レジ袋と同じプラスチックから、リサイクルできる伸縮糸が生まれた

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牛乳ボトルやレジ袋に使われている、ごくありふれたプラスチック。それと同じ系統の素材だけで、スパンデックス並みに伸び縮みする糸を作った——そんな研究を、MIT(マサチューセッツ工科大学)機械工学科のチームが発表しました。糸の詳細は2026年7月、アメリカ化学会の学術誌ACS Materials Lettersに掲載されています。

伸びる糸なら、すでに世の中にあふれています。それでもこの糸がニュースになるのは、「溶かして、紡ぎ直して、また使える」からです。実は、いま私たちが着ている伸縮性のある服のほとんどは、リサイクルがほぼ不可能です。なぜそうなってしまったのか、そして今回の糸は何が違うのか。順番に見ていきます。

伸縮衣類がリサイクルできない理由

レギンス、水着、スポーツウェア、ジーンズのストレッチ素材。伸び縮みする衣類には、ほぼ例外なくスパンデックス(ポリウレタン系の弾性繊維)が入っています。研究チームによれば、アメリカ市場に出回る繊維製品の80%が、何らかの形でスパンデックスを含んでいるそうです。

スパンデックスはよく伸びる代わりに、それ自体はあまり強くありません。そこで市販の伸縮糸は、スパンデックスの芯(しん)のまわりに、丈夫なポリエステルやナイロンの繊維を鞘(さや)として巻きつけた二重構造になっています。柔らかい芯が伸び縮みを担当し、硬い鞘が強度を担当する。この組み合わせのおかげで、伸びるのに破れにくい生地が作れるわけです。

ところが、この「組み合わせ」こそが、リサイクルの世界では致命傷になります。ポリウレタンとポリエステルは化学的に別物なので、まとめて溶かして再利用することができません。リサイクルするにはまず芯と鞘を化学的に分離する必要がありますが、その処理にはコストがかかるうえ、環境に有害な薬品を使うことが多い。結果として、伸縮性のある服のほとんどは、分別されることなくそのまま捨てられています。アメリカでは1人あたり年間約81ポンド(約37kg)の衣類が捨てられ、埋め立てや焼却に回る繊維製品は年間1,100万トンを超えるといいます。

つまり、伸縮衣類がリサイクルできないのは、素材の性能が足りないからではありません。性質の違う素材を混ぜてしまったから、あとから分けられなくなっているのです。

ポリエチレンという意外な候補

ここで登場するのがポリエチレンです。レジ袋、ボトル、ゴミ箱、おもちゃ、工業用パイプ——世界でいちばん大量に使われているプラスチックで、熱を加えると溶けて、冷えると固まる「熱可塑性(ねつかそせい)」という性質を持っています。溶かして作り直せるので、リサイクルとの相性はもともと良い素材です。

ただ、ポリエチレンが衣類の素材として真剣に検討されることは、これまでほとんどありませんでした。今回のチームを率いるSvetlana Boriskina氏のグループは、2021年にポリエチレンから糸を紡いで衣類に織り上げる研究を発表しており、そのときは吸湿速乾性や汚れにくさ、冷感といった性質に注目していました。ここまでが前段です。当時の糸には、伸縮性という大きなピースが欠けていました。

芯も鞘もポリエチレンで統一した新しい糸

新しい研究でチームが取り組んだのは、「スパンデックス糸の二重構造を、ポリエチレン一族だけで再現する」ことでした。

ポリエチレンとひとくちに言っても、分子の鎖の枝分かれや並び方を変えると、性質は大きく変わります。チームは科学文献と工業レポートを調べ上げ、柔らかくよく伸びるタイプ(オレフィンブロック共重合体)を芯に、硬くて強いタイプを鞘に選びました。役割の違う2つの繊維を使うのは市販の伸縮糸と同じ。ただし今回は、どちらも同じポリエチレンの仲間です。

作り方は驚くほどシンプルです。樹脂のペレット(小さな粒)をホッパーに入れ、約350°F(約177℃)に加熱して溶かし、細い口から押し出して髪の毛ほどの細さの繊維にする。筆頭著者のSeongHyeon Kim氏は、この工程を「スパゲッティマシンみたいなもの」と表現しています。あとは工業用の撚糸機(ねんしき)で、鞘の繊維を芯のまわりに巻きつければ、コイルばねのように伸び縮みする糸のできあがりです。

芯と鞘が同じ化学系統だと、何がうれしいのか。分離せずに、丸ごと溶かせるのです。役目を終えた糸はそのまま溶かして、新しい糸や、ボタン・バックルなどのプラスチック製品に作り直せます。混ぜなければ、分けなくていい——今回の研究の核心は、この一点に尽きます。

10回の溶融・再紡糸試験と市販糸との比較

言葉で「リサイクルできる」と言うのは簡単です。チームはそれを実験で示しました。芯と鞘を撚り合わせた糸を丸ごと溶かし、紡ぎ直す。これを10回繰り返したのです。各回ごとに糸を切れるまで引っ張り、耐えられる力を測定したところ、10回リサイクルした後の糸も、元の鞘糸と同等の強度を保っていました。芯と鞘の素材が混ざり合って溶けても、分離や性能低下が起きなかったことになります。溶かし直した材料は、新しく紡いだ弾性芯に巻きつける鞘として、そのまま次の伸縮糸に使えるそうです。

性能面でも、この糸は健闘しています。論文によれば、完成した糸は市販のPET(ポリエステル)–スパンデックス糸の機械的性能を上回ったとのこと。伸びの見た目も市販品とほぼ変わらず、MITが公開した比較映像では、ピンセットで引っ張られた2本の糸が同じように伸びています。

実用化までの距離

期待が持てる結果ですが、この糸はまだ実験室の段階です。Boriskina氏自身、「編んだり織ったりできるものができた。それが次の段階だ」と語っており、実際の衣類に仕立てて着る・洗う・回収するという循環を回したわけではありません。10回のリサイクル試験も、あくまで実験室で溶かして紡ぎ直した結果です。

比較されたデータにも注意が必要です。市販糸を上回ったと確認されているのは、切れるまでに耐えられる力を軸にした機械的性能で、衣類として大事な他の性質——繰り返し伸ばしたときの回復性、長期の耐久性、肌触り、染色のしやすさ——については、まだ公開されたデータがありません。チームは工業サイズの糸巻きに量産できる見込みだとしていますが、既存の縫製や染色の工程にそのまま乗るのかも、これから確かめられていく部分です。

それでも、この研究が示した設計思想には意味があります。「捨てるときのことを考えて、最初から素材を1種類に絞って作る」。リサイクル技術を後から頑張るのではなく、分ける必要のないものを最初から作ってしまう。ポリエチレンは世界中にリサイクルの仕組みがすでにある素材なので、この糸で作った服は、既存の回収の流れに合流できる可能性があります。クローゼットの服が資源ゴミの日に出せるようになる未来は、まだ遠いとしても、その入り口は見えてきたのかもしれません。

出典

この記事は、以下の一次情報をもとに書いています。

MITプレスリリース:MIT engineers design recyclable elastic yarn(MIT News・2026年7月27日)

論文:Polyethylene-Based Thermo-Mechanically Recyclable Stretchable Yarns for Circular Sustainable Textiles(ACS Materials Letters・2026年)

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