ウェッブ望遠鏡の謎「小さな赤い点」、育った後の姿かもしれない銀河が見つかる

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ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測を始めてから4年、天文学者をずっと悩ませてきた正体不明の天体群があります。「小さな赤い点(リトル・レッド・ドット)」と呼ばれる、初期宇宙に大量に散らばる謎の光です。

その謎に、思いがけない方向から手掛かりが届きました。「小さな赤い点」が育った後の姿かもしれない銀河が、1つ見つかったのです。アリゾナ大学スチュワード天文台のPierluigi Rinaldi氏(現・宇宙望遠鏡科学研究所)が率いる研究チームが報告したもので、論文は2026年7月29日、査読誌The Astrophysical Journalに掲載されました。NASAも同日、公式発表を出しています。

見つかった銀河には「サボテン(Saguaro)」という愛称が付けられました。研究チームが呼んでいる通称で、正式な名称ではありません。この1つの銀河が、4年越しの謎にどうつながるのか。順番に見ていきます。

初期宇宙に散らばる謎の天体「小さな赤い点」

「小さな赤い点」は、ウェッブ望遠鏡が2022年に観測を始めてまもなく見つかった天体群です。名前の通り、小さくて、赤くて、そして距離のわりに異様に明るい。その多くは、今から132億〜122億年前という宇宙のごく初期に存在していたことが分かっています。宇宙の年齢が138億歳ですから、生まれてから10億年前後しか経っていないころの光です。

あれほど遠くで、あれほど明るく輝くとなると、ふつうに考えれば正体はクエーサー、つまり中心の超巨大ブラックホールが活発に物質を飲み込んでいる銀河の核です。ところが「小さな赤い点」の光は、クエーサーの光とは性質が違いました。膨らんだ星のような光で、赤外線が主体、紫外線も少し混じる。そして肝心のX線が出ていないのです。

明るさとX線の矛盾が生んだ仮説

この「X線が出ない」が、なぜそんなに問題になるのか。物質がブラックホールに落ち込むとき、周囲のガスは猛烈な高温になり、強いX線を放ちます。だから活動中のブラックホールが明るさの源なら、X線が観測されるはずなのです。明るさはブラックホールを指しているのに、X線はブラックホールを否定している——この矛盾が、正体の特定を阻んできました。

そこで出てきた有力な仮説が「ブラックホール星」です。成長中の超巨大ブラックホールが分厚いガスの雲にすっぽり包まれていて、内側から温められたガスが星のように輝いている、という考え方です。厚いガスがX線を吸収してしまうので、外からはX線が見えない。ほかにも、やがて巨大な球状星団(星が球状に密集した集団)になるという説も提案されていて、議論はまだ決着していません。

ある時期を境に起きる数の激減

もう1つ、気になる事実があります。「小さな赤い点」は初期宇宙には大量にあるのに、今から120億年前あたりを境に、数がすとんと減るのです。

全部消滅したのか。それとも、何か別のものに姿を変えたのか。初期宇宙に生まれたものは、必ず現在の宇宙にある何かへとつながっているはずです。共著者でアリゾナ大学のGeorge Rieke氏は、「小さな赤い点」が何になるのかはほとんど分かっていなかったが、今回の結果はその子孫の見つけ方をついに示してくれた、と発表の中で述べています。

その手掛かりとなったのが、冒頭のサボテン銀河でした。

渦巻銀河「サボテン」の中心に潜むそっくりな核

サボテン銀河(正式にはWISEA J123635.56+621424.2)は、きれいな渦巻きの腕を持つ銀河です。赤方偏移(ずれの大きさで距離が分かる、光の波長の伸び)は2で、ビッグバンから約33億年後、今からおよそ105億年前の姿にあたります。「小さな赤い点」の全盛期からは十数億年ほど後、つまりだいぶ「近く」にある銀河です。腕を広げた姿がアメリカ南西部のサボテンに似ていて、中心の赤い核がサボテンの赤い実を思わせることから、この愛称が付きました。

チームが注目したのは、その中心の核です。ハッブル宇宙望遠鏡の紫外線データとウェッブ望遠鏡の赤外線データを重ねて調べると、核は可視光よりも紫外線と赤外線で明るい——遠くの「小さな赤い点」と同じ光り方をしていたのです。

さらに決定的だったのがX線でした。チャンドラX線観測衛星が、サボテンの核からかすかなX線を検出したのです。共著者でケープタウン大学の修士課程に在籍するCarys Gilbert氏によれば、このX線が示すのは、サボテンの中心に厚く覆い隠された活動銀河核(活動中のブラックホールを抱えた銀河の中心部)があり、しかもX線そのものが弱いということ。「隠されていて、なおかつX線が弱い」——この組み合わせなら、ほかの「小さな赤い点」からX線が全く見えないことにも説明がつく、というわけです。ブラックホールがいないのではなく、X線が弱すぎて遠くからは検出できないだけかもしれないのです。

計算で遠ざけると消えた渦巻き

そしてこの研究でいちばん面白いのが、次の一手です。チームはサボテン銀河を、計算の上で初期宇宙に「置き直して」みました。もしこの銀河がビッグバンから10億年ほど後の宇宙にあったら、私たちにはどう見えるかをシミュレーションしたのです。

結果、渦巻きの腕は暗すぎて見えなくなり、残ったのは中心の明るい核だけ。それは、ほかの「小さな赤い点」と見分けがつかない姿でした。

上の図のように、同じ天体でも、近くにあれば渦巻銀河、遠くにあればただの赤い点に見えてしまう。つまり「小さな赤い点」は、宇宙の初期だけに存在した特別な一族ではなく、超巨大ブラックホールが活発な時期を迎えた銀河の一時的な段階を、遠すぎて中心部しか見えない状態で眺めているだけかもしれない——それが今回の提案です。Rinaldi氏は、「小さな赤い点」は点どころではなくずっと複雑なもので、超巨大ブラックホールが周囲と関わり合う姿の氷山の一角にすぎない、と表現しています。

この筋書きなら、120億年前ごろの数の激減にも説明がつきます。消えたのではなく、周りの銀河が育って見えるようになり、「点」には見えなくなっただけかもしれないのです。私たちの天の川銀河も、かつては「小さな赤い点」だった可能性すらあります。

一つの銀河が示した筋書きと残る課題

ただし、注意しておきたいことがあります。今回見つかったのは、あくまで1個の銀河です。サボテンが「小さな赤い点」全体を代表しているとは限らない、と研究チーム自身も述べています。ブラックホール星説や球状星団説が否定されたわけでもありません。正体の候補に、有力な第3の筋書きが加わった、というのが正確なところです。

それでも、この発見の意味は小さくありません。「正体不明のものを、育った後の姿から逆算する」という道筋が初めて具体的に示されたからです。実は今年に入って、132億〜122億年前の「小さな赤い点」の1つ(3DHST-AEGIS-12014)からX線が漏れ出しているのが見つかったという報告もありました。サボテンはそれより十数億年後の姿で、成長の段階が少し先に進んだものと見ることもできます。点と点が、少しずつ線になり始めているのです。

研究チームは今後、サボテンに似た銀河を「近く」の宇宙でさらに探すとともに、ウェッブ望遠鏡の膨大な観測データから「小さな赤い点」の一覧を作り、環境が成長にどう影響するかを調べる計画です。物語の始まり——そもそもどうやって生まれるのか——はまだ謎のままですが、真ん中と終わりの章は、少しずつ形が見え始めています。

出典

NASAの発表:NASA Webb Explores Family Tree of Newly Discovered Distant Objects(2026年7月29日)

論文:Rinaldi et al., “Beyond the Dot: An LRD-like Nucleus at the Heart of an IR-bright Galaxy and its Implications for High-redshift LRDs”, The Astrophysical Journal(2026年7月29日)

解説記事:Space.com(2026年8月7日)

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