる範囲です。下端は水素原子が出す電波、上端付近は水酸基(OH)が出す電波で、この2つを合わせると水になる。宇宙のどこの文明でも水と水素には行き着くはずだし、この帯域はもともと自然の雑音が少ない。だから連絡を取るならここだろう、と考えられてきました。

筋は通っているものの、これは推測です。相手が別の周波数を使っている可能性は当然あります。そして、そこから外れたミリ波・サブミリ波の領域は、SETIとしてほとんど手つかずのまま残されていました。

上の図の左端の明るい帯がウォーターホール、その右に広がる暗い部分がミリ波・サブミリ波にあたります。探せる幅に対して、これまで灯りが当たっていたのはごく一部でした。

アルマ望遠鏡による初のSETI探索

その暗い側に手を伸ばすために選ばれたのが、チリのアルマ望遠鏡(ALMA)です。35GHzより上の周波数では、感度で並ぶものがありません。メイソン氏はこの望遠鏡としては初めてのテクノシグネチャー(技術のしるし)探索をおこないました。

ここでも新しい観測時間はもらっていません。他の天文研究のために取られ、保管されていたデータを引っ張り出して解析しています。対象は較正用に撮られた4視野、周波数は90.642GHzと93.151GHzを中心とする2つの狭い窓。ガイアの第3次データ公開から選んだ28個の星について、狭帯域の信号を探しました。

結果は未検出でした。いちばん近い星については、実効等方放射電力(EIRP=送信機が実質どれだけの電力を放っているかを表す量)が7×1017ワットを超える送信機はない、という上限が付いています。

アルマには向いている点と向いていない点が両方あります。多数のアンテナを組み合わせる干渉計なので、地上の電波混信を抑えやすい。単一の皿型望遠鏡だと、SETIでは誤検出のほとんどが人工の混信で占められるので、これは大きな利点です。一方、いまの信号処理装置はHz単位の細かい分光を想定して作られていません。本格的に取り組むなら、超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)のCOSMICやMeerKATのBLUSEのような、SETI専用の後段装置が要る、と論文は指摘しています。

解釈上の留意点

いくつか、誤解されやすいところを整理しておきます。

まず、610万個の星を新しく調べたわけではありません。1229方向ぶんの既存の観測について、その視野に統計的にそれだけの星が入っていたはず、と見積もり直しただけです。観測そのものは以前から終わっています。

次に、この数え上げはモデルによる推定です。BGMは個々の星を特定するわけではなく、「この方向にはこういう星がこれだけあるはず」を計算で出します。618万2364個ぶんの星のリストが手元にあるわけではありません。

比べている条件も、きれいにはそろっていません。ガイア側は1327視線・距離1万パーセクまで、BGM側は1229視線・2万5千パーセクまでです。21倍という比は、この差を含んだ数字になります。加えて論文は、約100パーセク(およそ326光年)以内ではBGMのほうがガイアより3割ほど星を少なく見積もると明記しています。近場に限ればガイアのほうが正確で、モデルが強いのはもっと遠い領域です。

制限が付いた相手の出力も、押さえておく必要があります。2.5キロパーセク以内について言えたのは、EIRPがおよそ5×1016ワット以上の連続的な送信機を持つ星系は0.001%以下——10万個に1個以下——という上限でした。この出力は、かつてアレシボ天文台のレーダーが出していた電力の数千倍にあたります。ふつうのテレビ放送や携帯基地局の漏れ電波のような弱い信号は、この探索では最初から届きません。

そして、見つからなかったことは「いない」ことの証拠にはなりません。メイソン氏自身、1個の星に割いた時間はごくわずかで、探した周波数もごく一部だと強調しています。今回の未検出が意味するのは、限られた観測・限られた帯域・限られた感度の範囲で、条件を満たす信号が出てこなかった、それだけです。

最後に、この2本の論文は今回が初出ではありません。アルマの論文は2024年12月10日にMNRAS 536巻3号として、混獲の論文は2025年11月27日に545巻3号として公開されています。ニュースになったのは、7月のNAM2026でこの2本が一つの流れとして発表され、王立天文学会がプレスリリースを出したためです。どちらも査読を経て掲載されています。

出典

この記事は以下をもとに書きました。論文は2本ともオープンアクセスで、全文を無料で読めます。

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