3Dプリンタは、溶けた樹脂を細く押し出して、層を積み重ねて物体を作る機械です。ところがドイツの機械いじり系YouTubeチャンネル「Roetz 4.0」のJanさんは、この機械を「途切れないチューブを延々と吹き続ける機械」に作り替えようとしています。Janさんといえば、印刷時間1分を切るBenchy(3Dプリンタの定番テスト船)を刷ったことで知られる人物。今回の挑戦もまた、市販のプリンタの常識から一歩外れたところを攻めています。
まだ進行中の実験で、完成した装置ではありません。それでもこの話を紹介したいのは、途中でぶつかった失敗と、それを乗り越えた発想の切り替えが、それ自体で読みごたえがあるからです。
空気を芯にして樹脂を吹く仕組み
Janさんはもともと、2本の材料を同時に扱える押出機を自作していました。1本の材料をもう1本の材料で包みながら押し出す、いわば「芯と皮」を一度に作る装置です。たとえば導電性の樹脂を絶縁性の樹脂で包めば、被覆付きの電線のようなものが刷れるかもしれない——そんな可能性を秘めた仕組みでしたが、すぐに使い道が思いつかなかったため、Janさんは発想を横にずらしました。芯の材料を、圧縮空気に置き換えたのです。
改造した押出機では、圧縮空気を送る管の出口を取り囲むように、溶けた樹脂が輪の形で押し出されます。ノズルから出た瞬間、まだ柔らかい樹脂の輪の内側に空気が吹き込まれ、風船のように膨らんで、そのまま管になる。ポリ袋やペットボトルを作るブロー成形と同じ発想を、卓上サイズの機械でやろうという試みです。

圧力を一定にしたら、風船のように破裂した
最初の実験はPLA(3Dプリンタで最も一般的な樹脂)で行われました。空気の圧力は高精度の調整弁で一定に保ちます。これで気密なチューブ自体は作れたのですが、結果は安定とはほど遠いものでした。チューブの太さがそろわず、ところどころで泡のように膨らみ、最後には破裂してしまうのです。
この暴走、理由を聞けば「なるほど」となります。チューブの壁は、薄くなるほど空気の圧力に対して弱くなります。つまり、どこかが少し膨らんで壁が薄くなると、同じ圧力でもそこがさらに膨らみやすくなり、膨らむとまた薄くなる——薄くなるほど膨らみ、膨らむほど薄くなるという悪循環が、破裂するまで止まりません。圧力を一定に保つという一見まっとうな制御が、この仕組みでは原理的に暴走を招いてしまうわけです。
問題はもうひとつありました。押出機の本体がステンレス製で熱を伝えにくいうえに、中を通る圧縮空気が内側から冷やしてしまうため、樹脂が押出機の中で固まって詰まることがあったのです。膨らみすぎと、冷えすぎ。二重の壁にぶつかりました。
「圧力」ではなく「体積」を送る
ここでJanさんが打った手が、この実験のいちばん面白いところです。圧力を制御するのをやめて、送り込む空気の体積を制御することにしたのです。
2本目の動画では、そのためにペリスタルティックポンプを自作しています。チューブをローラーでしごいて中身を送り出す方式のポンプで、輸液ポンプなどにも使われる仕組みです。この方式なら、圧力がどう変わろうと、決まった量の空気だけが送り込まれます。チューブの中に入る空気の量が決まっていれば、膨らみ続けることはできません。あの暴走の悪循環が、そもそも成立しなくなるのです。結果は圧力制御よりずっと安定したものになりました。
材料も、硬いPLAからTPU(ゴムのように柔らかい樹脂)に切り替えたところ、層同士の接着が大きく改善しました。できあがったTPUのチューブに圧縮空気を入れると、わずかに膨らむ柔軟な構造物になります。ただし空気漏れはまだ残っていて、完全な気密には至っていません。
先を歩く研究と、この実験のこれから
実はこの「吹きながら押し出す」というアイデア、大学の研究室でも本格的に取り組まれています。ダルムシュタット工科大学(ドイツ)では、建築学部と機械工学科の共同研究として「Blow Extrusion(BX)」という手法を開発中です。溶けた樹脂の中心に空気を送り込んで中空のストランドを作るという原理はJanさんの実験と同じで、こちらは空気の流量をマスフローコントローラーで制御し、径8〜14mmの範囲で断面を変化させながら印刷することに成功しています。中身の詰まった従来の押出と比べて、材料消費を最大85%減らせるとしていて、建築部材への応用を視野に入れた研究です。奇しくも「量を制御する」という答えに、趣味の工作と大学の研究が別々にたどり着いているのが面白いところです。
一方でJanさんの装置は、まだ実験の途中です。設計データや部品表の公開はなく、できたチューブの強度や耐圧を試験したわけでもありません。「3Dプリンタでチューブが作れるようになった」と言い切れる段階ではなく、「作れそうな道筋が見えてきた」あたりが正確なところでしょう。それでも、失敗の原因を突き止めて、制御する量そのものを変えるという一手で暴走を止めてみせた過程は、ものづくりの記録として十分に価値があります。続報が楽しみな実験です。
出典
Continously Extruding 3D Printed Tubes With Compressed Air(Hackaday・2026年8月9日・Aaron Beckendorf)
Jan / Roetz 4.0 による1本目の動画(YouTube)
ペリスタルティックポンプを製作した2本目の動画(YouTube)
Blow Extrusion(BX)3D Printing(ダルムシュタット工科大学 Digital Design Unit)


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