火星ヘリが羽織る「小さなマント」の正体——布のアンテナで地下5mの氷を探す

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NASAが2028年の打ち上げを目指している火星ミッション「SkyFall(スカイフォール)」は、小型のヘリコプター3機を火星に送り込み、地下に眠る氷を探す計画です。そのヘリコプターの試験映像が公開されたのですが、機体の後ろに布のようなものがひらりと垂れ下がっていて、まるで小さなマントを羽織っているように見えます。Space.comの記事では、そのまま「小さなマント(tiny capes)」と呼ばれていました。見た目はちょっとかわいらしいこの布、じつはただの飾りではなく、地下およそ5メートルまでを透かして見るためのレーダーアンテナです。

火星の地下に眠る氷と、その探し方

将来、人が火星に行くとしたら、まず必要になるのは水です。飲み水としてはもちろん、水を分解すれば酸素も作れますし、ロケットの燃料の材料にもなります。地球からぜんぶ運ぶのは重すぎて現実的ではないので、火星の現地で調達できるかどうかが、有人探査の計画を大きく左右します。

頼みの綱は、火星の地下に眠っている氷です。火星のまわりを回る探査機のレーダー観測で、地下の深いところに厚い氷の層があることはすでに分かっています。ところが、軌道上からのレーダーには弱点があります。地表からほんの数メートルの浅い層——つまり、宇宙飛行士がシャベルや掘削機で実際に手が届く範囲——が、ほとんど見えないのです。乾いた砂の層がどの深さで氷に変わるのか。人が使うことを考えると一番知りたいその部分が、これまでの観測では空白のままでした。

浅い氷を見つけるには、地面のすぐ近くまで降りてレーダーを当てるしかありません。SkyFallの地中レーダー担当科学者エイドリアン・タン氏(NASAジェット推進研究所)は、低く、ゆっくり飛ぶことで、乾いた土が氷に変わる境目の細かい層まで見分けられると説明しています。ヘリコプターなら、探査車が入れない地形の上も飛び越えて、広い範囲を調べられます。

アンテナ48センチと、機体の下のすき間15センチ

ただ、この計画にはひとつ大きな矛盾がありました。地中レーダーは、電波を地面に撃ち込み、跳ね返ってくるまでの時間や強さから地下の層を読み取る装置です。SkyFallのレーダーは500〜2500メガヘルツという幅広い周波数を使います。波長の長い電波は深くまで届き、波長の短い電波は浅い層を細かく描き出す——両方を組み合わせて、地下の断面図を作る仕組みです。

問題はアンテナの大きさです。この周波数帯をカバーする普通のアンテナを作ると、長さ約48センチになり、しかも地面がよく見えるように機体の下へ突き出しておく必要があります。ところがSkyFallのヘリコプターは小さく、着陸したとき胴体の下面と地面のすき間はわずか15センチほどしかありません。48センチのアンテナを下に付けたら、着陸のたびに地面に激突して折れてしまいます。かといってアンテナを小さくすれば、レーダーとして役に立たない。硬くて長いアンテナと、地面すれすれの小さな機体。この組み合わせは、どうやっても成立しないように見えます。

曲がることで壊れない布のアンテナ

JPLの技術者たちが出した答えは、発想の逆転でした。壊れないように硬く頑丈にするのではなく、布のように柔らかくして、着陸のときは曲がって受け流す。そして飛び立ったら、ばねの力でぱたんと元の形に跳ね起きる。つまり、曲がるからこそ壊れないアンテナです。

採用されたのは「ヴィヴァルディアンテナ」という形式です。1本の切れ込みが先に向かってラッパのように広がっていく平たいアンテナで、幅広い周波数の電波を連続して送受信できるのが特長。その曲線がバイオリンを思わせることから、発明者が作曲家ヴィヴァルディにちなんで名付けました。平らで軽いので、金属をまとわせた布に切り出せる——ここが今回の設計にぴったりでした。さらにSkyFallのレーダーは深さ5メートルまでの浅い探査に絞ってあり、火星の乾いた土は地球の土より電波を通しやすいため、感度を保ったままアンテナを小型化する余地がありました。

布に仕立てたアンテナは、ポリエステルと、その上に重ねたVectran(ベクトラン)という繊維で覆われています。ベクトランは柔らかいのに極めて強い素材で、2004年に火星探査車スピリットとオポチュニティを着陸させたエアバッグにも使われた実績があります。形を保つ骨組みには、曲がるガラス繊維のテープばねが入っています。金属の巻き尺を思い浮かべてください。くるくる丸められるのに、伸ばすとぴんと張って自立する、あの性質です。マウント部分は軽いマグネシウム製で、全体の重さは約150グラム(5オンス)。NASAの発表によれば、バイオリンの弓2本よりわずかに重い程度です。

それでも、機械設計担当のクリスティン・ゲバラ氏によると、小型化したアンテナはヘリコプターの脚より1.5倍ほど長いままだそうです。着陸のたびに曲がって逃げ、岩の上に降りればさらに深く曲がる。そして次の飛行では、また元の形に戻ってレーダー観測をこなす。SkyFallは何十回も飛行を重ねる計画なので、この曲げ伸ばしに何度耐えても形がくずれないことが、アンテナの生命線になります。

着陸200回ぶんの試験と残る関門

その耐久性を確かめる試験が、JPLの環境試験施設で行われました。まずアンテナを、火星での飛行後に起こりうる曲がった状態にして、火星の昼夜を再現した激しい温度変化にさらします。火星では1日の寒暖差が最大94℃にもなります。そのうえで、着陸を何十回も繰り返したのと同じようにアンテナを曲げ続け、途中6回、電波試験室に運んでレーダーの送受信性能が落ちていないかを確認しました。アンテナを逆さ吊りにして、火星の重力(地球の約3分の1)よりずっと強い負荷をかけた状態での信号試験も行われています。

結果、アンテナは200回ぶんの火星着陸に相当する曲げ伸ばしに耐え、性能はまったく落ちませんでした。これは本来のミッションで想定される着陸回数の2倍以上です。タン氏は、確認すべき項目をすべてクリアし、最大の技術的な疑問に答えが出た、と述べています。

ただし、注意しておきたいのは、これはあくまで地上での試験だということです。SkyFallはまだ火星を飛んでいませんし、アンテナが正式な飛行認定を受けるまでには、まだ作業が残っているとタン氏自身が認めています。チームは次の段階として、振動試験や火星環境を模した展開試験、JPLの屋外試験場「Mars Yard」での実地試験に向けたエンジニアリングモデルの製作を進めています。

SkyFallの3機のヘリコプターには、地中レーダーを含めて各機4台の科学機器が載る予定です。手本になっているのは、2021年に火星で人類初の動力飛行をやってのけた小型ヘリコプター「インジェニュイティ」。約3年で72回も飛び、火星の薄い大気でも飛行できることと、空からの視点が探査に役立つことを証明しました。SkyFallはその次の一手として、飛ぶこと自体ではなく、飛んで何を調べるかに軸足を移したミッションといえます。打ち上げは2028年後半、NASAの宇宙機「Space Reactor-1 Freedom」に搭載される予定です。マントを羽織った小さなヘリコプターが火星の空を飛ぶ日が来るのか、続報を待ちたいところです。

出典

この記事は、NASAジェット推進研究所のプレスリリース(2026年8月6日)と、Space.comの記事(2026年8月7日)をもとに執筆しました。

NASA Tests Featherweight Radar Antenna for SkyFall Mars Helicopters(NASA JPL)

NASA’s SkyFall Mars helicopters will wear tiny capes(Space.com)

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